ワイバーン
結局さっきの依頼書は持ち逃げされてしまったので、ゴブリンの魔核を集める銀級の依頼(報酬銀貨五十枚)を受けることにした。
冒険者ギルドでの依頼は、自分の等級と同じものを受けることを推奨されているが、別に銅級の冒険者が白銀級の依頼を受けても良いとされてはいる。流石にそんな命知らずは居ないし確認もされるらしいが。
冒険者が自分の等級と同じ依頼であれば、コンディションが相当悪いとかではなければしっかり熟せるレベルの物をギルドが選定し、等級の設定を行っているようだ。
例えば俺のように金級冒険者なら、金級までの依頼はそつなくこなせるし、白銀級の依頼も頑張れば行ける…かな? くらいの設定のようだ。全部モモカに聞いた。
「ただ、あんたなら白銀級の依頼も普通にやれるからあんまり気にしなくていいわよ」
とモモカが俺を褒めてくれるので今の俺はウキウキで森に入ってゴブリンを探している最中だ。
前にモモカを抱っこ紐で抱っこしながら森をずんずんと歩いていく。
と、森のかなり遠くの方にゴブリン発見。
大きな鼻に緑の体色。お世辞にも美しい、イケメンといったような言葉は使えない容姿の魔物が登場だ。
ゴブリンはまだこっちに気づいていないようだ。そりゃ推定数百メートルはあるからな。
身体能力と共に俺の目がとても良くなっていてありがたい。
「居た」
「え、どこ?」
モモカはまだゴブリンを見つけられておらず、辺りをきょろきょろと見渡している。
そんなモモカを尻目に、体の内から湧き上がる黒い波動を収縮させ、崩壊を豆粒のような大きさにまで凝縮。
イメージするのは前にモモカを誘拐された時に、俺をおびき寄せるための囮役に放った凝縮した崩壊。
極限まで大きさを絞り指向性を明確にすれば、俺の崩壊は有効射程一メートルを優に超えることができる、と思う。
正直感覚、なんとなくの域を越えないが、やってみなければ分からない。
狙うはゴブリンの心臓。一発で確実に仕留める。
左目を瞑り、右手と右目でゴブリンを捉える。
「崩弾!」
放たれた小さな黒の弾丸は一瞬にしてゴブリンを貫き、声を上げる間もなくゴブリンを瞬殺した。
「あんたのそれ凄いわね。…でも狙いが悪かったわね…いや、これは逆に狙いが良かったのかしら…」
「ごめんなさい」
迂闊だった。
魔物の核、とどのつまり心臓。
魔核を集めると言う話だったのに普通に魔核を撃ち抜いてしまった。
「ま、まあ初めて使った技なんでしょう? そういうこともあるわよ」
「そうかな」
「ええ。それに、あの距離から撃ち抜く正確性に、この威力…あんたの話によればあんたの黒いオーラって問答無用でなんでも消すんでしょ? かなり破格の性能してるわよ」
なんか滅茶苦茶褒めてくれるからちょっと嬉しい。
「次からは頭とか撃ってみようかな」
でも、マジで豆粒みたいな大きさの球しか出ないから頭撃ってもあんまり即死しなそうだな。
その後も崩弾を乱用してゴブリンの魔核を乱獲した。
頭を撃ち抜くと、ゴブリンはよろけたり、這いつくばりながらその場から逃げ出そうとするが、それまでに二発目の崩弾の準備が間に合うのでそれでとどめを刺すというのを続ければあっという間に十個の魔核を確保できてしまった。
「まだ午前なのに終わっちゃったな」
上を見てみればまだ太陽が真上まで来ていないので、かなりの早さで依頼を完了させることができたということになる。
「そうね。お疲れ様よアキ」
「モモカもお疲れ」
「お腹も空いたし帰るか。それとも倒したゴブリンの肉焼いたら食えたりしない?」
「…それはホントに最終手段よ」
あっ、そうなんですか…。
滅茶苦茶不味いとかそういう感じっぽいな。
大人しく右手の袋にゴブリンの魔核を詰めて町へと戻ろうとしたところに、何処からか人の悲鳴が聞こえた。
「アキ!」
「こっちから聞こえた!」
即座に声のした方向に走っていく。
森の開けた空間、負傷した三人の冒険者を庇うように立ち向かう片手剣と盾を持った男と対峙しているドラゴン。
足が二つだけで、腕のように翼が生えているのでドラゴンと言うよりはワイバーンだろうか。
かなりの大きさで、周りの木を少し超えるほど、建物二階くらいの大きさをしている。
「ギャオオオオオオオオオオオ!!!!」
雄叫びを上げるワイバーン。
「ワイバーン…白銀級の魔物よ。しかし、どうしてこんなところに…」
モモカがそう呟く。
ワイバーンは俺達には目もくれず、負傷した冒険者の前に立つ男に炎を吐こうと口の中にエネルギーを貯める。
「クソ、役立たず共! 早く逃げろ!」
「そんなこと言ったってコルガを置いていけない!」
「チッ…」
冒険者は決して仲間は見捨てまいと小さな盾を構え、ワイバーンに対峙する。
負傷した冒険者たちも立ち上がり、各々杖や弓、盾を構えるがその動きはどこかフラフラとしていて頼りない。
「グルオオオオオオオオオ!」
そしてついにワイバーンの炎のブレスが冒険者たちを襲う──
「崩壊」
──ことはなかった。
冒険者とワイバーンの間に割って入った俺が崩壊を全開にし、ブレスを全て消滅させたのだ。
「お、お前は…」
後ろから声を掛けられる。
振り返ってみれば、どこか見覚えのある顔…朝の奴らじゃん!
「ん? さっきの奴らか。さっきは悪かったな」
「どうして俺達を助けた…!」
まあさっき酷いこと言われたし、見殺しにされてもおかしくはないと考えるかもしれないな。
「ど、どうしてって…死にそうな奴らが居たら助けるだろ」
「な…!」
驚きの色に顔を染める冒険者。
確かにモモカのことを馬鹿にされてムカついたが、それだけでは助けない理由にはならない。
「細かいことは良いだろ、早くこっから逃げてくれ」
負傷している他の冒険者に近づき回復を使う。
「か、体が…」
「魔力も回復したぞ!」
「驚いてないで早くここから離れろ!」
他の冒険者たちにそう渇を飛ばしてやれば、蜘蛛の子を散らすように四人はその場を離れて行った。
一方ワイバーンは俺のことを脅威として捉えているのか、俺から目を一秒たりとも離さない。
「ワイバーンは炎と毒を操るわ。それと、空中での機動力が非常に高い。アキの戦闘スタイルなら、飛ばれる前にぶっ倒しちゃうのが一番簡単よ」
「了解!」
モモカの指示通り、まずは翼を消し飛ばしに行こう。
神速の踏み込みから一瞬でワイバーンの足元まで接近。
それに気づいたのかその巨体が大きな尾を薙ぎ払い俺を攻撃しようとするがそれも難なく躱す。
一気に飛んでワイバーンの翼との距離一メートル。
「崩壊!」
破壊と消滅の黒い波動が俺の体から放たれ、ワイバーンの翼片方を消し飛ばした。
「ギャアアアアアアア!?」
「よ、酔う…」
いきなり自分の体が消し飛んで驚いたのか、はたまた痛いのか、地面に転がり暴れ始めるワイバーン。
抱えているモモカも急にジェットコースターみたいに俺が動いたからかちょっとグロッキーだ。
大暴れに巻き込まれないように崩壊を解除しその場から少し距離を取る。
「うぷ…はぁ…本当にインチキね、あんたの崩壊? ってやつ」
真面目に魔法を勉強するのがバカバカしくなるわ、と青ざめた顔で溜息をつくモモカ。
「大丈夫か…」
「…大丈夫、もう慣れたわ」
モモカが心配だが、今の一撃でワイバーンはかなり弱った。
後は魂パンチ数発で倒せそうだな。
ワイバーンが暴れるのを止め巨体を起こす。それに合わせて再び接近し、魂を捉えた渾身のパンチがワイバーンの胸元を打つ。
確かに捉えた感覚と共に、ワイバーンがまた大きな叫び声を上げる。
その場にドサリと倒れ込み、白目を剥き泡を吹いてワイバーンは意識を失った。
「…相も変わらず凄いわね。なんでパンチ一発でこの巨体が沈むのよ」
「これで終わりか?」
「いや、気を失ってるだけでまだ死んではいないわ。確実にトドメを刺しましょう」
「分かった」
薄れかけた魂に狙いを定めて再び拳を体に突き立てる。
震えたそれが消滅し、ワイバーンの呼吸が完全に止まったことを確認した。
ワイバーンの討伐完了だ。




