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第14話


第14話

"屋内への避難"


「大丈夫かな…。梨沙達…」


梨沙達が駅前へ向かって5分も経たない内に、恵美がそう呟く。


「大丈夫だろ。彩が付いてるし、丸腰ってワケでもねぇしな」


煙草の煙をふかしながら、真希が安心させる為にそう言った。


「…でも、万が一があるじゃないか」


「うっせーなー…。お前は心配しすぎなんだよ。ちったぁ私みたいに、細かい事を気にしないようになれ」


「姉貴はいい加減すぎる。もう少し慎重に物事を判断してほしいな」


「何だとてめぇ、実の姉様に向かって生意気な…」


そこに、美由と1人の少女がやってくる。


その少女は、体育館から離れる時に美由と一緒に居た少女であり、2人は今までもずっと一緒に居たようであった。


「あれ、キミは確か同じクラスの…」


「うん、朝倉だよ。朝倉愛美」


「あぁ、そうだ朝倉だ。テストの成績がいつも2位の朝倉だ」


「…何それ挑発?」


「いや、キミは十分凄いと思うけどな。ま、恨むならボクじゃなくて梨沙を恨んでくれたまえ」


「(腹立つなこの女…!)」


愛美と名乗った少女は我を忘れて恵美に殴りかかろうともしたが、2人に話がある事を思い出し、怒りを静めた。


「えーと…。今、みんなで話し合ってたんだけどさ、ここに居るよりも、どこか建物に入った方が安全なんじゃないかって事になってね」


「建物?」


「うん。例えば、そこのちっさいビルなら近いし、誰も居ないと思うよ」


愛美が指差した建物へ、同時に視線を移す久遠姉妹の2人。


その建物は、この騒動が始まる前から既に廃墟のようになっており、今も変わらず不気味な雰囲気を漂わせている。


しかし愛美の言う通り、中に捕食者や他の人間が居る気配などは無かった。


「どうする?恵美」


真希が横目で恵美を見ながら、彼女に訊く。


「…まぁ、ここに居るよりはマシだよね。行こうか」


「決まりだな。行くぞ、みんな」


久遠姉妹を先頭に、一同はそのビルの中へと入っていった。



「…暗いな」


「夜だからね」


ビルの中は電気が止められており、照明は1つも点いていなかった。


「こんな時は携帯だよね」


恵美の後ろを歩いていた愛美が自分の携帯を取り出して、機能のフラッシュライトを付ける。


それに倣って他の少女達も同じようにライトを点けると、先程よりもかなり視野が明るくなった。


「これなら進めそうだな」


「ボクの銃にもライトは付いてるんだけど…使い方がわからないな」


「そんなもん、ここを押せば点くじゃねぇか」


真希はそう言って、恵美の銃に付いているフラッシュライトのスイッチを入れる。


「…無駄に詳しいな」


「"無駄に"は余計だバカ」


「…バカだと?」


「そこでキレんのかよ…」


一同は、ボロボロのソファーが置いてある、広いロビーのような部屋で待機する事にした。


「しっかし不気味だな…。今にも何かが出て来そうじゃねえか」


「変な事言うなよ姉貴。美由ちゃん、怖がってるじゃないか」


「恵美!後ろ!」


「ッ!?」


「はっはっは!今の顔は傑作だったぜ」


「貴様…」


先程よりも安全な場所だからなのか、久遠姉妹の2人だけではなく、一同は全員が気を落ち着けている。


しかし、美由だけは、何やら様子がおかしかった。


「…美由ちゃん?」


その様子に気付いた愛美が、彼女の名前を呼ぶ。


「愛美お姉ちゃん…。ここ、何か怖いよ…」


それを聞いた恵美が、真希を肘で突っつく。


「ほら、姉貴のせいだぞ」


「私のせいかよ!?」


「謝れ。土下座で詫びろ」


「調子に乗りやがってこの野郎…」


「お、何だやる気かい。今ならボクが勝つと思うよ」


「この距離なら銃なんか関係ねぇって事を身を持って知らせてやろうじゃねぇか…」


その時、ロビーの奥にある通路から、銃声が聞こえた。


「………」


「………」


顔を見合わせる久遠姉妹の2人。


当然、他の一同にもその銃声は聞こえ、全員が静かになっていた。


「…行くか?」


「行くさ」


「だよな…」


恵美が立ち上がり、真希も後をついていく。


「お前達はここで待ってな。何かあったら、私達に構わずすぐに逃げろよ」


「わかりました。お気をつけて…」


代表して返事をした愛美を見て、微笑む真希。


2人は銃を取り出して、銃声が聞こえた通路を進んでいった。



「銃声って事は、バケモンではねぇって事だよな」


「さぁね。一応、銃器を扱う患者は確認されてるらしい」


「…マジかよ?」


「撃たれたら、即死だね」


「畜生、来なきゃ良かったぜ…」


通路はかなり暗かったが、恵美のアサルトライフルに付いているフラッシュライトのお陰で、視界は十分に確保できていた。


しかし、いつ敵が襲ってくるかはわからないので、2人は常に警戒をしながら進んでいく。


「どこなんだ…?銃声の主は…」


「とにかく進もう。何かしら異常が見当たるはず」


「何もなかったら良いんだけどなぁ…」


「日和すぎだ。それは無い」


「けっ…」


しばらく進んだ所で、恵美が不意に立ち止まる。


「…どうした?」


「………」


恵美は、何とも答えない。


「おい…」


その時、部屋の中から、ガラスが割れたようなけたたましい音がした。


「誰か居る…!」


「おい恵美!」


勢いよく扉を開けて、フラッシュライトで部屋の中を照らす。


しかし、そこに人の姿は見当たらなかった。


「誰も居ない…な」


「薬莢と捕食者の体液が残ってる。誰か居たのは間違いない」


地面に1つだけ転がっている薬莢と、絶命した捕食者が残す緑色の液体を見て、恵美がそう呟く。


「…でも」


恵美は正面にある割れた窓ガラスを指差して、こう言った。


「逃げられたみたいだね」


「私達に気付いたってのか…?」


「姉貴がうるさかったからね」


「なっ…!?」


「それよりも、早く戻ろう。みんなが心配だ」


部屋を後にして、一同が待っているロビーへと戻る恵美。


「…どうして逃げたんだ?」


真希は、割れている窓ガラスを見て、そう呟いた。




「ふぃ~…。危機一髪ってね」


「だから発砲は控えろって言ったのに…」


「大丈夫、姿は見られてないハズ」


「全く、危なっかしいんだから…。いきなりガラスを割り始めた時は本当にびっくりしたんだよ?」


「窮すれば通ず…ってね」


「ふん…」


「そんな事よりも、さっさと別の場所を探しに行こうじゃない」


「…そうだね。ゆっくりしてる時間はないか」


「綾崎梨沙の殺害。早く終わらせて帰ろう」


「うん」




その頃…


「はくしょんっ!」


「…風邪?」


「いえ、いきなり寒気が…」


梨沙、恭香、彩の3人は、患者の集団と捕食者の集団から逃げ、既に目標である駅前の手前まで到着していた。


「皆さん、駅が見えてきましたよ」


恭香が遠くに見える駅を指差して、一同に呼び掛ける。


「意外と早く着いたわね。嬉しい誤算だわ」


「バスはあるんですかね…?」


「あらら?あるんじゃないの?」


「"あったような気がする"と言っただけです」


「あらら…」


3人はバスがある事を願いながら、駅前の広場に足を踏み入れた。



「あ、あった…!良かった…」


停めてある無人のバスを見て、安堵する梨沙。


そんな彼女の様子に、彩は苦笑いを浮かべながらこう言った。


「梨沙ちゃん、自信無かったのね…」


「ありましたよ?」


「切り替え早いわね…」


何はともあれ、3人はバスの元へと向かう。


その時、バスの影から、何かが姿を現した。


「あらら…。脱出前のボスって所かしら?」


それは、大きな爪を持ち、胸元には大きな口が付いている不気味な生物。


恵美達が学校で遭遇した生物兵器"D-07"の、変異体だった。


「に、逃げましょうよ…!」


「梨沙ちゃん。その銃、貸してもらえる?」


「え?あ、はい…」


梨沙は言われたままに、自分の銃を彩に渡す。


彩は銃を受け取ると、D-07に向かって歩き出しながら、2人にこう言った。


「あなた達は隠れてなさい。私がやるわ」


「えぇ!?そんなの無茶ですよ!」


「あらら…。私も甘く見られたものね。まぁ見てなさい」


そう言って、銃のコッキングレバーを引く彩。


「5分で済むわ」


D-07は、彩に向かって走り出した。


「綾崎さん。ここは彼女に任せて、私達はバスの確保に向かいましょう」


そう言った恭香を、梨沙は横目で睨むように見る。


「あんた正気なの?あんなバケモノを雪平さん1人で…」


「ふふふ…。大丈夫ですよ。さぁ早く、ぼーっとしている時間が勿体無いですよ?」


「…もう!」


正論をつきつけられた梨沙は、吹っ切れたようにバスに向かって走り出した。


「(ふふふ…。大丈夫ですよね?雪平さん)」


恭香も彩の方を一目見た後、梨沙を追う。


彩は既に、攻撃を始めていた。


迫り来るD-07から逃げるように後退しながら、銃弾を1発ずつ頭に当てていく。


当然、その程度の攻撃で、D-07が怯むハズもなかった。


「(弱点が無い生物なんてこの世界には存在しないわ。早く見つけないとね…)」


D-07の爪振り攻撃を避けて背後を取り、背中に銃弾を撃ち込む。


D-07は怯まなかった。


「(頭、背中じゃないときたら…)」


彩は自分から接近していき、D-07の攻撃を誘発する。


その攻撃を銃身で弾き、がら空きとなった胸元の口に素早く3回発砲した。


「(…当たりね)」


怯んで地面に膝をついたD-07を見て、ニヤリと笑う彩。


「(弱点さえわかればこっちのもの。死んでもらうわよ)」


胸元の口に狙いをつけ、引き金を引く。


しかし、弾が底をついたらしく、いくら引き金を引いても銃声が鳴り響く事は無かった。


「あらら…。この局面で?」


その時、立ち上がったD-07が、突然彩に爪を振る。


彩は少しだけ反応が遅れ、頬に浅い傷を付けられてしまった。


「痛いわね…。もう怒ったわよ」


頬の傷口の血を拭って、使い物にならなくなった銃を近くの花壇に置き、彩は素手のまま身構えてD-07を睨む。


「…なんてね!」


彩はふざけたような声でそう言うと、突然走り出してその場から離れた。


D-07はバスに向かった2人には気付いていないらしく、彩を追って走り出す。


「仕方ないわね、少し遊んであげるわ」


彩はそう言って立ち止まると、近くに落ちていた角材を足で蹴り上げて掴み取り、その先端をD-07に向けた。



D-07はおぞましい雄叫びを上げて、彩に突進していく。


彩はそれを横にステップして避けて、D-07の後頭部を角材で叩きつける。


更に、前のめりになったD-07の顔面を叩き上げる。


そして無防備の状態になったD-07の胸元の口に、角材を突き刺した。


「一丁あがりね」


瀕死状態となった敵を嘲笑うかのようにそう言って、梨沙達が居るバスの方へ歩き出す彩。


D-07は彩を追おうとしたものの、膝をついて吐血すると、そのまま倒れて動かなくなった。


第14話 終




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