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無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。【第3章開幕】  作者: 鍵宮ファング
第2章 夜と王都と揺らめく価値(夜天競売会篇・前篇)

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第12話 《ゴールド・スケイル》はソコにいる

 騒ぎの後始末を終えた俺たちは、宿屋から少し離れた飲食店に場所を移していた。


 昼前だというのに店内は妙に静かで、木製のテーブルと椅子が並ぶ空間には、煮込み料理の匂いだけがゆったりと漂っている。


 店の隅の席。そこでようやく、助けた少女は一息ついたようだった。


「……改めまして。先程は助けていただき、誠にありがとうございました」


 ぺこり、と。少女は背筋を伸ばして頭を下げた。


 黒髪。白と紫を基調にした和装。腰には細身の刀。


 歳は俺たちと同じくらい……に見えるけど、座っている姿は妙に小柄で、どこか子供っぽい。


 特に今みたいに、目の前に置かれた料理をちらちら見てると尚更だ。


「……食べるか?」


 試しに聞いてみると、少女の肩がぴくりと震えた。


「い、いえ! そのような施しを受けるわけには――」


 ぐぅ〜……。


 腹が鳴った。しかもかなり大きい。


 一瞬、店内の空気が止まる。


「…………」


「…………」


 少女の顔が、みるみる赤くなった。


「…………いただきます」


 めちゃくちゃ小声だった。


 ミリスがふふっ、と小さく笑う。


 少女は、恥ずかしそうに俯きながら料理を一つ口へ運んだ。


 その瞬間――。


「……っ」


 ぱぁっ、と。


 今まで張り詰めていた表情が、一気に綻んだ。


 分かりやすいなこの子。


「美味いのか?」


「……はい。とても」


 答えながらも、次の料理に手が伸びている。


 多分かなり腹が減っていたんだろう。


 無理して気を張ってたのが、見ているだけで分かった。


「それで、自己紹介がまだでしたね」


 こほん、と咳払い。


 だがその直後にも、料理に伸びかけた手を慌てて引っ込める辺り、全然取り繕えていない。


「私はカグヤ。東方国家“ジパング”より参りました」


「ジパング?」


 聞き慣れない単語に、俺とミリスは顔を見合わせた。


 すると、隣で酒を呷っていたヴェルカが「あー」と頷く。


「東の果てにある鎖国国家だよ。海に囲まれた島国で、刀だの和装だの、独自文化がやたら発展してることで有名な」


「詳しいな」


「商人だからな。(うわさ)くらいは入る」


 ヴェルカは肩を竦める。


「もっとも、実際に行ったことはねえけど。基本的に外の連中を入れねえ国だからな、あそこ」


「外の人を?」


「ああ。逆に、国内の奴もあんまり外へ出さないらしい」


 そう言いながら、ヴェルカはカグヤを見る。


「よく国外に出られたな」


「……少し、事情がありまして」


 カグヤは少しだけ表情を曇らせた。


 さっきまで料理で(ゆる)み切っていた空気が、少しだけ引き締まる。


 その変化に、ミリスも自然と居住まいを正した。


 そしてカグヤは、膝の上に置いていた細長い包みを、そっと抱き締めた。


 路地裏でも、命懸けで守っていたものだ。


 あの黒服たちに追われながらも、最後まで離さなかった。


 きっと、かなり大事な物なんだろう。


「……実は」


 カグヤは細長い包みを抱きしめるように持ちながら、小さく息を吐いた。


「私は元々、西方国家“ルシタニア”へ向かっておりました」


「西方って、海の向こうの?」


「はい。ジパングの工芸品や刀剣類を運ぶ、交易船に同行していました」


 交易船。つまり、かなり大規模な商隊だったってことか。


「でも、その途中で襲われたんです」


 カグヤの声が少し沈む。


「夜でした。突然、霧の中から船が現れて……気付いた時には、もう」


 脳裏にその時の光景が蘇ったのだろう。


 カグヤの指先が、僅かに震える。


「海賊の仕業か?」


 俺が訊ねると、カグヤはゆっくり首を横に振る。


「……私も最初は、そう思いました」


「違うのか?」


「海賊にしては、妙だったのです」


 カグヤは視線を落とす。


「積荷の位置を、最初から把握していたように動いていました。迷いもなく、“価値の高い物”だけを狙っていたのです」


 ただ暴れるだけの盗賊じゃない。


 最初から狙い撃ちだったってことか。


「しかも――」


 そこでカグヤは、一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「……私以外、全員殺されました」


「殺された?」


「はい。船の仲間が、私を庇って……」


 そこで、カグヤの指が震えていることに気付いた。


 今までずっと真っ直ぐだった背筋が、少しだけ崩れている。


「――っ」


 ミリスが息を呑む。


「私を海に突き落として、そして背中を――」


 そう言ったカグヤの声は、酷く掠れていた。


 無理して平静を保っているのが分かる。


「気付けば、私はこの街……ミナスガルドの海岸に流れ着いていました」


 異国の地。


 知り合いもいない街。


 しかも、襲撃の直後。


 想像するだけで胸が痛む。普通じゃあ、そんな苦痛は耐えられない。


「私は貨物の行方を探して、この街を調べ回りました。そして昨日……見つけてしまったのです」


 ぎゅっ、と。膝の上の包みを抱き締める。


「私たちの貨物が、どこかへ運び込まれるところを」


 店の空気が少し変わった。


 ヴェルカだけが、黙ったまま酒を飲んでいる。


「後をつけました。すると、男たちが荷を確認しながら、こう言っていたのです」


 カグヤは俯いたまま、小さく呟く。


「“夜天(ノクス)競売会(アウクティオ)に回せ”……と」


 その瞬間、ヴェルカの酒瓶を置く音が、やけに大きく響いた。


「……ほぉ」


 ヴェルカの目が少し鋭くなる。


 カグヤは続けた。


「私は監視の隙を突いて、貨物の一部を取り返しました」


 そう言って、腕の中の細長い包みに視線を落とす。


「ですが、その直後に見つかってしまって……」


「それで黒服共に追われてた、と」


「……はい」


 店の中に、少しだけ沈黙が落ちた。


 俺は椅子に背を預けながら考える。


 つまり――。


 カグヤの貨物を襲った連中。


 そして、この街で追ってきた黒服。


 夜天(ノクス)競売会(アウクティオ)……。


 全部、裏で繋がってるってことか。


「でもよ」


 俺は率直な疑問を口にした。


「あの黒服共、“()()()()()()()()()”って、何なんだ?」


 すると、今まで黙っていたヴェルカが、ゆっくり口の端を吊り上げた。


「王都最大の鑑定士ギルドだ」


「王都最大の⁉」


 俺が聞き返すと、ヴェルカは酒瓶を揺らしながら鼻で笑った。


「鑑定、査定、仲介、オークション運営。まあ、金持ち相手の商売を一通りやってる連中だよ」


「それだけ聞くと、普通の行商ギルドに聞こえるけど……」


「“表向き”はな。つまり裏がある」


 ヴェルカはテーブルに肘をつき、面倒臭そうに続ける。


「実態は、王都とミナスガルドの流通を(かげ)で牛耳ってる成金集団だ。珍品(ちんぴん)魔道具(まどうぐ)、奴隷、禁制品(きんせいひん)……金になるなら何でも扱う」


 何が何でも、物騒すぎるだろ。


 奴隷に関しては、なんとも言えないけれど……。


「しかも厄介なのが、連中の後ろ盾だ」


「後ろ盾?」


 ミリスの疑問に、ヴェルカが指を一本立てた。


「貴族」


「あー……」


 思わず変な声が出た。嫌な予感しかしない単語だ。


「しかもただの貴族じゃねえ。王都の商業派閥に食い込んでるボンボン共だ。金と権力で好き放題してやがる」


「じゃあ、街の衛兵とかも……」


「期待するだけ無駄だな」


 ヴェルカはキッパリと答えた。


「ミナスガルドでゴールド・スケイルに逆らうってのは、王都の金袋(かねぶくろ)に喧嘩売るようなもんだ」


 ミリスが不安そうに眉を寄せる。


「そんなに大きな組織だったのかよ……」


「むしろ、この街そのものって言った方が近いかもな」


 ヴェルカは店の天井を仰ぎ、照明を星座のように結びながら続ける。


「ミナスガルドの市場、倉庫、競売、警護、流通経路。全部がどこかしらで連中と繋がってる」


 だからさっきの黒服連中よりタチが悪い。と、ヴェルカは天井に星を描く。


 もっとも、それは凶星(きょうせい)だ。


「《夜天(ノクス)競売会(アウクティオ)》の主催も、当然ゴールド・スケイルだ」


「あ」


 とどのつまり。


 俺たちは、主催者の関係者に手を出したのか……。


 やっと納得した俺をジロリと()めつけ、


「だから目立ちたくなかったのに、お前と来たら……」


 呆れたように、ヴェルカが深いため息を吐く。


「いや……その……悪かった」


「ご、ごめんなさい……」


 俺とミリスが揃ってしょんぼりする。


 するとヴェルカは数秒黙った後、ぷっと吹き出した。


「ま、やっちまったもんは仕方ねえや」


 あっけらかんと言いながら、酒を飲み干す。


「それに――」


 ヴェルカの口元が、獰猛に吊り上がった。


「奪った品を札束に変えるだけの連中は、商人の風上にも置けねえ」


 空気が変わる。いつもの適当な酔っ払いじゃない。


 商人として、本気でムカついてる顔をしていた。


「だから、これから私たちは行動に出る」


 言いながら、ヴェルカが指を一本立てる。


「まず一つ。星涙石(せいるいせき)夜天(ノクス)競売会(アウクティオ)に出品する」


「それは元々の目的だな」


「二つ目」


 今度は二本目。


「カグヤの貨物を取り返す」


 カグヤが小さく息を呑む。


 その目には、明らかな希望が浮かんでいた。


「そして三つ目――」


 三本目の指が立つ。ヴェルカはニヤリと笑った。


「これは最悪の場合だが」


 空の酒瓶をテーブルに叩き付ける。


「《ゴールド・スケイル》()()()()()()()()()


 一瞬、店内の空気が静まり返った。


 ……いや。言ってること、完全に無茶苦茶なんだけど。


 相手は王都最大のギルドで、夜天(ノクス)競売会(アウクティオ)の運営だぞ?


 しかもついさっき、国の金袋(かねぶくろ)に喧嘩を売るのと同じだって、言っていたじゃないか。


 けれど、不思議と――。


 ヴェルカが言うと、何故だか“出来そう”に聞こえてしまうのが怖かった。



 ***



 ――一方、その頃。


 ミナスガルド中央区。


 煌びやかな夜景を見下ろす高層建築、その最上階。


 豪奢なシャンデリアが照らす一室で、男が血塗れのまま膝をついていた。


「も、申し訳……ございません……!」


 昼間、クラドたちに敗北した黒服のリーダーだった。


 (ひたい)から汗を流しながら、震える声で頭を下げ続ける。


 その周囲を囲むのは、四人。


 そして――中央の椅子に座る、一人の青年だった。


「いやぁ、それにしても無様ですねぇ」


 最初に口を開いたのは、緑髪(りょくはつ)の男だった。


 細身の身体をソファへ預けながら、呆れたように肩を竦める。


「貴方、“そこそこ腕が立つ”って触れ込みじゃありませんでした?」


 男――()()()()は、薄く笑った。


「なのに子ども相手に半壊。商品の回収にも失敗。挙句、こちらの名前まで露出(ろしゅつ)するなど……」


 ため息混じりにワイングラスを揺らす。


「投資としては大失敗ですね」


「ひぃっ……!」


 一方、その隣では。


「ねぇアリィ、見て見て」


 紫髪の女が、宝石だらけの指輪を眺めながら頬を緩めていた。


「今日競り落とした“星海真珠(ほしみしんじゅ)”なんだけど、超可愛くない?」


 黒服の男など眼中にない。


 ブランド品にしか興味がないという態度を隠そうともしなかった。


()()()様……! い、今はそれどころでは――」


「あんたさぁ」


 ()()()と呼ばれた女は、ようやく黒服を見た。


 気持ちの悪い虫でも見るような目で、黒服を睨む。


「負けた癖に口効かないでくれる?」


「っ――!」


 男の顔が青ざめる。


 その瞬間だった。


「ぎゃああああああっ⁉」


 絶叫。男の左手に、巨大な釘が突き立っていた。


「うるせぇなァ」


 低い声が笑う。


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大男――()()()()が、愉快そうに男を見下ろしていた。


「失敗した罰ってのはよ、もっと分かりやすくしねぇとなァ?」


 ごき、ごき、と拳を鳴らす。


 その傍らでは、白髪(はくはつ)の青年が窓際に立っていた。


 ()()


 ただそれだけの名前を持つ男は、外の夜景を眺めたまま、一言も喋らない。


 興味すらない。


 そんな空気だった。


「た、助け……!」


 黒服の男が床に這い蹲る。


 しかし次の瞬間。


「やめろ、ガノック」


 透き通るような声に、ガノックは舌打ちしながら手を止めた。


 中央の椅子。そこに座っていた青年が、ゆっくり脚を組み替える。


 白金色(しろがねいろ)の髪。整い過ぎた顔立ち。


 そして、金色の瞳。


 青年――()()()()()は、退屈そうに頬杖をつく。


「見苦しいぞ」


 ただ、その一言だけで。場の温度が一気に冷え込んだ。


「アルベリオ様! どうか、この通り! 次こそは――」


「誰が、喋っていいと言いました?」


 アルベリオは言葉を遮り、膝をつく男を見下ろす。


「価値に見合わない仕事をしたゴミは、生きている価値もありません」


「ま、待っ――」


 男が顔を上げた、その時だった。


 男の首筋が、不自然にへこんだ。


 まるで見えない手で、内側から握り潰されたように。


「――ぁ?」


 男の身体が硬直する。


 次の瞬間、全身の血管が内側から膨れ上がり――。


 そのまま、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


 静寂。


 床に広がる血だまりを見ても、誰も驚かない。


 ラグナは退屈そうに爪を眺める。


 ミザールは苦笑を浮かべる。


 ガノックは口笛を吹き、ゼロは相変わらず窓の外を見ていた。


「それで、ミザール?」


 アルベリオが頬杖をついたまま訊ねる。


「その“行商人の少年”というのは?」


 するとミザールが、肩を竦めながら報告書を開いた。


「目撃情報によれば、妙な能力を使っていたそうですよ」


「妙な? 何だ、言ってみろ」


「羽ペン、帳簿、封蝋……その辺の文房具で戦っていたとか」


 一瞬、アルベリオの眉が僅かに動いた。


「……羽ペン?」


「はい。しかも、それでエージェント共を壊滅させたとか」


「ほほぉ。それはそれは」


 アルベリオは小さく笑った。


「価値のない道具で、価値ある人間を壊す――」


 金色の瞳が細まる。


「実に、興味深い」


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― 新着の感想 ―
カグヤの過去がしっかり重くて、ただ助けた少女じゃなくて事件の中心にいるのがいいですね。 交易船襲撃のくだりも、最初から何か裏がある感じが積み上がっていて不穏でした。 ゴールドスケイルの存在が出たことで…
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