エピローグ
4-2と同時投稿してますので、直接来られた方はご注意ください。
駅前の商店街から一つ裏に入った車も通り抜けられないような狭い路地の中にそのお店は建って居る。
「Dolce Strumento a Corda」とプレートが掛けられたドアの前に立ち、彼女は服装や髪形を軽くチェックしてからドアノブを捻る。
そこは、小ぢんまりとした弦楽器店だった。
全体的に茶色を基調にした内装で、手前側の半分に何台ものヴァイオリンや弓、ケース、譜面台、それに弦や肩当て、松脂などの各種小物が所狭しと並んでいる。
カウンターを隔てた奥側はまた趣きが異なり、工房のようなスペースとなっていた。
ドアベルのカランカランという音に、カウンターに腰掛けていた青年が入口の方へと視線を向けた。
「やぁ、瑞希さん。こんにちは」
「こんにちは、店長」
赤茶色の短い髪をした長身の青年と軽く挨拶を交わし、瑞希はカウンターの脇を通って店の奥にある扉を開け、スタッフルームへと入った。
スタッフルームの中はかなり狭いが机が一つ、椅子が二脚置かれており、椅子の片方の背もたれには茶色い布が掛けられている。
肩に掛けていた鞄を降ろして椅子の上に置くと、その布を手に取って広げた。
それは店長が付けていたのと同じエプロンだった。左胸には店名と共に「工藤瑞希」と刺繍が施されている。
そのまま首を通して後ろで紐を結ぶと準備完了。
横に置かれている全身鏡でおかしなところがないか確認してから、瑞希は店内へと戻った。
「準備出来ました」
「そう。それじゃ、いつも通りお店番よろしくね」
「はい!」
瑞希は店長と入れ替わるようにカウンターに立ち、代わりに店長は工房の方へと移動する。
カウンター内から店内を見ると、入口から見るのとはまた異なる光景が視界に入り、瑞希はそれがお気に入りだった。
彼女のアルバイトはここ──ドルチェ弦楽器店のお店番である。




