6:散歩
白騎士が強調して言ったこと、そして彼のとても不機嫌な様子を見て、ようやく自分達が行ったことの意味に気付いたらしい。
「あ……これは、その……」
「違うんです、白騎士様ぁ……」
白騎士は何やら言いわけをしかける彼らを遮って、
「目障りだ。……さっさと仕事に戻れ」
そう言われて、委縮した彼らは小走りで逃げていく。
その場に、白騎士とユウ達だけになったとき。
「助けてくれて感謝します、勇者様」
ユウがそう言うと、彼の顔がぴくりと引き攣った。やはり勇者と呼ばれるのは苦手か。
「……すみませんね、こちらの者が」
「別に。ちょおっと殺されそうになっただけですから? ご多忙な勇者様こそお仕事に戻られてはどうでしょうか?」
「……気遣い感謝しますよ、ユウさん」
苦虫を噛み潰したような顔で、白騎士は言った。
彼は、城から出る時はこれをお持ち下さい、と言って、ユウに小さな白い石を渡す。そのまま立ち去った。
「お言葉通り、ちょっと街を見てみようか? どうせなら観光しようよ」
「……あ、うん」
ぼうっとしていたリゼリアが、曖昧に頷く。ああ、駄目だこりゃ。
ユウは、彼女と、同じくぼんやりしているムーシャの頬をつねった。
「いだだだ! 酷いってユウ!」
「ほれ行くぞー」
ユウはかつての餓死しかけの少女二人を引きずったように、今の二人を引っ張って行った。
……それにしても、白騎士。「リゼ達」って言ってたけど、自分で気付いているだろうか。
気付いていなくても、教えてやらない。ユウは口元に笑みを浮かべる。
「ユウの顔が邪悪なんだけど」
「え? 笑ってるのに」
問い返すと、リゼリアは深いため息をついた。
「邪悪な笑みってことだよ」
街は賑やかだった。……流血沙汰の方向で。
売っている物は肉ばかり、飛び交う者は怒号ばかり。少しばかり、一人だった孤児院のころが懐かしい。
「昼、食べようか」
ユウがそう提案すると、
「朝食べてないけどな」
「……バケモノ肉以外を所望します」
リゼリアとムーシャの返答は酷いものだった。どうしてくれようこの空気。
「ぇーと……あ、あそこに木彫りの熊が」
土産屋の置物を指させば、
「美味そうな鮭咥えてるなー……」
「鮭……魚こそ、正義……」
リゼリアは身も蓋もないことを口にし。ムーシャは訳が分からない。
「あれって、コロシアム? 妙な音しか聞こえてこないね」
黒いドームを見やれば、
「また殺し合いしてんのか……」
「懐かしき平和な時代……。はあ」
リゼリアは冷たい目でドームを睨み、ムーシャは遠い目をしてため息。
どうしてくれようこの空気。
「……あのさあ、白騎士のことが気になってるのはいいんだけどさ。こっちまで暗くなるから止めてくれない?」
少しきつい口調で言ってしまった。言われた二人はぐっと喉を詰まらせるようにして、
「ごめん」
とだけ一言。
「第二位世界とか、僕は知らないし。僕にとっては、ここは充分幸せだし」
言葉を続けると、リゼリアとムーシャの肩がみるみる縮んでいく。
ここまでしぼんでしまわれると、こちらが困る。
「リゼ姉とムー姉がそうしてると、寂しいから。いつもみたいに元気にしていてよ」
その言葉を聞いて、リゼリアはほっとしたように顔を緩ませ。ムーシャは目を丸くしている。
リゼリアはへにゃり、と笑って言う。
「ユウってときどき嬉しいこと言うよねえ」
そう言われて、自分の言葉を思い返す。少し恥ずかしくなった。
「……もういいでしょ。早く行こうよ、あの黒いドームに」
リゼリアがげんなりとする。
「ええー……。あそこは行きたくない」
「この国を知るために必要だよ~。ほれ行くぞ」
また二人を引きずって歩いた。




