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【WEB版】無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
第二章

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23/67

23.お互い大変でしたね

タイトルスッキリさせました!

 殿下は続ける。


「所長が失踪した今、宮廷魔導具師の所長は不在だ。いつ戻るかわからない。そもそも戻れない状況だからな。新しい所長の選出が始まってる」

「は、はぁ……」

「そこで、俺としては君が適任なんじゃないかと思ってね」

「わ、私ですか!」


 大げさなリアクションをとる。

 私が所長に適任?

 そんなこと思ったこともないのに。


「所長の座にふさわしい人物は、この国でもっともその分野に精通している者。そして他が認める功績を持った者だ。君はどちらも当てはまる。適任だと思わないか?」

「い、いえ……私はまだまだ未熟なので」

「謙虚だな。けど、君のことを多くの人たちが認めている。今回の一件で君は俺の命を救った。君以上に資格がある者はいない」

「……」


 殿下が私のことを褒めてくれている。

 素直に嬉しい。

 認めてもらえることが。

 その言葉を、殿下の口から聞こえることが。

 胸がいっぱいになるほどに。

 でも、だからこそ考えてしまうことがある。


「も、もし……私が所長になったら……今の立場は……」

「その場合は、俺の直轄ではなくなるよ。宮廷魔導具師を治める者になる」

「……」


 所長になれば、殿下の傍では働けなくなる。

 それが……私には嫌だった。


「あの……我がままなことを言います」

「いいよ。君には大きな恩がある。君の願いを聞きたい」

「私は、今のままがいいです」


 もじもじと指を触り、低回しながら口を動かす。

 せっかく殿下が私の力を認めてくれて、所長にならないかと声をかけてくれている。

 その期待を裏切ることになるかもしれない。

 それでも私は――


「これからも、殿下のお傍で……殿下のお力になりたいと、思います」


 この人の傍を離れたくなかった。

 所長になる以上に、この居場所こそが私のオアシスであり理想郷なのだと。

 今離れてしまったら、二度と戻れない気がしたから。

 私は不遜を承知で本音を口にした。

 すると殿下は、気が抜けたように息を吐いて笑う。


「……ふっ、そうか」

「殿下?」

「じゃあ、仕方ないな」


 怒られることも覚悟していた。

 だけど殿下は清々しい表情で笑っている。

 まるで、こうなることを期待していたかのように。


「ならもう一人の候補にお願いしよう。副所長をしていたリドリア・マーケティン。彼女なら要領も把握しているだろう」

「……」

「なんだ? 俺が無理やり君に任せると思っていたか?」

「い、いえそんな! 殿下がそんなことをされるはずありません」


 誰より優しい方だ。

 私が嫌だと言ったら引き下がる。

 それはわかっていた。

 私が驚いているのは、なんだか嬉しそうな顔をしていることに。


「本音を言えば、君が断ってくれることを期待したんだ」

「え……」

「俺も、君にはこのまま傍にいてほしかった。ただの我がままだよ」

「殿下……」


 殿下も同じ気持ちだったらしい。

 それがどうしようもなく嬉しくて、胸の奥が熱くなる。

 押さえていないとはじけ飛びそうなくらい、心臓の鼓動がうるさくなる。


「そういう私情もあって、君には断ってほしかった。ただ、その場合は別でお願いしたいことがあるんだ」

「お願い、ですか?」

「ああ。新所長になるリドリアをしばらく補佐してほしい。今回は異例の昇格だ。急なことで本人も戸惑うだろうし、彼女はまだ若いからな」

「私が所長の仕事をお手伝いすればいいんですね」

「そういうことだ」


 私は喜んで引き受けた。

 殿下のお願いなら、なんでも聞きたいとすら思う。

 それ以外にも、ちょっと興味があった。

 私と同じように、前所長から仕事を押し付けられていた人物……リドリアさんがどんな人なのか。

 会ってみたいと思ったんだ。


  ◇◇◇


 所長部屋の椅子に座り、眼鏡をくいっとあげる。

 今回、新所長に任命されたリドリア・マーケティン。

 いかにも仕事ができそうな……落ち着いた雰囲気の彼女だが。


「はぁ~ なんで私がこんなこと……」


 中身はとってもナイーブだった。

 思わぬタイミングでの出世。

 喜ぶ者も多そうだが、彼女の場合は違う。

 任命されて直後に感じたのは、落胆だったという。


「所長なんて無理……また仕事が増える……」


 これまで数多くの仕事を押し付けられ、馬車馬のように働いていた彼女にとって、今以上の重圧を受ける立場など望んでいなかった。

 彼女の望みはただ一つ。


「……休みたい」


 奇しくもそれは、あの頃のフレアと同じだった。

 実は彼女、フレアが夜遅くまで仕事で宮廷に残っている間、普通に仕事をしていたのである。

 なぜ気づかなかったのか?

 その理由は、部屋の明かりを消していたから。

 暗いほうが落ち着くからと、意図的に明かりを消し、小さな蠟燭の火だけで仕事をしていた。

 

「あのおばさん本当に最悪だ……最後の最後まで私に仕事を残していくなんて」


 テーブルには前所長が放り投げた仕事の山。

 彼女はそれを見て、落胆したのだった。


 トントントン――


 扉をノックする音が響く。


「誰? ああ、そういえば補佐の人が来るんだっけ」


 誰かはまだ聞かされていない。

 彼女は扉に向かって、どうぞと一声かける。

 扉が開く。


「失礼します」

「あ……」


 二人は顔を合わせる。

 同じ職場にいながら、これまで接点がなかった二人。

 しかしリドリアはよく知っている人物。

 自分と似た境遇だったから。

 向かい合った二人はしばらく無言だった。


 そして、同じタイミングで口を開く。


「「お疲れ様でした」」


 似た者同士の二人。

 彼女たちが最初に交わした挨拶は、お互いを労う言葉だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] パワハラを知って放置していた人たちが後を継いだ人に要求する量はきっと主人公に遣らせていた量を請求すると思う 後を継ぐと言うことはそれだけの能力があると思われてと思い込み提出を求めるはず…
[一言] 似た者同士!仲良くなれそう
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