08.アリオスからの贈り物
「和哉さん?」
聞いたことがない名前だな、と莉桜は思ったらしく聞き返していた。
「俺の兄の名前」
ノクトがぽつりと答えてくれた。
「ノクト、お兄さんがいたの?」
梓紗が驚いた顔をして聞いていた。
ノクトが家族の話をしたがらないから、莉桜も梓紗もシンまでもノクトに家族の話をさせようとは思っていなかった。
だから、ノクトに兄がいたことを知る筈もなかったのだ。
「ノクト坊っちゃんを家族から引き離した張本人」
マーカスが吐き捨てるように言った。
その表情はとても悔しそうだった。
「ノクト、聞いてもいいことなの?」
話したくないのなら……、莉桜がそう言うとノクトは首を横に静かに振った。
「大丈夫。……多分」
ノクトは力なくそう言った。その時、首もとに下がってあったペンダントに莉桜が気付いた。
「ノクト? そのペンダントは何……」
ペンダントのことを聞こうとした莉桜の手がそのペンダントに触れた。
その時だった。
ノクトがつけていたペンダントから眩しいくらいの光が放たれた。
「な、何!?」
「ま、眩しい!」
目が開けていられないほどの眩しい光が数秒間続いたが、すぐにその光は消えた。
いつの間にか莉桜の手にペンダントが握られていた。
「これは?」
莉桜は困惑気味にペンダントを見ていた。
「アリオスが言うにはお守りだそうだ」
ノクトはそう言って莉桜のペンダントを貸してもらい、そのまま、莉桜の首筋にペンダントを着けた。
『そうだ。肌身離さずいつも身につけていろよ』
莉桜の肩に乗ってきたアリオスがそう付け加えた。
『ま、1度身につけたら取れないようにしてるけどな。おっと、梓紗、シン、お前たちにもお守りをやろう』
そう言ってアリオスはもう2つのペンダントを出し、梓紗とシンにも渡した。
「って、アリオス出てきて大丈夫なの?」
はたっと梓紗がそう聞いてきた。
莉桜もマーカスがいたことを思い出し、彼の姿を探す。
けど、マーカスは……。
「……寝てる?」
倒れるようにマーカスは眠りについていた。
『少し眠ってもらっているから心配ない。梓紗、シン、ペンダントを身につける前に2つのペンダントを合わせてみろ。あ、莉桜とノクトもだ』
アリオスに言われ、莉桜とノクト、梓紗とシンはペンダントを合わせてみた。
眩しい光がまたくるかと思いきや。
「え? ノクト? 周りに火が見えるよ?」
莉桜の言うようにノクトの周りは火が、炎が現れていた。
「莉桜の周りは水が流れてる……」
ノクトの目には莉桜の周りに水が流れているように見えていた。
梓紗とシンにも同じような現象が起こっていた。
梓紗の周りは風が吹いているように見え、シンの周りは土ボコが現れていた。
「アリオス、これは一体何?」
『贈り物』
アリオスはそう言った。贈り物にしては大分変わりすぎている、と4人は思っていた。
『それから、莉桜にはこの眼鏡もやろう』
そう言ってアリオスは手品のように口に眼鏡を咥えて出してみせた。
『そんな瓶底眼鏡はもう卒業してこっちにしろ。この眼鏡ならノクトや梓紗が気にしていることも心配ない』
もちろん伊達メガネだからな、アリオスは自慢気に言った。
「色々聞きたいことはあるが……」
「今は聞かないほうが良さそうだね」
莉桜もノクトも梓紗もシンも思っていた。
『これは何かある』と。
そしてその質問にアリオスが明確な答えをくれるはずもないことを。
(アリオスって秘密主義なところあるし)
(((同感)))
アリオスに聞こえないように目で会話する4人なのだった。
『お前ら、目で会話するなよな』
同じこと考えてんだろ、わかってるぞ、とアリオスは言うが4人は敢えて反応しなかった。
「アリオス」
莉桜はアリオスから受け取った伊達メガネに替えてから声を掛けた。
伊達メガネにしては精巧に作られているシンプルで今どきメガネが莉桜にはとても似合っていた。
もちろん、目が見えている状態だから莉桜自身は気付いていない美少女なところも見えてはいるのだが、メガネがそのことに気付かせないようにしていることなど莉桜にはわからなかった。
莉桜以外の3人は気付いているかもしれないが。
「いつか話してくれるよね?」
「アリオスが俺たちに何をさせたいのか」
『………………』
莉桜とノクトの言葉にアリオスは黙った。
銀色のしっぽがゆらりと動いた。
『時がくればな』
「今はまだその時ではないのか」
「もったいぶらないでよね〜」
シンや梓紗はアリオスの言葉に突っ込んだ。
『とにかく! いいか? お前たちはそれぞれで相棒になった。相棒のことは何があっても信じろよ。特に莉桜!!』
「ひゃい!!」
突然、名指しで呼ばれた莉桜はヘンテコな返事をすることになった。
『ノクトに何かあってもノクトのことを信じ続けてやれよ』
「え……」
(ノクトに何かあっても? その言い方だとまるで……)
ノクトに何かあるようなアリオスの言い方に一抹の不安を抱いてしまう莉桜だが……。
「うん。ノクトを信じ続ける」
莉桜はそう言い切った。
ノクトもどこか嬉しそうにしていた。
『さて、話の途中で邪魔したな。オレは行くところがあるから』
じゃあな、アリオスはそう言って去って行った。
「嵐のように現れて去って行ったな」
シンの言葉に3人は頷いた。
「はっ!?」
マーカスが目覚めた。そしてここがどこなのかを確認して、莉桜たちがいることで安心したようだった。
「家族の話をしようか?」
ノクトはそう切り出した。いつかは話さなくてはならないことだと思ってはいたが踏ん切りはつかなかったようだった。
けれど。
「まだ話したくないのだろう?」
「ノクトもどう話せばいいのかわからないように見える」
「なら、無理には聞かない。納得して話したくなったら話せばいいよ」
そう言って3人は話せないノクトを許そうとした。
「少しだけなら大丈夫なんだ」
それでもノクトは話してみたいと思っていた。
ペンダントのこと本編ではノクト以外の中身を書いていなかったので。
莉桜:水鉄砲に水マーク
梓紗:新体操で使うリボンに風マーク
シン:グローブ(軍手)に土マーク
がペンダントの中身としてそれぞれ収まっております。
これがいつ活躍するかは物語を読んでいくとわかります。
ここまで読んでくれてありがとうございました