2:薬
ガラス容器の中で、こぽりこぽりと泡を立てる緑の液体を、ムーシャはじっと眺めていた。
「……そんなにじっと見られても、すぐにはできぬよ」
ケムルが苦笑して言ったが、それでも目が離せない。
「これって、何が入っているんですか?」
ムーシャが起きてきたときには、すでにこの緑色の液が泡を盛んに出していたのだ。これがリゼリアとアルトの為の薬だと、ケムルから聞いてから、ずっとムーシャは容器の前に立っているのだった。
「サクシュマリクスコと、マンドラゴリムと、……」
すらすらと述べられた物の名前は、ムーシャにはさっぱり分からなかったが、泡を出している正体は分かった。
「え、金入ってるの!?」
黄金都市は、何処も彼処も純金製の物で溢れかえっている。逆に金しかない。それにしても、薬に金を入れるとは。
「金とは言っても、唯の金に非ず。此処の金は特別なのだ」
ケムルの細い指で以って、きらきらと輝く粉が薬へと入れられる。
「……それは?」
「竜の鱗。私のだ」
ムーシャは驚いて、数秒固まってしまった。良く見れば、ケムルの体に、皮を剥いだような痛たましい傷があるではないか。
「ケムル……大丈夫なの?」
ムーシャが思わず不安そうな声を上げると、ケムルは笑って言う。
「ムーシャは友達の心配をしていなさい」
そして、リゼリアとアルトの眠る部屋を指差す。
ムーシャがそこへ走り寄り、中へと入っていくのを、ケムルは哀しそうな目で見送った。
――いつも思ってたけど、やっぱり
とムーシャは思う。しみじみと。
リゼリアとアルトの顔は、整っているのだ。リゼリアときたら男っぽくて、アルトはヘタレなのであまり注目されなかったのだが。寝ていると唯の美男美女、である。
アルトが白騎士として人気があったのも、仕方がないな、とムーシャは思う。
二人の顔は、やはり青白い。寝返りも何もしないので、凄く不安だ。ムーシャは二人の呼気を確認して、近くの椅子にゆっくり座った。
二人の様子をじっと見ていたはずなのだが、いつの間にかうとうとしていたらしく、ケムルにそっと揺り起こされた。
「ムーシャ、薬ができたぞよ」
ムーシャがまだぼうっとしていると、ケムルは困った様に笑って、まだ部屋に入っていない二人を呼ぶ。
「サナル、アグ、入りなさい。……そこで喧嘩をされても、困る」
「様子は?」
入って早々、アグが尋ねた。
「分からぬ……これから薬を飲ませるが、まず飲んでくれるかどうか」
二人の喉が動くのかも微妙な所だ。その場合、初めに体に塗るしか、方法は無い。
「そうすると、また薬を作らねばならぬな……」
するとムーシャが、
「きっと二人は飲んでくれます。……ケムルさん、また痛い思いするなら」
二人は分かってくれる、と。
口には出さなかったが、サナルとアグは「それは楽観視し過ぎだ」と思った。しかし、今のムーシャにその言葉は過酷だろう。
彼女が信じているのは、二人が、寝ていても気を配れる、なんて所ではなくて、リゼリアとアルトの体力が、それくらいは残っているという事。信じていなければ、やってはいけない。
もう、自分を知っているのは、二人だけだから。アネルは第一位世界の人間だ。昔からの馴染みは、他にもういないのだから。
「……では、飲ませてみようか」
ケムルが穏やかな声を出した。すると、ムーシャの体から妙な力が抜ける。
「緊張し過ぎは、良くないのだよ?」
ムーシャの為に、ケムルは言った。彼女の声には、安心感があるのだ。
「ありがとう」
小さな声でお礼を言うムーシャ。彼女に一つ頷いて、ケムルは薬をアルトの口に注ぎ入れた。




