4.5
◇◆オッド◇◆
聖女様の護衛ができると聞いて、私たちは皆歓喜に沸き立った。
世界に澱みが出始めて十年、それがウィリディスにまで広がって来て五年、長く苦しい日々にやっと救いが現れたのだ。
子供の頃から語り聞き、読み知っている聖女様が世界にご降臨されるとは!
それも我が国にだ!
澱みと魔獣のせいだとわかっていても、この時代に生まれた事に感謝した。
聖女様が昼食をとられる中庭の護衛に第二騎士団が選ばれたのは、コンラード副団長のおかげだった。
聖女様の任を務められるのは第二王子殿下だ。
副団長は第二王子殿下の護衛も兼任しているので、聖女様の護衛も我ら第二になったという訳だ。
ありがとう!副団長!ありがとう!殿下!
子爵家の四男として生を受けた私は、物心ついて早々に自身で身を立てる算段をした。
文官は人数に限りがある。騎士団ならどうにか潜り込めるだろうと、幼き日より鍛錬を始めた。
そして学園の騎士科を卒業し、配属されたのが第二騎士団だった。
聖女様の護衛ができる!
次男以下のあまりものの第二騎士団に所属して、これほど嬉しかった事はない。
それ以上に聖女様をお守りできる誇らしさ。
それから、もしかしたらチラリとでもお姿を見られるかもしれないという期待。
聖女様はお一人の時間を所望されているので、なるべく姿が見えないようにと達せられていたから、実際は盗み見する事も叶わないだろうけど。
多くを望んではいけない。
聖女様の護衛などという大役を仰せつかったのだ。
私たちは、聖女様を何からをも守る!と、本当に本心からそう思っていたのだが…。
その時、聖女様がこちらに歩いてくる気配がした。
聖女様はお一人の時間を所望されているから、なるべく姿が見えないようにとの事だったのに…?
何故だ?! 何があった?! 私たちはこのままここにいていいのか? いや持ち場を離れる事は許されない!
見られる事は叶わないと思っていたお姿を、見られるかもしれない。
子供のころから憧れている聖女様のお姿…。
肉体と共に精神も鍛え上げている私たちが、これほど動揺したのは初めてだ。
初めての魔獣の討伐でもこれ程のものはなかっただろう。
皆考える事は同じだ。
あちこちに気持ちがいって、ソワソワと落ち着かない。
我らは、回廊に立つ柱の、聖女様からは見えない側に立っている。
聖女様はどんどんこちらに近づいて来られる。
緊張がピークに達した時、ひょっこりと聖女様が顔を覗かせた。
それは私のすぐ側で、私を覗き込むように、見上げてくださったのだ!
聖女様は楽しそうに微笑んでおられた。
小さな笑い声も聞こえる。
なんて可憐な方なのだろう。
天上人であらせられる聖女様に対して不敬であろうが、楽しそうな笑顔は『可憐』としかいいようがなかった。
それは一瞬で、多分それを見たのは私だけだったろう。
それから聖女様は一同を見渡して、お声をかけてくださった。
「こんにちは。いつも守ってくれてありがとう」
魂が震えた。
その一声で魅了された。
きっとこの場にいた者すべてがそうだろう。
一瞬遅れて、労いのお言葉に気づくと、身体が勝手に動いていた。
その場にいた全員が剣を抜くと聖女様に掲げ、その手を胸に置く。
「「我が剣と命を捧げ聖女様をお守りすると誓います!!」」
一糸乱れぬ誓いの言葉。
聖女様の護衛を任されたと聞いた時、聖女様を何からをも守ると、本当に本心からそう思った。
それなのに、今この時の気持ちを何と表していいのか、言葉が見つからない。
心の底からというのは、こういう気持ちなのだと知った。




