拳銃の入手方法
「ひぇえ!」
テレビ番組の力を借りて、紗雪の愛する人を募る。
そう説明した氷室の言葉を耳にした紗雪よりも、成り行きを不安そうに見守っていた那須宮の方が、驚きの声を上げた。
「元国民的アイドルImitation Queenに所属していた、芸能人の桔梗ちゃんだけだって、こうしてプライベートなお話をしているだけでも奇跡なのに……!さ、紗雪ちゃんも芸能人になってしまうんですか……!?」
「紗雪ちゃんは元々著名人よ。父親は天門総合病院臓器売買事件の首謀犯。自身は悪魔の子をまとめ上げるカリスマ美少女として、テレビでも何度か取り上げられていたもの」
「ドキュメンタリー番組に出演しただけの一般人まで芸能人扱いしていれば、きりがないぞ。現役の芸能人としては、どう思う」
『ドキュメンタリー番組へ出演しただけの一般人に対して思うこと?』
桔梗は氷室に聞き返してから、笑顔で言い放つ。
『有名になったと思い込んで喜ぶ雑魚。芸能人には、類まれなる才能がなくちゃ』
悪魔としか思えない発言をした桔梗は、悪びれもなく鼻歌を歌い始めた。
紗雪から望みの言葉を引き出せて、気分がいいようだ。
電話越しでご機嫌な様子を見せる桔梗とは対照的に、那須宮はブルブルと震えている。
「げ、芸能人……恐ろしい……!」
桔梗が恐ろしい発言をするのは、今に始まったことではない。
すっかり慣れっこになってしまった氷室は、桔梗の発言を問題視することなく遠い目をしている美月を呼んだ。
「美月、どうした。何か言いたいことでもあるのか」
「桔梗ちゃんがご機嫌ムードな所、申し訳ないのだけれど……。紗雪ちゃんが氷室に話をしなければならないことは、別にあるわよね」
美月から促された紗雪は、困ったように力なく笑うと、不思議そうな表情を浮かべている那須宮と桔梗にわかるよう説明した。
「白雪先生には……助けてもらってばかりで……申し訳ないのですが……」
「なんだ。言ってみろ」
「わたしが生きるために……白雪先生は、キョウちゃんと一緒に……愛する人を、探してくださると言いました……」
「ああ」
「わたしが生き続けるには……あの人を、どうにかせねば、なりません……」
紗雪が示す「あの人」が誰なのかは、察しがよければすぐにわかる。
紗雪と言い争いの末、拳銃を発砲した男だ。紗雪と美月は男の顔を確認している。
これから狙われる可能性だって、0ではない。
(やっと本題に入る気になったか)
美月と桔梗がいると、なかなか話が前に進んでいかないと辟易していた氷室は、紗雪のか細い声を聞き洩らさぬように気合を込めた。
「俺が犯人逮捕に協力してやれることは、あまりない。天門総合病院の件で院長を逮捕できたのは、、暴力団と関わりがあったからだ」
『氷室先生、警察の人と知り合いなんでしょ?証拠を集めて、逮捕して貰えるようにお願いすればいいだけなんじゃ……』
「暴力団との関わりがいなければ、警察官とのコネなどあってないようなものだ。あいつは暴力団関係の事件でなければ、手が出せない」
氷室が紗雪の助けを求める声を拒んだのは、この件が原因にあげられる。
紗雪が暴力団関係者に銃で撃たれたと証言したならば、氷室は証拠を集めて警察官である藤井に渡し、あとを任せればいいだけだ。
一般人から銃で撃たれたとなると、無理難題をふっかけても対処可能な地位にいる警察官の協力者を見つけることから始めなければならない。
気が遠くなるような作業に、あまり人付き合いの得意ではない氷室は考えるだけでもくらくらした。
(俺は大人だ。いつまで経っても、現実から目を背けているわけにもいかない)
桔梗は紗雪の安全を確保するために、氷室が尽力することを望んでいる。
氷室が精神的に負担だからと目を背け逃げ続けていれば、紗雪が命を落としかねない。
この状況で氷室が精神的負担を心配して紗雪を助けず見殺しにしたなんてことになれば、運命の赤い糸で結ばれたはずの二人は、運命の赤い糸を断ち切ることになるだろう。
今更桔梗との間に結ばれた赤い糸を断ち切り、美月の手を取ることなどできない氷室は、口に出す言葉は後ろ向きながらも、心の中では闘志を燃やし続けた。
「暴力団絡みであることは、間違いないわよ」
口を挟んできた美月は、氷室が想像もしていなかったことを告げる。
(暴力団絡みであることは間違いない?一体何を根拠に……)
美月がはっきりと関係があると口にしたならば、確固たる証拠があることは間違いないだろう。
氷室は美月へ、続きを話すように訴えかけた。
「桔梗ちゃん。紗雪ちゃんの腹部を撃ち抜いた銃弾は、何処で仕入れたと思う?」
『本物の銃と弾丸って、普通に買えるの……?』
「本来ならば、一般人が簡単に手に入れられるような代物ではない」
『海外から輸入、してきたとか……』
「インターネットで海外から取り寄せようものなら足がつく。注文した時点で逮捕される。暴力団が関係しているならば、恐らく手渡しだろう」
『暴力団って、一般人に銃を売ってくれるの?』
「大金を積んで裏社会の人間から軽々と銃器を手に入れられるならば、銃による犯罪は数十倍以上になっているだろうな」
氷室は一般的な拳銃を想定してそうした知識のない桔梗の言葉を否定し続けているが、必要な道具とそれを生かせる知識さえ揃っていれば、拳銃に見立てたそれっぽいおもちゃから、本物とそう変わりのない破壊力を持つ拳銃を生み出すのはそう難しいことではない。
美月は氷室たちへ拳銃の入手方法を聞いているのだから、当然犯人が手にしていたのは本物であるはずだ。
一般人が拳銃のおもちゃを自らの手で生み出し、紗雪に試し打ちをしてきたわけではないと思いたい氷室は、どのような入手経路があるのかを真剣に考え始める。
(暴力団が絡んでいるが、大金を積んで購入したわけではない。自作以外で、一般人が本物の拳銃を手に入れる方法か……)
思考を巡らせる氷室は、ある答えに辿り着く。
不可能ではないが、一般人であればかなり無理のある可能性を。
「警察官、自衛隊、暴力団……銃器を管理する人間から、盗んだのか」
「さすがは氷室。話が早いわね」
鍛え抜かれた人間から拳銃を奪うなど、並大抵のことではないだろう。
一体どんな方法を使ったのかと美月に聞いたところで、答えられないはずだ。
氷室は難しい顔をして黙り込む。
犯人の目的が、理解できなかったからだ。
(リスクを冒して鍛え抜かれた人間から拳銃を奪い取るより、鋭利な刃物や素手で殺害を試みた方がよほど安全だ)
犯人がわざと捕まりたくて拳銃を奪い、死刑を夢見て罪を重ねているならば理解できなくもないが──リスクが高すぎる。
拳銃は安全装置を外して引き金を引けば簡単に人を殺せる。
魔法の道具だと認識する人がほとんどだが、実際に銃を使いこなすのは簡単なことではない。
ある日突然拳銃を手にした素人が、引き金を引いただけで心臓のど真ん中を貫くのはフィクションの世界か、適切な訓練を積み、知識のある人物が引き金を引いたときだけだ。
(何故拳銃なんだ)
氷室と桔梗は、うんうんと唸りながら思考を巡らせる。
氷室がどれほど考えても、答えが出ないことを一緒になって考えたとして。桔梗が考えたって答えが出るはずもないのだ。
氷室と桔梗には、大人と子どもほどの差があるから――
(天門紗雪を殺害する方法が、拳銃でなくてはならない理由でもあるのか)
どんなに思考を巡らせても、氷室は答えを絞り出せなかった。




