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悪役令嬢は離島めぐりがしたいので断罪を強く希望します  作者: 南蛇井


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第34話 選択

 第七島の朝。


 霧はなく、海は穏やかだった。


 嵐の爪痕も消え、巨木は変わらず立っている。


 まるで、すべてを見届けた証人のように。


 浜辺には小舟が用意されていた。


 王都へ戻る本船は沖合で待機している。


 ここから先は、決断の時間。


 リディエルは砂浜に立ち、水平線を見つめていた。


 背後から足音。


「決めたか?」


 ライベルトの声は静かだ。


 急かさない。


 だが、覚悟はある。


「ええ」


 リディエルは振り向く。


「選択ですわね」


 王都へ戻り、王太子妃として並ぶ未来。


 あるいは。


 単独で船を出し、さらに遠くの島々を巡る未来。


 どちらも可能。


 どちらも、自分の意思で選べる。


「私は」


 言葉を区切る。


 かつてなら、役割で選んだだろう。


 悪役だから拒絶。


 ヒロインだから成就。


 だが今は違う。


「わたくしは、旅を続けたい」


 ライベルトの瞳が揺れる。


「ですが」


 彼女は続ける。


「あなたと離れたいわけではありません」


 風が二人の間を通り抜ける。


「王都に戻れば、責務がございますわね」


「ああ」


「わたくしが隣に立てば、政治に縛られる」


「否定はしない」


「ですが、単独で巡れば」


 少し笑う。


「嵐のたびに心配させることになりますわ」


「それも否定しない」


 彼は真剣だ。


 逃げない。


 押しつけない。


「……困りましたわね」


 小さく呟く。


 どちらも正しい。


 どちらも間違いではない。


 ならば。


「第三の選択をいたします」


 ライベルトが眉を上げる。


「第三?」


「ええ」


 リディエルは一歩、彼に近づく。


「わたくしは島を巡ります」


「王都にも戻ります」


「どちらかではなく、両方」


「それは」


「定住しない妃、ということですわ」


 思いもよらぬ提案。


「王都に必要なときは戻る」


「辺境に必要なときは向かう」


「王都と島々を繋ぐ存在になる」


 静かに言い切る。


「制度は整いました」


「港も整備される」


「ならば可能ですわ」


 ライベルトはしばらく黙り込む。


 やがて、笑った。


「……前例がないな」


「作りましょう」


 さらりと返す。


「また国を変える気か」


「いいえ」


 首を横に振る。


「わたくしの生き方を、国に合わせさせるのです」


 強い瞳。


「わたくしは、誰かの物語に収まりません」


「王子の恋物語にも」


「孤高の冒険譚にも」


 真っ直ぐに彼を見る。


「ですが、あなたを選びます」


 静かな告白。


「共に歩むと選びます」


「ただし」


 少しだけ意地悪く。


「足並みは揃えませんわ」


 数秒の沈黙。


 そして、ライベルトは深く息を吐いた。


「……勝てないな」


「勝負でしたの?」


「最初からだ」


 彼は一歩踏み出し、彼女の手を取る。


「ならば私も選ぶ」


 力強く。


「王都を変え続ける」


「お前が戻る場所を、自由なままにする」


 指が絡む。


 嵐の中で支えた手。


 今は穏やかに重なる。


「保留は?」


「解除いたしますわ」


 わずかに頬が染まる。


「ですが、婚約発表は王都に戻ってから」


「相変わらず現実的だな」


「夢だけでは船は進みませんもの」


 海が光る。


 第七島は、ただそこにある。


 選択は終わった。


 王子と結ばれるか。


 単独で巡るか。


 答えはどちらでもない。


 自由のまま、共に在る。


 悪役令嬢は、ついに自分の未来を選んだ。


 物語の外で。


 そして物語の中で。


 新しい章が、静かに開かれる。

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