38:痛快
「<武国>が大嫌いだ。<武国>の王様も大嫌いだ。騎士も嫌いだ。晩餐会も嫌いだ」
嫌い、嫌いと続けたアルトは、最後にすっと息を吸って、
「一番嫌いなのは、お前達だ。いっつも客席でのんびり見やがって何様のつもりなんだよ? お前達を<武国>の外で見つけて、助けるのがいっつも嫌だった!」
ムーシャがひく、と安定しない呼吸を続けている。彼に気圧され、リゼリアも声が出ない。
こんな事を言うやつだったか、アルトは。
「俺がお前達を助けるのが当たり前、お前達が負けた相手を詰るのが当たり前、強い奴に頭下げてりゃ人生安泰? よくそれで、他の奴に死ねとか言えるな? 特に女子。いっつもこっちにすり寄って来て、気持ち悪かった!
もう、白騎士様だ勇者様だと呼ばれるのはうんざりだ!」
瞬間、彼の方からふっと力が抜けたような気がする。それだけ溜めこんでいたという事か。
「……さっさと出よう、この国」
ユウがぽつりと言った。それを期に、皆が互いに背中を押し合い、会場を出ようとする。
「……ま、待て! 先程の発言は、<武国>を侮辱している!」
王が慌てたようにリゼリア達を留めようとしたが――一体、これから何をするというのか。侮辱も何も、私達は反逆者とやらなんだから、別に暴言吐くのは普通じゃないか。
いつもへどもどしてばかりの幼馴染が、自分の意見をはっきり述べたので、リゼリアは少し機嫌が良かった。
そして、またアルトは反論するのだ。
「王? 俺、もうこの国に一分一秒も居たくないんです。コンマ一秒も無理です。待てと言われて待てるほど俺は気が長くありません」
嘘付け、とリゼリア達の誰もが思った。
「それに……ちょっと機嫌悪いんで、その勢いで鎌を振り回しちゃうかもなあ、とか思うんですけど、いいですか? なあ、リゼ?」
いきなり話を振られて、リゼリアは目をしばしばと瞬かせた。しかし、こんなに面白い寸劇――もうリゼリアにとっては寸劇だった――、乗らない手はない。
「……そうだなあ、今機嫌いいから、それを阻められると、ちょぉっと暴走しちゃうかも。ね、ユウ」
「洪水くらいは起こせるね。ムー姉は?」
ムーシャはこの手の冗談が通じないので、眉を寄せながら本気で答えた。
「えっと、すっごく怒ることになったら……あれかな、巨大な火の玉でも撃つかな」
瞬間、王も民衆も誰もかれもが、ドン引きした。悲鳴を上げて逃げ出した者もいる。闘技場サイズの火の玉をまた撃たれたら、<武国>は一瞬にしておじゃんである。
「アネルは?」
にやにやしながらリゼリアは話を回す。
「私に聞くか、それを。……そうだな、奴隷達に、鍵の在処と宝物庫と武器庫の場所を教えよう」
王宮の事情を知っているアネルだからこその脅し。サーガも、あのシャクルでさえも顔の血の気が引いたので、アネルはやってのけるだろう。実行する気はないのだが。
誰もが固まって、ただ様子を窺っている中、ひそひそと話し合い、やがてリゼリア達は。
「それでは、さようなら。<武国>の人達」
アルトの、鮮やかな笑顔を契機に、瞬時にして掻き消えた。
後には、ただ困惑する王達と、会場から出ようと押し合いへし合いする民衆のみ。
「……あっはははは! 最高! アル、最高っ」
「いった……殴るなって!?」
「リゼ、いつもに増して笑い上戸だね。機嫌いいねぇ」
「そう言うムー姉も、機嫌良さそうだけどね」
「楽しそうだな四人とも……っ!」
アネルが、流石にもう勘弁、といったジェスチャーをし、やがて五人は失速した。
「いやー、ありがとうねアネル!」
「別に、いいが……魔法は苦手だと、言ったろうに……」
アネルの風で、五人は一気に会場を走り抜け、そのまま通路を全力でダッシュした。今いるのは街の中。会場にほとんどの国民が集まっていた為に、人気は無かった。そのまま誰にも会わずに門にたどり着いた。
「……じゃあ、これからどうしようか」
リゼリアの言葉に、ユウが地図を広げて言う。
「今はここでしょ。……リゼ姉の勘だと、何処へ行けばいいの」
「おお、これが地図か。……今まで来たのは、ここら辺だね」
リゼリアが、地図を西から東へなぞる。そのまま指は<武国>を通り過ぎ、ぽん、とある一か所を叩いた。
「此処な気がする」
「俺もそう思う……」
リゼリアにアルトも同意したが、なんだか自信無さげである。アルト曰く、「これは闘神が教えてくれてるんじゃなく、単に勘だけ」だそうだ。カミだから分かるわけでもないらしい。
「というか、カミの勘だったら、僕が分かるはずじゃない」
「んー、でもね……いや、ちょい待ち」
リゼリアがぶんぶんと手を振って、話を打ち切る。ムーシャが暇そうにフードをもてあそび、アネルは訝しげにアルトを見ていたからだ。
「お前達の言う、神とは何だ?」
「……説明しづらいね」
カミ、もしくは宿っている三人は、顔を見合わせて首を振った。説明のしようが無い。
「なら、いい」
アネルがそう言ったので、三人はほっとした。




