09.ノクトが1人でいる理由 マーカスしか信じられない理由
ノクトの父親は世界有数とも言われている企業のトップである。
業績はうなぎのぼりで他の企業を圧倒しているとも言われている。
ただ、家庭を顧みない人間でもあった。
長男は優秀でなくてはならないと常に思っており、次男は長男より秀でてはならないとも常に思っていた。
大変頭の中が古い考え方で凝り固まった人間、それがノクトの父親であった。
父親の近くで教育されていたノクトの兄である和哉は父親と同じ考え方をするようになっていて、自分より優秀になりそうな次男であるノクトをいつも目の敵にしていた。
それは幼い頃からノクトが優秀すぎたせいもあった。
何をやらせてもノクトは人並み以上の結果を出していて、家庭教師たちには自分に教えられることはもうありません〜! と匙を投げられてしまうことはしょっちゅうというほどにノクトは何でもできてしまった。
いつしかプログラミングにまで手を出すようになったノクトの能力を和哉は一時期自分の手柄にして利用してやろうと考えたことがあったのだが、凡人だった和哉がノクトの能力をどうこうできる訳もなく、すぐに墓穴を掘ることになったのは言うまでもなかった。
このままでは自分の地位が危うくなると考えた和哉はある時から秘密裏に手に入れた毒物を少量ずつノクトの食事に混ぜて食べさせ始めようとしていた。
そのことにいち早く気付いたのがマーカスだった。
幸い、その現場を見ていたマーカスはノクトが食事をする前に食べさせないようにわざとこぼしてしまうという芸当をやってのけた。
「マーカスのおかげで毒物を体の中に取り込まずに済んだんだ」
「マーカス、さすがね」
「マーカス、エライ!」
「もっと言ってくれ〜」
重苦しくなりそうな雰囲気が少しだけ和らいだ。
それからというもの、マーカスは常にノクトの身の安全を気にするようになった。
毒物を摂取しているはずなのに元気でいるノクトを不審に思った和哉はまたしても秘密裏に刺客までノクトに向けるようになった。
そしてまだ社交界に顔を出すのは早すぎるノクトを社交界へと連れ出し、大人たちのイヤな面を見せるように仕向けたのも和哉であった。
「俺はどんどん人を信じられなくなっていった。幼心にまだ兄さんを信じていたし、尊敬をしていたのに、大人たちのイヤな、黒い部分を目の当たりにする社交界に出るようになってから兄さんのことまで信じることができなくなっていたんだ」
「それが和哉さんの狙いだったんでしょうけどね」
マーカスが呟くように言った。
ノクトが和哉のことを信じられなくなり、襲いでもすればノクトを追い出せると思ったらしい。
和哉の思惑通りにはならなかったが。
ノクトを不憫に思ったマーカスがノクトの母親に相談した。
ノクトの父親が和哉を可愛がっているのと同じかそれ以上にノクトのことを母親は溺愛していた。
ノクトの母親はノクトを家族から逃がすことにした。
父親と和哉からノクトを護るために。
ただ、まだ幼いノクトを1人で遠い地に追いやる訳にも行かず、ノクトの母親はマーカスにノクトをあらゆることから護るように言い渡した。
マーカスはもちろん! と俄然やる気をみせた。
ノクトもマーカスにだけは心を開くようになっていた。
そうしてノクトたちは今、ここにいた。ノクトの母親が仲良しだと言った人たちを頼って。
「ノクトのお母さん、私のお母さんと仲良しだったんだね」
「私やシンのお母さんとも仲良しだったとは驚きだよ」
世界は狭いね〜 なんて梓紗はおどけて言った。
「ボロアパートの立ち退きの件でまさか、ノクトのお兄さんの妨害に遭ったとか?」
莉桜は思い出したように聞いてみた。
「妨害に遭う前に解決できたんだ」
ノクトはそう言った。その表情には安堵が浮かんでいた。
「ノクト坊っちゃんはめったに母親に電話なんかしないんだ。その坊っちゃんが電話してきたことを和哉さんが嗅ぎ付けたらしくね」
「……執念深いな」
「それな」
ぼそりとシンが呟くと梓紗が反応した。
「ノクトは後継者に興味があるの?」
莉桜は話を聞いてノクトにそんなことを聞いてみた。
「ある訳がない。なりたくもない」
ノクトはすぐに言った。本当に興味がなさそうだった。
「なら、ノクトを目の敵にする理由なんてないよね?」
ノクトが後継者に興味があるならまだしも、ノクトは全く興味がないようだった。
「坊っちゃんはなんでもできるから。後継者になる気はなくても、もし、父親にその能力を見つけられたら、坊っちゃんの意思関係なく後継者に選びそうだから、和哉さんはそれを危惧している」
「ノクトの意思関係なく?」
さっと莉桜の顔色が悪くなる。
「後継者にならなくても、兄さんが俺を逃がすとも思えない」
ノクトは和哉に利用されていたことを覚えているのかそう言った。
「利用されて終わる人生なんてごめんだけどな」
そう言うノクトには小さな決意が見え隠れしていた。
「なんでもできるなら、家に縛られる必要もないだろうしね。ある意味良かったんじゃない?」
梓紗はそう言った。
「これから何をしたいのか見つけていくのもいいな」
シンも同意するように言った。
「ここにいてくれるならノクトを1人にはしないしね」
常に誰かがいるよ、と莉桜は言った。
「俺的には莉桜にずっと一緒に居てもらいたいけど?」
さらっとノクトはそう言うと。
「もちろん、一緒にいるよ?」
莉桜もさらっとそう言い切った。
ノクトは莉桜の反応に苦笑していた。
莉桜はなんでノクトが苦笑しているのかわからずに首を傾げた。
「莉桜、全然気付いてない」
「いつものことだが、鈍いな」
なんとなくノクトを哀れに思いながら梓紗とシンは話していた。
内心ではノクトから逃げ回っていた莉桜が言うな、というところだが、そのことを言える人間はいなかった。
『お前が言うな!!』
遠くで聞いていたアリオスだけが突っ込んでいた。
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