代表者会議
遅くなってしまい申し訳ありません。
この村にある一番大きい家である村長宅。
今そこにはこの村の様々な代表が集まっていた。彼等は皆村長を真ん中に半円を描くように座っている。
レイスに連れられ部屋に入ったネイトは、村長の正面であり、半円の中央に座るよう村長に促される。
声もなくただ向けられる視線というのは嫌なものだ。ネイトは居心地の悪さを感じながらも集まった人々を見渡す。
ネイトの正面に座るのが村長だ。
その右隣にはその息子のレイス。彼がこの場所にいる理由は、村長の息子で次期村長であると同時に、この村の自警団の代表でもあるからだ。
村長の左隣にはこの村唯一の鍛冶師であり、犬の獣人の男性であるビルス。
ビルスの隣には酒蔵の主であるギルマール。
この村にはかなり小さいが一つだけ酒蔵がある。山中にあるこの村にとって酒は数少ない娯楽のひとつであり、酒の有無によって村人のモチベーションも変わる為、酒蔵の主である彼も、村の代表の一人として数えられていた。
そして最後に、ネイトはギルマールの向かいにいる人物に視線を向ける。
そこにいるのは人間の男性だ。年は30程。高い身長の割に細身だが、それは必要最低限の筋肉しかない為であり、見た目に反して力は強い。彼の傍らには鞘に入ったサーベルと松葉杖が横たえられている。
彼の名はローグ。村の自警団達に武器の扱い等を教える顧問であり、村に外部からの問題が持ち込まれた時のアドバイザーとしても重宝されている男である。
彼は十年前に外からこの村にやってきた。その時の出来事で、右足が不自由になっており生活する上で、松葉杖が欠かせなくなっている。
ネイトは自警団には所属していないのだが、個人的に彼から弓と剣術を習っており、ローグはネイトにとって師匠のような存在だ。その為彼がこの場にいる事に安心感を覚える。
「さてネイトよ、此度の客人を連れ込んだ経緯を教えてもらえぬか?」
疑問形ではあるがその声には有無を言わせぬ響きがある。
まるで自分が犯罪者かのように問い詰める口調に不快感を覚えながらも、ネイトは事の経緯を話す。
ネイトの話が終わるとその場に沈黙が漂う。皆それぞれに思案しているらしい。ネイトが連れてきた招かれざる客人の処遇。村の安寧。誰もが口を開かぬ中、村長が沈黙を破る。
「皆の意見が聞きたい。皆どう思う?」
その言葉に即座にレイスが反応する。
「決まっている、村の事を外部に知られない為に今すぐ殺すべきだ!!」
しかし過激な主張をするレイスをビルスが諫める。
「それはあまりにも早計だろう。彼女がこの村の害になると決まったわけではない。」
人間であるレイスが同族である人間を殺せと主張し、獣人であるビルスがそれを諫めるという奇妙な状況。
レイスは元々過激で横暴なところがあるが、次期村長として、自警団代表として村に入り込んだ異分子を排除しようとする彼の主張は間違っていない。
逆にビルスが慎重にいくべきだと判断したのはこの場にいる者達にとっては以外だった。
十年前にローグがこの村に来た時は、彼は強硬にローグを殺すべきだと主張していたからである。
「俺も、あの女は殺すべきだと思う。」
ギルマールはレイスと同意見だ。
そして全員の視線がまだ発言していないローグに集まる。
「私は彼女を殺すべきではないと、今は思います。」
「何故だ!さっさと殺してしまえば終わる問題だろ!?」
ローグに強く反発し思わず立ち上がりながら叫ぶレイス。
「黙らぬか。ローグの意見はまだ途中じゃ。」
父である村長に諫められ、レイスは渋々ながら座りなおす。
「理由はあの女性が高い身分の可能性があるからです。」
レイスの言葉にその場の全員が疑問符を浮かべる。何故身分が高いと困るのか、そもそも何を根拠に身分が高いと思ったのか。
「まず、あの女性の身分が高いと判断した理由から説明します。」
そういってローグはその場にいる全員を見渡すと、一息入れて話し始める。
「まずあの女性の身長です。あの人は女性のわりに妙に身長が高い。」
その言葉にネイトは自宅での疑問を思い出す。女性の身長に関してはネイトも気になっていた事だ。
「個人差はありますが、基本的には男性の方が身長は高くなりますが、貴族や有力な商人のように高い身分の人々は食事の質が良く、食べる量も多いです。その結果、身分の低い人々に比べると体格が良くなります。」
貴族や豪商は一日三食、満腹になるまで食べることが出来るのに対して、低い身分の人間は一日二食が基本であり、腹いっぱい食べられるときなんてほとんど無い。酷いときには一日何も食べないという事もある。そんな両者の食料事情の違いにより、両者には明確といってもいい程の体格差が出来る。
そう考えると男性の平均身長程の身の丈であるネイトと同程度の身長を持つ女性を、ローグが高い身分の人物だと判断したのは当然といえた。
「それに身に着けていた衣服もそれなりに良いものでした。」
ローグはもう一つの理由として衣服に関して付け加える。
(衣服?)
あまり着る物に頓着しないネイトにとって、ローグの意見はピンと来るものでは無かった。
この村では布は貴重品であり、服をえり好みする余裕などない。服とは外気から身を守り、体の大事な部分を覆うための物というのがこの村の常識であり、衣服に気を使う者はほぼ皆無だ。この村で見なりに気をつけるのは、余所に行く事がある村長と、その付き添いの者ぐらいだろう。
実際この場にいた者達は身なりというローグの指摘に、村長以外はいまいちピンと来ないらしく微妙な反応だ。
「もしあの女が身分の高いとして、殺さない理由にはならないだろう。」
やや、勝ち誇ったようにレイスが言う。
レイスは自分が村長の息子だという事を鼻にかけており、自分の意見が全てにおいて優先されるべきだと思っている。流石にそれを声高に言ったりする事はないが、村の者達はそんな彼の内心を見透かしていた。
やや大げさに聞こえるかもしれないが、王政の国では王が一番偉く、王の発言が優先されるように、外界との交流がほとんど無いこの小さな村は、一つの国として完成しており、村で一番偉い村長は、村の中では王同然の権力を持っている。
次期村長であるレイスは現村長には及ばないものの、その次に強い発言力を持っている。
そんな彼が先程勝ち誇ったように発言したのも、この場で多く意見を述べているローグを論破したと確信したからだろう。自分の発言をローグに否定された事がよっぽど面白くないらしい。
「その理由を今から話す。だから落ち着け。」
若干言葉を荒げてローグはレイスを諫める。
基本的にこういう場では丁寧語でローグは話す。その彼が言葉を荒げ、命令口調で発言した事にネイトはやや驚く。
だがそれ以上に、ローグの発言に反応したのがレイスだ。命令されたことが、よっぽど彼の癪に障ったのか、思わず立ち上がりローグに詰め寄ろうとしている。
「レイス、座らぬか。」
そのレイスを有無言わせぬ言葉で村長が先程と同じく諫める。しかし、先程よりも言葉に迫力がある。村長も若干、息子の態度に苛ついているのかもしれない。
「親父!けどよ・・・」
「ローグは最初に客人を殺さぬ方が良い理由を話すと言っておる。お主は次の村長として他者の意見を最後まで聞かんといかんぞ。」
尚もローグに詰め寄ろうとするレイスを、先程の威圧するのとは逆に、諭すようにして村長は息子を諫める。
その言葉を受け渋々ながらもレイスは座りなおす。流石のレイスも、次期村長として諭されては、引き下がらざるを得ないらしい。
「すまんの、ローグ。続きを」
ローグは頷くと説明を始める。
「理由は単純です。身分が高い人物を殺したことがばれれば、高い確率でその身内が報復を仕掛けるでしょう。もしそうなれば、十年前のように逃げればいいとはなりません。我々を皆殺しにするまで、追ってくるでしょう。」
十年前のようにはいかない、という言葉に、発言したローグ以外の者達が動揺し、思わずネイトも息を飲む。
実はこの村の歴史はそこそこ長いのだが、村は元々別の場所にあったのだ。しかし十年前の出来事により、今の場所に移住する事を余儀なくされたのだ。
十年という歳月は決して短くない。しかしネイトは、村の人々はその時の事を、鮮明に思い出すことが出来る。
ローグの言葉を聴いたネイトは、十年前の事を思い出していた。
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