08・誓い
デヴィットと想いが通じ合って、呪いをとく魔法作りにより力を入れようとした。でも、デヴィットもルーカスもテオも、私に無理をするなと気遣う。
自分達が頑丈な吸血鬼だから、人間の私が心配だそうだ。
デヴィットは、とても甘い甘い愛を注いでくれる。
照れてしまいすぎて、また家を青い薔薇で満たしてしまいそうになった。
私の持つ本では足りなくなって行き詰まった頃。
意外な訪問者が来た。
黒いコート。黒い黒い髪で、とても高い身長と美しい顔立ちの男の人。歳は30代前半に見えるが、もっと歳は上だということは知っている。
「お、お、お祖父様っ?」
数回しか会ったことがない祖父が、そこにいて心底驚いた。
いきなり訪ねてきたことに驚いたし、なにより家にいる吸血鬼達に気付いた時の反応が心配になる。
「クアドお祖父様、お久しぶりです」
「これを使え」
私はぎこちなく笑いかけるが、お祖父様は無表情のまま、一冊の本を渡した。
私が初めて見る魔術書。
「吸血鬼の呪いをとくまで、デヴィットと深い仲になるな」
ギクリ、と固まる。
吸血鬼がいると知っている。私が呪いをとこうとしていることも、デヴィットとの仲も。
耳をすましていたデヴィットが出てくるかどうかを迷っている。
「私の孫に呪いを移したら、容赦はしない」
それは間違いなく、デヴィットに向けられていた。釘をさした。
「メリアには決して噛みつきません。誓います」
瞬時にデヴィットが私の隣に立つ。
吸血鬼だって瞬殺できる力ある魔法使いと、恋人のデヴィットが向き合ってしまった。
「また来る」
もう用は済ませたと、クアドお祖父様は背を向ける。
道に出た途端、男の姿は消えた。代わりに見慣れた黒猫がテクテクと歩いていく。
私とデヴィットは、目を丸めて顔を合わせた。
時々来てくれたあの黒猫だ。
「オレが撫でた黒猫が……君の祖父かい?」
「……そう、だったみたい」
「君の祖父は若々しく……そして美しい黒猫か……」
「……そう、だったみたい」
毎日でなくとも、時々来てくれた黒猫。祖父は私を見に来てくれたんだ。吸血鬼がいると知り、足を運ぶ回数も増やしてくれた。
「愛されているんだね。よかった……」
安心した微笑みを浮かべながら、デヴィットは私の頬を撫でる。微笑み返したけれど、私はすぐに恥ずかしさを襲われた。
「お祖父様の前でキスした……」
「……何度もね」
黒猫達の前で、何度もデヴィットとキスをしてしまった。
「オレは嫌われたかな?」
デヴィットは苦笑を溢しながら、玄関の扉を閉じる。
「いいえ、祖父は別に嫌ってないわ。簡潔なの、いつも。それに、猫の姿では好意的だったわ」
言葉は簡潔。でも優しく魔術を教えてくれたことを覚えている。嫌いなら、追い返していたはずだ。
「……よかった。次来た時は、ゆっくりと話したいな」
デヴィットが意味深に呟いた気がした。
「ボクも挨拶してい? それはなぁに?」
テオが会話に入ると、すぐに私の持つ本に興味を示す。
「手掛かりよ。作業が進むわ」
私は笑顔で答えたあと、早速作業をしようとしたけれど、ルーカスに取り上げられた。
「休憩中だろ、休め」
この通りだ。
仕方なく、占いの休憩時間中は諦めた。占い業を終えてから、お祖父様の本を捲る。
それからも、お祖父様は2回ほど魔術書を持ってきてくれた。
デヴィット達の特徴を元に魔術をパズルのように合わせていき、吸血鬼の呪いを造り上げる。解き方も作った。
呪いをとくように頼まれてから、一ヶ月過ぎ。
完成させて、呪いを解いた。
長い年月を生きた影響を受けないようにするには苦労した。これから、また人間として老いることができる。
超人的な力も、呪いを移す牙も、血への渇望も、取り除けた。
ただ一つ。瞳の色を戻すことはできなかった。瞳孔は人間らしく丸くなって、輝きそうな美しい純金の瞳のまま。
三人は吸血鬼の名残が、これだけならいいと言った。
「お腹空いた!」
久しい空腹に襲われたらしく、人間に戻ってからのテオの開口一番がそれ。
私への礼よりも先に、デヴィットが傅いた。
「愛しい魔女メリア、ただの人間のオレと命の限り生きてくれるかい?」
大きなダイアのついた純金の指輪とともに差し出されたのは、結婚の申し込み。
私は喜んで抱きついたら、デヴィットは倒れてしまった。でも力一杯に抱き締めてくれる。
ルーカスはもちろん恋人の元に戻り、一緒に暮らした。
テオは暫く私の家に住んで、毎日料理をしてくれる。三人一緒に料理を堪能した。
その後、呪いをときたがる吸血鬼が次々と来たので、デヴィット達に吸血鬼と同等の力を魔術で与える。
デヴィットもテオも、暴力的な吸血鬼が手を上げることを心配してくれた。人間に戻っても、そこも全然変わらない。
家でこじんまりと結婚式をした。
ルーカスには恋人と一緒に庭を飾り付けしてもらい、テオも自慢の料理を振るってくれて、祖父と祖母も来てくれた。母も一応来たけれど、馴れ合うつもりがないみたいで、相手にしてもらえなかったデヴィット達は苦笑を漏らす。
デヴィットの要望で青い薔薇と白いベールで飾り付けた庭で、誓いをする。
「命の限り、あなたを愛します」
微笑み合いながら、誓いの口付けを交わした。
end
月一更新のつもりが、2年も放置しておりました。
これにて、ハッピーエンドです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
20151204