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馬酔い亭へようこそ!  作者: 風真瑠依
第一章 はじまり
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一方その頃2

※千藤弘司視点です。

「……きて……さ……しや………さま……」


「……ん……」


「起きて下さいまし、勇者様」


「…………うん?」


「ああ、やっとお目覚めになられましたのですね。闇の勇者様」


「………………はぁ?」



途切れ途切れ聞こえてくる声とともに体がゆさゆさと揺さぶられる。それに促されるように重たい瞼をあけると滲む視界一面に女の顔。状況が理解できずパチパチと瞬きを繰り返す俺に女は意味の分からない言葉を発した。



「………とりあえず邪魔」


「あっ…申し訳ございませんでしたわ。わたくしったらつい…」



いつまでも目の前から退かない女を押し退けながら上半身を起こす。俺が寝ていたのは黒くてつるりとした長方形の石のようなもの。布団以外で寝慣れていないせいか背中が酷く痛む。起き上がり凝り固まった腕と首を回すとゴキリと嫌な音が鳴った。



「まあ、もしやお身体に何か違和感でもございますのですか?すぐに癒しの祈りを…」


「退け」


「ゆ…勇者様」



纏わりついてくる女を払い除け辺りを見渡した。薄暗く細部までは見渡せないがどこも石で出来ているように見える。ゲームや漫画などに出てくる古代神殿のような部屋だ。



「ここはどこだ」


「ここはリュース大陸中心部にあるパンタール大神殿の闇の男神さまを祀る祭壇でございます」


「……………」


どこかで聞いた覚えのある地名だ。しかし俺たちが暮らしていた日本にも地球にも実在していない筈だが…。



「先程、俺の事を勇者だと言ったな?」


「ええ。貴方様はこの世界、ドッグリュースを救うために母神様が遣わして下さった勇者様にございます」


「……………」



頭が痛い。この女は一体何を言っているんだ?言葉は通じているはずなのに意味が理解できない。というか理解したくないと脳が拒絶している。



「さあ参りましょう、勇者様」


「っ……触るなっ」


「あっ……勇者様?」



女が急に俺の手を取り歩き出そうとした。ぞわりと悪寒が走り乱暴にその手を振り払う。傷ついたような顔をされたが人の手を許可なく触る方が悪い。



「どこに連れていく気だ」


「大広間にございます。母神様より託宣を授かりました母巫子様と神殿長様、そして他の勇者様方がいらっしゃる筈ですわ」


「他の勇者?」


「はい。貴方様は闇の力を持った闇の勇者様。その他にも光の力を持った光の勇者様や風の力を持った風の勇者様。大地・火・水の力を持った勇者様方が母神様からこの大神殿に遣わされたのですわ」



俺と一緒に落ちてきたはずのシオが居ないということは、恐らく他の勇者として別の場所へ連れて行かれたのだろう。行動を起こそうにも何の情報も無くては動きようがない。どうやら大広間へ行くしか無いようだ。



「大広間まで案内しろ」


「はい。かしこまりましたわ、勇者様」


俺が大広間へと案内を頼むと女は嬉しそうに頬笑み俺の手を取った。ここでは案内をする場合、手を引いていかなければならないのだろうか。他人に触られることに怖気がするがここでまた振り払えばうるさく騒ぐのだろうと思い我慢して大広間へと歩む。



「勇者様がこんなにも素敵な方だなんて思ってもいませんでしたわ」


「そうか」


「わたくしは貴方様に心よりお仕えする所存にございます」


「そうか」



大きな扉の前に立った時、女が両手で俺の手を握り締めそう言った。目を潤ませ熱っぽく語りかけてくるが俺には鬱陶しいだけ。それよりもこの扉の中が気になって仕方なかった。



「開けるぞ」


「あっ、お待ちくださいませ」



女の制止を無視し扉を開く。中には床にまで着きそうな白く長いヒゲの爺と輝く鎧を纏い二本足で立っている2m位のトカゲとぼんやりとした表情で力なく椅子に腰かけている少女が居た。



「お目覚めになっておりましたか闇の勇者様」


「ああ。他の勇者とやらはどこだ?」



俺に気付いた爺が話しかけてきた。恐らくこの爺が神殿長なのだろう。



「大半の勇者様がまだ目覚めず各祭壇にいらっしゃいます。ただし光の勇者様だけはすぐに目覚められこちらにいらっしゃいますが」


「そうか」



そう言って神殿長が示したのはトカゲだった。このトカゲが光の勇者様ねぇ。それにしてもまだ目覚めていないのか。この調子だと全員そろうまでに時間が掛りそうだな。



「ははっ、きっとキミは居ると思っていたよ凶運の死神クン」


「は?」



知らないやつらと一緒にいるのが嫌で壁際の方に向かおうとするとトカゲが朗らかに話しかけてきた。しかも嫌な記憶が呼び起こされる通り名で、だ。



「馴れ馴れしく話しかけるな」


「おや?ワタシの事などもう忘れてしまったのかな?」


「トカゲに知り合いは居ない」


「おやおや。キミは変わらないねェ。トカゲではなく龍人だと何度も言ったのだがなぁ」



リュース大陸、パンタール大神殿、母神、凶運の死神、龍人。そして落ちる前に聞こえてきた不可思議な声。これだけ揃えられたら嫌でも認めなきゃならないだろう。


ここが以前プレイしていたゲーム『ドッグリュース』の世界だと。



「貴様もあまり変わってないように見えるがな、龍帝」


「ははっ、人間そう簡単には変わりはしないってことだね」


「違いない。が、今貴様は人間ではないだろう、このトカゲ男が」


「はははっ、本当に相変わらず酷い男だねキミは」


「貴様は相変わらず胡散臭い男だな」



笑顔と無表情という対照的な表情で対する俺たちに爺と俺の後ろにいた女が怯えている。しかし間にいる少女は気にすることなくぼんやりとしていた。この浮世離れした少女が恐らくは母巫子様とやらなんだろう。



「しかしゲームの、しかも終了したオンラインゲームの世界に来ることになるとはな」


「全くだね。それに世界を救う勇者として何人も送られてくるとはねェ」



一体この世界に何が起こっているというのだろうか。






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