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ケモノ目見聞記  作者: 高宮竜多朗
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ビーストクォーター

遅くなりました。

 飛び込んできた少女は、その視界にネイトを見つけると、部屋に飛び込んできた勢いをそのままに、ネイトに詰め寄る。

 その勢いに気圧されながらもネイトは、その少女に疑問を投げかける。

「シャ、シャノ(ねぇ)、どうしたの?」

 ネイトにシャノ(ねぇ)と呼ばれた少女シャノンは、その勢いに引き気味のネイトの様子に構う事なく、ガシっと力強くネイトの肩を掴み、ネイトの瞳を真っすぐに見つめる。

 これまでの勢いとシッポの様子から、シャノンが怒っているのは判るのだが、身に覚えがない為、その勢いに流されることしか出来ない。

 このシャノンという少女は、ネイトの二つ程年上の少女である。

18という年齢はこの世界では青年と見做されるのだが、ネイトと同じく、ここでは現代日本の価値観に合わせて少女と呼称しよう。

彼女は、ネイトの育ての親であるバイスと、その妻である人間の女性の間に生まれた、ビーストクォーターと呼ばれる存在だ。

腰のあたりまで伸ばした黒い髪に、小動物を思わせる瞳。顔は全体的に整っており、美少女と呼ばれる部類の顔立ちである。身長は女性の平均くらいだが、ネイトと同じく山で狩りをして生活している為か、スタイルも良く、出るとこは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。そんなシャノンの外見はほとんどが人間にみえるが、人間の耳がある筈の場所には横に突き出すように、父親であるバイスと同じ黒いネコミミがあり、人間の尾骶骨ある場所からは黒い毛が特徴的な細長いシッポが生えている。

 この世界には様々な種族がいるが、その中でも人間は全ての種族と子供を作ることが出来る。

 エルフと人間が子供を為せば、両方の特徴を半々で受け継いだハーフエルフが生まれ、ドワーフと人間ならば、同じく両方の特徴を半々で受け継いだハーフドワーフが生まれる。他の種族と人間が子供を成しても大体同じようになる。

 しかし不思議な事に人間以外は同種族間でしか、子供を作ることが出来ない。エルフとドワーフ、獣人とダークエルフといった組み合わせでは子供ができないのだ。その理由は分かっていない。実はもう一つだけ、人間以外の種族と交配して子供を成す事が出来る種族がいる。その事実はこの世界でもよく知られているのだが、その事は今は置いておく。

 さて話を戻そう。

 何故シャノンがネイトに詰め寄っているかだ。

「ネイ君、女を攫ってきたって本当!?」

 どうやらシャノンはネイトが、女性を連れてきた事を、攫ってきたと聞いているようだ。

 バイスにシャノンと立て続けに自分が人攫いをしてきたと言われ、自分はそんな鬼畜野郎と思われているのかと、ネイトは少し落ち込む。

「シャノ姉、落ち着いて。」

「ネイ君はそんな事しないよね!わたし、ネイ君の事、信じていいんだよね!ね!!」

 気が動転しているようで、ネイトの言葉は彼女の耳に入っていないようだ。

「シャノン、少し落ち着き・・・」

「パパは黙ってて!!」

 流石に、半狂乱になりながらネイトに詰め寄る娘を見兼ねたバイスが、シャノンを諫めようとするも、シャノンの振り向きながら放ったドラゴンをも射殺しそうな眼力と、一喝で閉口してしまう。

「大丈夫だよ、ネイ君。お姉ちゃん、ネイ君の事、信じてるから。」

 ゆっくりとネイトに視線を戻しながら、まるで自分自身に言い聞かせるように、シャノンは言葉を紡ぐ。

「いや、シャノ姉、俺の話を聞いて。お願いだから。」

 バイスを一喝したことで、気が静まったのか、穏やかになったシャノンに、ここしかないとネイトは、これまでの経緯を説明し、シャノンの聞いた話は誤解だという事を告げる。

「そっか、大丈夫、お姉ちゃん、分かってたから。」

 半分以上疑ってたよね?とネイトは心の中で呟く。

「でもごめんね、疑うような事言って。」

そう言ってシャノンは前屈みになると手を伸ばし、イスに座っているネイトの頭を優しく撫でる。

「や、やめてくれよ・・・シャノ姉。」

 昔からシャノンはネイトの事を、子ども扱いするところがある。

 それをされるネイトの方は、いつまでも子供扱いされる事に若干煩わしいと思いながらも、認めるのは少し癪だが、頭を撫でられるその感触が心地いいのと、前屈みになる為服の胸元から見える谷間を拝む事が出来るので、まあいいかと思い、この状況を受け入れていた。

(やっぱでかいな。)

 状況を楽しみながらも複雑な視線を二人に向けるバイスを尻目に、ふとネイトは思う。

(でかいといえば・・・)

 ふとネイトは自分の罠に引っ掛かっていた金髪の女性を思い出す。

 状況が状況だっただけに、動転していて気が付かなかったが、思い返してみるとあの金髪の女性は大きかった気がするのだ。胸元ではなく、身長が。

 ネイトは男性の平均的くらいの身長だが、金髪の女性の身長は、そのネイトと同じくらいの背丈だった。

 この世界でも、身長や体格には男女差がある。普通は男性の方が、身長が高くなりやすい。

現にこの村の女性でネイトより、背が高い女性はおらず、女性の平均身長くらいのシャノンも、ネイトと並んだ場合、ネイトの鼻の辺りにシャノンの頭頂部がくるという身長差だ。

 そう考えると、あの女性は異様に身長が高いという事になる。

 そんな物思いにネイトが耽っていた時である。コンコン、とシャノンが開け放ったままだった扉を誰かがノックする。

 三人がそちらに目を向けると、そこには一人の人間の男が立っていた。

 彼の名はレイス。この村の村長の一人息子である。

「ネイト、来い。親父が呼んでる。」

 予想はしていたが、やっぱそうなるよな、と若干うなだれながら、ネイトは立ち上がると心配そうにネイトを見るバイスとシャノンを尻目にレイスの後に続く。

 あんなものを村に持ち込んだのだ。レイスはただ来いといったが、要件は分かっている。

 村会議だ。


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