魔法を練習しよう
「呪いの事を加護だなんて、一回も思ったことないけど…」
次の日、無駄に広い庭に二人で出る。
イフィルの呪いは、加護をうまく扱いきれず暴走している説を確かめるべく、実際に加護の力が使えるかどうか検証していく為に今日は時間を使ってみる。
「でも山の中で魔物に襲われたりしないんだよな」
「それはそうだけど…」
まあ、そんなの差し置いて体を蝕む腐食のデメリットの方がデカいよな。
「というか、イフィルは魔法使えるの?」
「魔導書は読んだことあるけど、試したことはなかったの。その、前は呪いの進行が酷くて、何かするだけでも体が痛かったから…でも今ならできるかも?」
物は試しだ、とイフィルが何かブツブツと呟き始める。呪文だろうか。
「────火矢」
その瞬間、何もなかった空間に炎が生まれ──ジュウ、と音を立てて消えてしまった。
「うーん…」
「よく分からないけど、初めてにしてはうまくいったんじゃないか?」
人間は叱っても伸びないので、とにかく褒めてみよう。
「アキはコツとか分かる?」
「いや、俺魔法とか使ったことないから分からないよ」
「え? いつも使ってる回復魔法は?」
「え、っつー…」
そういえばそうだ。
なんかモモカに度々無詠唱がどうのとか、魔力切れがどうのとか言われまくってたな。
本能的に使ってるし、何も考えなくてもオートで使われることもあるし、なんか他の回復魔法とはスペックがかなり違うみたいで…何かしら魔法とは違うナニカ別の能力なんだと思う。
「ごめん、俺は感覚派だから、教えられることは何もない。それと…後で俺にも魔導書見せてもらえないかな?」
ずっと回復魔法だけ使っていたが、俺も別の魔法が使えるならば使ってみたい。
勉強が好きな訳ではないが、こればかりは逃れられぬ欲求だろう。
「魔導書ならいくらでも見ていいよ。でもアキに教えてもらえないと私何もできないよー」
そう言いながらゴロンと地面に倒れ込むイフィル。
…そういえば、ライカがここの竜は土を司ってるみたいなこと言ってたな。
「イフィル、土魔法はどうかな?」
「土魔法?」
「なんでもイフィルに呪いを掛けてる竜は土魔法に関する権能を持ってるらしい」
と言うか、ここの竜の能力って腐らせる能力じゃないのか…。
それか土魔法の応用とか? 土と体が腐るって関連性あるか? 微生物?
「そうなの? とりあえずやってみるね、────岩矢」
短い詠唱の後、今度は岩が矢の形を模して生まれ──って大きいな?
「アキ、これどうやって止めるの!?」
ガチでまずい。既に大きさは車くらいに巨大化していて、全く止まる気配がない。
このままだと豪邸をも越す大きさになってしまうし、なんならそれがコントロールを失って家に直撃でもしたら終わる。
「俺が止める!」
な、なんとかなれー!
ぐっと地面を踏み込み、土が抉れる程の力で跳躍、空に浮かぶ岩矢を蹴り飛ばせば、岩矢はボロボロと崩れていく。
矢を構成していた岩が自由落下を始め、その真下にはイフィル。
「危ない!」
辛うじて岩矢を蹴ったことで推進力はなくなっていたので、すぐさま着地しイフィルの元へ駈ける。
降り注いでくる岩からイフィルを庇うように下に敷く。
背中にゴツゴツとした岩の感触が降り注ぎ、走る痛みに瞬時に回復。
「いて…」
メキメキとかバキィとか結構鳴っちゃいけなさそうな音が背中から聞こえてくるが気にしない。
どうせすぐ回復するから、骨折くらい問題ないと、俺は分かっているのだが。
「あ、アキ…?」
下敷きになっているイフィルはそうでもないようだった。
時間にして十秒もないくらい、ようやくもう上から降ってくる岩がなくなったあたりで起き上がる。
「ごめんイフィル、いきなり覆いかぶさっちゃ──」
ガシリと肩を捕まれる。
「アキ、体は!?」
鬼気迫る、と言うのはこのことだろろうか。イフィルのあまりの迫力にちょっと怖気づく。
「い、いや俺には回復があるから…」
「それでも心配だよ…」
目に光る物を隠したいのか、俯いてしまうイフィル。
まあ確かに、イフィルがこうも心配するのもよく考えれば納得できる。だって誰かが目の前で背骨折られまくってたら流石に怖いもん。
「ごめんね、でも俺はこんなに元気だし」
その場で軽く動いて見せれば、ようやくイフィルも落ち着いたようだ。
「…うん、ありがとう」
余裕がなさそうだったさっきまでとは一変して、ようやく眩いばかりの笑顔を見せてくれて安心だ。
「岩矢」
その後も何回かイフィルに魔法を使ってもらった。
さっきのが心に何か悪影響を与えるのではないかと心配していたがそんなことはなく、二回目以降はうまく魔法を発現できていたのだが。
「岩矢──いっ…」
イフィルは突然顔を顰め始め、その場にへたり込んでしまった。
慌てて駆け寄り、荒い息を繰り返すイフィルの体を見ると、足が腐り始めていた。
いつもは朝起きると腐食が始まるはずなのに、魔法を行使しすぎたせいだろうか。
すぐに回復を使用し、腐食を取り除く。
「ありがとうアキ…足がいきなり痛くなっちゃって…」
「うん、今日はもう終わりにしよう。それで、どうだ、何か感じる? こう、加護っぽさみたいな」
「加護っぽさって…うーん、分からない」
どうだろう…この体への負担は…。
タイミング的に、魔法を加護込みで使ったら加護が暴走したみたいな感じだと思うが…。
「どうする? 続けてみる?」
「うん、アキが言うなら」
「い、いや、俺の気持ちはどうでもよくて…」
もしかしたら、これが全く加護じゃないマジモンの呪いで取り返しのつかないことになるかもしれないってことを恐れているんだが。
「今みたいに体の不調が起こっても、アキがすぐ治してくれるでしょ?」
そう真っ直ぐな眼差しで見られたら、黙って頷かざるを得なくなってしまう。
「一緒に、頑張ってくれるか?」
「キミが言うセリフじゃないよね」
ふふふ、と笑って俺の手を指を絡め握ってくる。
「私の為にいつもありがとう。これからも頼りにしてるよ」
そう笑顔で見つめられる。
こうも至近距離でイフィルの顔を見ると、頭が茹っていく行くのが否応なしに感じられる。
やっぱりすごい美形だよ彼女。
「あ、ああ」
顔を逸らしてそう答えるのが自分には精一杯だった。
その後、特に何もすることがなかったので、早速イフィルに書室に案内してもらい、魔導書なるものを貸してもらった。
書室で魔法をぶっ放すのは流石にマズいので、本だけ持って庭に出ると、何故かイフィルも付いてきた。
庭に座って、横から眺めてくるイフィルの視線に居心地の悪さを覚えながらも、魔導書を読んでみた。
「ゆ、ゅすび…?」
魔法を使うには、主に二つの方法があり、自身の魔力を呪文を用いて魔法を発現させる方法と、万物に宿る精霊と交信し、力を貸してもらう精霊魔法なるものを使う方法があるらしい。
魔導書には、精霊魔法は使用者が少ないので説明しないと書かれていて、ならば仕方がないと呪文を用いて魔法を発現させようと思ったのだが…。
「発音が難しすぎるだろ!」
何故かこっちの世界に来てから、文字も読めるし他の人とも喋れるのだが、呪文だけ何故か全くうまく発音できない。
何て言えばいいんだろうか、英文は読めても、英語は喋れない…? いや俺普通に他の人たちと喋ってるよな…。
なまじ回復は無詠唱で使えてしまうので、尚更意味が分からない。
とにかく自分には出来ないということが分かってしまったので、若干の落胆と共に俺は魔導書を手放した。
イフィルは慰めてくれた。




