1:ようこそ
9月8日、内容修正
果てが無いようなほど開けた平原。そこにぽつんと建つ一軒の家は、脇に小さな井戸がある。
一人の男の子が、井戸から水を汲み上げ、二つのコップにそれを注いで、二人の少女に渡そうとした。しかし、少女たちは息も絶え絶えである。コップを持つ気力も無い。
「どうしたの、お姉さん達」
「……どぉしたも、こしたも、あるかー……」
リゼリアが、かすれ声で答えた。
よく見ると、彼女の顔には無数の擦り傷があり、膝も擦り向けて血が滲んでいる。ムーシャも同じような状態だった。
「引きずって運ぶとか、ひっど……」
嘆くリゼリアに、男の子が一言。
「もともと悲惨だったから、いいじゃない。それより、水分取らないと、干からびた蛙みたいになるよ」
彼の言葉にざくざくと斬られて、リゼリアは沈没した。
なんとか水を飲んだ二人の少女は、男の子に質問しようとした。が。
「少しは顔色が良くなったね。蛙からナメクジくらいに」
「それって良くなったって言うの……?」
「もちろん」
「……」
リゼリアは、彼の言葉にいちいち反応しないことにした。気にしていたらきりが無い。
「それで、質問したいんだけど。ここはどこ? 君の名前は?」
「ここが何処だか分からないまま旅していたの? 馬鹿なの?
僕の名前は……一応リュウだよ」
「勘で旅してたんだから、仕方ないじゃない」
「勘……初めてだよ、そんなこと言った人」
男の子――リュウはくつくつと笑った。
「この家は、白いドーム状の国、<近未来>とか呼ばれてるとこから、西に1キロ離れてる」
この家以外には、平原に一つ建っているような建物は無い、とリュウは言った。
「なんで、その<近未来>とやらに住まないの?」
「本当に何も知らないんだね」
リュウは自分の髪の毛をいじりながら言った。
「僕の髪は青。院長さんの髪は黄色。太った男の子の髪は赤。やせ細った女の子の髪は緑」
彼が、少し顔を上げた。長い前髪から、暗い瞳が覗く。
「<近未来>の王の髪、白。左大臣の髪、黒。科学長の髪、灰色。学長の髪、白」
魔法が使える人は、人ではない。<近未来>の国の考えは、そういうものだった。
「だから、この家は、魔法が使えてしまう人のための施設。旅ができる年齢になると、大体<楽園サラダ>に行っちゃうから、国を追い出された子供の為の<孤児院>てとこかな」
それを聞いて、今まで黙っていたムーシャが呟く。
「くだらな……。 リュウ君、つまり私達は入れないのかな」
「旅人は、3日だけは入れるよ。居心地は悪いけどね」
そこまで話したところで、先ほど聞いた女性の声がした。
「ご、ごめんなさぁい! お客さんですかー? ……あれ、リュウ君?」
「院長さん。 後は任せたよ、お姉さん達お腹空いてるから」
それだけ言うと、リュウはどこかへいなくなった。
そんな男の子を、悲しげな目で見送った女性は、ぱっと明るい笑顔になって二人を迎える。
「ようこそ、いらっしゃい」




