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召喚されて一週間ほどを過ごしているうちに、ふと気づいた。

一人の時間がないよ!


聖女は護衛対象だから一人でなんていさせてもらえない。

礼拝堂への行き帰りはアルベルトが付き添っているし、「おやすみ」を言うまでは自室にはルイーセがいる。

その他、見えないけどドアの外には護衛騎士さんが立っている。


一人になれるのは、祈る時と寝る時くらいだ。

だけど祈りの間や眠っている間って意識がないから、ほぼ一人の時間がないのよ!


これまでは慣れない環境や、聖女という事もあって、何も思わず言われるままに過ごしてきたけど、これがこのまま続くようじゃ耐えられない!

断固一人の時間を所望する!


「祈りに集中するために一人の時間が必要なのです」とでも言えば、祈らせるために召喚したのだから、あちらは何も言えまい。


では、一人の時間をいつにするか?

ちょっと考えて、お昼ご飯の時だよな~、といきつく。


昼食をとりに自室に帰ると、また礼拝堂に戻ってくる事になる。往復三十分。

残り三十分あればご飯は食べられるけど、食べてお茶を飲むだけ。ちょっと慌ただしいしね。


それに、アルベルトは悪い人じゃないけど、二回分の送り迎えはいらないよ。

護衛騎士さんだっているんだし、王子は自分の仕事をしてください!




という訳でお弁当を作ってもらう事にした。

昼食の場所は礼拝堂を出たところにある、ぐるりと回廊が囲んでいる中庭だ。


その希望は叶えられる事になったけど、実現するには少し時間がかかった。


防犯上の問題だ。

聖女わたしは自国の教会や、各国から狙われているからね。


まずは、ランチをする中庭に外から侵入されない強い結界をはる。


これは初日に会った筆頭魔法使いさんがやってくれる事になった。

筆頭というくらいだから国一番の魔法使いかと思っていたら、大陸で当代一と言われている凄い人だったよ!


改めてこの人を見る。


筆頭という、ただ一人にしか許されてない光沢のある漆黒のローブには、銀糸の刺繍が施されている。かなり繊細な模様が美しい。

だけどそれよりももっと美しいのは、彼の長い銀髪だった。

初めて見るそれは神秘的で、ちょっと感動した。


残念なのは顔だ。

美醜の方ではなくて健康的な方で。


身長は私より少し高いと思う。

百七十センチくらいかな?その身長に対して体重が少なすぎると思われる。

ローブを着ているから身体つきはよく分からないけれど、見えている顔と手首が細すぎた。


その上、日に当たってないような青白さと、目の下の濃いクマ。

真っ青な瞳の色のせいで、余計顔色が悪く見えるよ!

大丈夫?!と聞きたくなるような不健康さだ。


初日にも会ったはずなんだけど、その時は自分の事でいっぱいいっぱいだったからか、今になって驚いてるよ。

いや、ほんと大丈夫?


しかもアルベルトの時と同じく、紹介されたはずなのに名前も覚えてないというね。

内心焦っていると、アルベルトが改めて紹介してくれた。


名前はエミル。

筆頭魔法使いという高い地位にいながら平民なので姓はないそうだ。

年は二十五歳。不健康な顔つきで年齢不詳に見えるよ。


エミルは他の人のように、聖女様に対して過剰に敬っていない。

こういう対応はいいね。

そういえば契約書を作ってくれた時もそうだったなぁと、ぼんやりした記憶を思いおこす。


何はともあれ今回もお世話になる。

しっかり目を合わせてお礼を言おう。


「お忙しいところありがとうございます。よろしくお願いします」


言って頭を下げる。

挨拶とお礼はしっかりね!社会人の基本です!


「……お任せを」


エミルは真っ青な目を見開いて、少しの

それから短くそう言った。




中庭ランチのためには魔法結界の他、もちろん騎士の護衛もつく。


これまでもドアの前に立っている騎士さんや、礼拝堂の行き帰りに後ろをついてくる騎士さんがいたけれど、ランチの時には中庭を取り囲むらしい。


しょうがないね。奪われてはならない聖女様だし。

だけど一人の気分を味わいたいから、できるだけ私に見えないような配置でお願いします!


という訳で、筆頭魔法使いのエミルの時と同じく、護衛の責任者からもご挨拶をされた。

毎日のアルベルトの送り迎えの時に一緒にいる大柄な人だ。


挨拶くらいは交わしている顔見知りの彼は、なかなか偉い人だった。


「第二騎士団副団長、コンラード・オルセンと申します。我が剣と命を捧げ聖女様をお守りすると誓います」


言うや、跪かれたよ!!


立派な騎士さんが、ただのアラサー女に跪くなんて!

映画でしか見た事がない初めての事に舞い上がってドキドキしながらも、しっかりコンラードを観察する。


軍人らしい立派な体躯をしてらっしゃる。

跪く前の彼は、見上げるほど背が高かった。

今まで周りにいなかった高さだ。きっと百九十はあるだろう。


体重は見当もつかないけど、がっしりとした筋肉に覆われている。

だけどゴリマッチョという系ではないな。

私の語彙力では『立派な体躯』が一番合っている。


燃えるような赤い髪は短くサッパリと清潔感がある。

意志の強そうな濃い茶色の瞳。

年は二十八歳との事。


騎士団総長のお父さんを持ち、お兄さんも第一騎士団副団長と、騎士一家の次男さんだ。


第二騎士団の方々にもお世話になる。

譲れないけど、私が中庭ランチをしたいと言い出さなかったら増えなかった仕事だ。

誠意をもってお礼を言おう。


「ありがとうございます。頼りにします。どうぞ守ってください」


びっくりだよ!

「どうぞ守ってください」なんて生涯で一度も言った事がない。


何この恥ずかしいセリフ!何でそんな事言ってんの?

これも聖女パワー? 

自分の意思ではない言動、怖いわ!!


「……はい!!」


コンラードは薄っすら顔を赤らめて、力強く返事をした。


正解だったらしい…。




数々のご尽力の末、お一人様時間を過ごせるようになって、また一週間ほどがたった。


朝ご飯と一緒に届けられる、お昼になっても美味しく食べられるように作られたお弁当を食べて、その後お茶を飲みながらゆっくり過ごす。

なかなか広い中庭には木も植えられていて、木陰に入ってウトウトするのも気持ちがいい。


一人の時間最高!

たった一時間だけど、心からそう思う。


心に余裕が出来ると、周りに目を向ける余裕も出来るようで、回廊を行き来する人を見るのがちょっとした楽しみになった。


だってやっぱり見るものすべてが珍しいんだもん。

映画の中に入り込んで観賞しているというか、3Dで見ているというか。


俳優陣(違)の顔つきからいって洋画だよね!

髪型と衣装と建物は異世界あるあるの近世ヨーロッパ風だ。


みなさんキッチリ制服を着ている。

リアル従者さんはカッコいいし、リアルメイドさんは綺麗やら可愛いやら。

騎士さんなんて本当に剣を穿いているんだよ!

日本だったら銃刀法違反で即逮捕だよ!


そんな風にして行きかう人たちを観賞していたけれど、回廊にいくつもある柱の向こう側、回廊を渡る時なら廊下側に、人が立っている事に気が付いた。

見えないように配置されている、私の護衛騎士さんたちと思われる。


鍛えられた騎士さんをすっぽり隠すほど太い柱から、よく見たら跳ねた茶色い髪の毛がちょっぴり見えている。

近い場所だから気づけたのだろうけど、見事な跳ねっぷりだ。


……寝ぐせ? 


可愛らしいやら可笑しいやら。

ホッコリして、自分が微笑んでいる事に気がついた。

召喚されて以来、こんなに心が和んだ事はないよ。


私は歩いてその寝ぐせ君のところまで行った。

姿を見せないようにと言った聖女ほんにんが近寄ってくる。

訓練されている筈の騎士さんたちに動揺が走った。


柱の向こう側に回り込んで、寝ぐせ君を見上げる。

ククッ。跳ねてる跳ねてる。


それから、柱と一緒に一列に並んでいる騎士さんたちを見渡して、笑顔でお礼を言った。


「こんにちは。いつも守ってくれてありがとう」


みなさん一瞬固まって、それから全員剣を抜くと私に掲げ、その手を胸に置く。


「「我が剣と命を捧げ聖女様をお守りすると誓います!!」」


コンラードの時にも思ったけど…、あなた達、その誓いって王様に捧げるもんじゃないの?




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