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クレイジー・マジシャンズ  作者: 鈴木那由多
◆4話 愛しても尚、道は険し
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愛しても尚、道は険し エピソード2

純粋なファンタジーを書こうと思っていた心は、どこかに消え去っていきました。

「なあ、あいつが本当にこの学校一の美少女なのか? 俺にはとてもじゃないが綺麗というか、むしろブッサイクにしか……」

 といって康太は口ごもる。悪口を言っているみたいで、どうも言葉にし難い。

「はいはい、どうせ私はそんなブッサイク以下のブスって言いたいんでしょ?」

「いや、そんなことは一言も……」

 どうやら怒らせてしまったようだ。

 ということは、愛理もあの岡野麻由美の事を綺麗だと思っているということだろうか。

 岡野麻由美、ここからでも分かる肉付きのよさ。ふくよかな顔に似合わず気合いの入ったツインテール。学校のマドンナが優雅に登校している、というより、二足歩行の豚が何故か周りに持てはやされているという印象を受ける。

 やはりちっとも可愛くない……。

 何かがおかしい気がする。

 康太は近くにいた男子に聞いてみる。

「なあなあ、これは学校全員でドッキリか何かやってるのか? これだけ持ち上げておいて、ある日突然急にブサイクのレッテル張られようものなら、あの子二度と立ち直れなくなると思うんだけど?」

 割と本音に近いものをそのままぶつけてみた。すると……。

「お前それ本気で言ってるのか? 岡野麻由美っていえば今、誰があいつのハートを射止められるかっていう、戦国武将も真っ青な、学校総出の戦国乱世だぞ。まあ、これで康太はこの争いに参加しないという事が判明したが」

「ああ、勝手にやってくれ……」

 はっきり言って何がなんだかわからない。

「康太も残念な感性してるなー。ま、女子は麻由美様だけではないからな! 他のそこらの女子とでも学生青春気分を味わうがいい!」

 また別の男子は女子を煽るような事を言う……。

「何それケンカ売ってんの?」

 と、クラスの女子……。

「おい、そんなことやってる場合か! 俺らも早く玄関前に突撃するぞ!」

 これまた別の男子がそんな事を言うと、

「おぉ!」と声を揃え、クラスの男子は我さきにとダッシュする。そんなに走ったら埃が舞ってしまうのだが。

 もうワケが分からない。




 学校は突如現れた学校のマドンナ、岡野麻由美の事で持ちきりだった。

 康太が見る限り、嘘でもなんでもなく、学校中の男達が本当に彼女に対して好意を持っているように感じた。

 康太は完全に一人置いてけぼりにされていた。

 現在は昼休みだが、クラスの男子達は弁当もそこそこに、早々とウワサのアイドルの元へと駆けて行ったようだ。

 康太はというと、相変わらず教室の自席でぼんやりしていたが、やがて女子の中にぽつんと自分だけ男が混ざっている事に気付き、そそくさと教室から退散してしまった。

 と言っても特に行くあてはなく、ふらふらと歩いていた。

「おい、何かおかしいとは思わないか?」

 康太は歩きながらもぼーっとしていたため、それが自分に向けられて発された言葉だと気付くのに少し遅れた。

「佐竹か」

 どうやら康太は無意識のうちに学校前の鉄柵の檻の所までやってきたらしい。

 類は友を呼ぶというか、やはり自然と引き寄せられる何かがあるのかもしれない。

「おかしいって何のことだ?」

「何ってあのデブマドンナの事に決まってるだろ」

「佐竹……お前……」

 学校中の男子達が彼女に盲目になる中、この柵の中にいたこの男もまた、康太と同じ考えを持っていたらしい。

「当然だ。学校中の可愛い女子を一人残らずデータベース化しているこの俺がまさか見過ごすはずがないし、そもそもあいつは俺の中で対象外ノーマークだったはずなんだ」

 と、佐竹は自信を持って断言するのだった。

 そう。この男は女子に関する情報は気持ち悪いとさえ思うくらい、豊富な情報量を収集しており、この点に関しては絶大な信頼を置ける存在なのだ。

「やはりな……。これは何か裏がありそうだな」

 と康太は妙に真剣な顔つきで考える素振りをした。……考える素振りとはつまり、知的な俺カッケー! をする為の演出であり、考えるというよりむしろ考えている感じをしてみせただけの事である。

「ふん、……どうせ奴も何かの魔法を使ったってことだろ」

 と柵の奥から今にも死にそうな、擦れた弱々しい声が聞こえてきた。

 スカートめくりの首謀者であり、“透明化”の魔法を使う豊田影朗とよたかげろうである。

「つまり、異性を惹きつけるような魔法という事か……?」

 と康太がぽつんとつぶやいた。

 確かに、魔法の為せる技と言えばそんなような気がしなくもない。

 そういえばそんな感じの魔法が、以前にもあったような……?

「だが、本当にそうだとしてその事実はどうやって暴けばいいってんだ? 俺たちスカートめくり犯の言葉なんて誰も聞き入れないだろうし……」

 佐竹はそんな事を言いながら、ゆっくりと視線を康太に向けていた。

 もう一人のスカートめくり野郎も、いつの間にかじーっと康太に目を向けている。

「お、おい……。まさか俺一人でこの真相を暴けってのか……?」

「あんな魔法で成り上がったようなインチキデブは、真実の元に曝して少しは痛い目に合わないと分からないってもんだぜ。だから、頼む康太」

「う、う〜ん……」

 妙に真剣な表情で訴えかける佐竹。こうなると康太も断り辛くなる。

 全く……。女子の事に関してはすごい意欲を見せる奴なのだ。

 どのみちこのまま放置しておくと、いろいろマズそうだし、何より康太の教室の居心地の悪さが今日一日だけでも、抜群に最低だったという事を踏まえると、他人事ってだけで済まされる事でもなさそうだ。

「しょうがないか……」

 ……ああ、メンドクサイことになりそうだ。




 昼休みの間。思えば自分はよくやったと褒めてやりたい。




 康太はまず岡野麻由美のいる教室へと向かった。

 そこはすでに大勢の男子が殺到しており、少しでもお近づきになるべく、押して押されてを繰り返す熾烈な争いが繰り広げられていた。

 そこで康太は、

「シャラーップ!」

 割と大きな声で言ったつもりだったが、まるで誰も聞き入れない。

 というより、それよりも活気のある生徒たちの声に完全にかき消されてしまっている。

「むむむ……」

 直接この場にいる全員を黙らせて、その目の前にいる女に騙されている事を大々的に喋ってやろうと思ったのだが、どうやらそれは不可能らしい。

「くそ、次だ!」



 康太はビラを作った。

 内容は以下の通りだ。


 親愛なる生徒諸君。

 私は君たちに真実を知ってもらいたい。

 今、学校で有名な某女子生徒は、卑劣な手を使って男子達を魅了している。

 それに気付いてほしい。

 よく見てほしい。

 ぼってりとした、だらしのない肉塊のような体躯。

 脂の乗った汚らしい顔面。

 ブサイクな間抜け顔。

 そこのあなた、騙されています。


「お、おい……。これはイジメになるんじゃないのか?」

「バカね、宣伝文句ならこれくらい仰々しく書いておかないと、効果も薄くなるってもんなのよ」

「そうかな〜……」

 教室で一人しばらく白紙の紙とにらめっこして、文面を考えていたところ、結城愛理がやってきて、ほとんど彼女の入れ知恵によりこのようなビラが完成した。

 これでいいのかな〜と思いつつ、生徒会室にあったコピー機(ここにはあらゆるものが何故か揃っている)で増刷した。

 それから通りかかる生徒に配ったり、廊下に勝手に掲示するなどして宣伝を始めた。

 時間がそんなに経ってない頃、すぐさま多数の生徒による反応が返ってくる。

「麻由美様はブサイクじゃないやい!」

「分かってねーなー、逆にブサイクな所がいいんだろ。ブサイク萌えだ。ブサ萌え」

「バカか。お前等あの丸みを帯びたボディラインに敬意を示してこそ、真の麻由美様ファンというものだろ」

 どうやらビラでの活動もむなしく、岡野麻由美の崇拝者たちが各々彼女を賛美するだけに留まり、もはや文面で理解させて解決できるレベルでもないらしい。

「どうすりゃいいんだ……。これ……」

 何も解決しないまま、時は流れていく。




 陽も暮れて、遅くまで部活をやっていた生徒達も帰ってしまった頃。

「俺たちはいつになったらここから出られるんだろうな」

 相も変わらず、柵の中にいた二人のうちの一人、佐竹紀明が言った。

「俺達からパンツ愛がなくなったら……だろうな」

 もう一人の変態、豊田影朗が答える。

「パンティー愛がなくなるって……」

 パンティー愛とは。すなわち、パンツにかける男達の情熱の事である。

 パンティー愛好者には二種類あると言われている。

 一つ目は、パンティーそのものを見たいという派。

 二つ目は、スカートにより、見えそうで見えないというジレンマ、想像力をかきたてるものを好む派がある。

 この柵の中にいる二人は無論、前者の方である。スカートをめくるという人間の禁忌を犯してまで中を見たいというこの二人は、この狭い牢獄の中で、ひそかに意気投合していた。

「まあ、お互い数々のスカートをめくってきたから分かるだろう。この内に秘めたるパンティー愛がなくなったとき、それは……死を意味すると」

「ああ」

 佐竹は言われなくても分かっていた。

 男にはこれだけは譲れないものがある。生きる信念を失った時、男は涙する訳でもなく、怒り狂う訳でもなく、間違いなく死ぬのだ。自らの手で。

「しかし、あれほどめくりたくないと思うスカートもあまりないものだ」

 と豊田は言う。あれほどとは、つまり話題の女子高生、岡野麻由美を指していた。

「全く同意だな。むしろ嫌悪感さえ抱く」

 とこれは佐竹。そして……

「俺もそう思うぜ」

 福島康太は柵の外から言った。

「お、お前何故……」

 学校の授業はとっくに終わり、暗くなりかけている頃である。

 普段の康太なら既に家に帰って寝ている時間だ。

「あれから、あいつの事を調べていたんだ。すると、重大な事実が判明したんだ」

「重大な事実だと……」

 佐竹が尋ねて、息を呑む。

「ああ、あいつが異性を惹きつける原因、それは――あいつの穿いているパンティーのせいだったんだ!」

「パンティーが? 一体どういうことだ」

 今まで、むっつりと黙り込んでいた豊田だったが、痺れを切らして問いかける

「そのパンティーには魔力が込められていて、穿いたものの魅力を素晴らしく増幅させてしまうという効果があるようなんだ」

「ハッ、そんなバカな事あるかってんだ」

「いや、証拠はある。そのパンティーの影響を受けなかった人物。つまりここにいる俺達3人だ。この3人に共通して言えるのは、真のパンティー愛を知る者だということだ」

「なるほど、つまりパンツの何たるかを知る俺達は、そのパンティーの影響を受けなかったということだな」

 と、納得した佐竹が康太の話に補足する。

「確かに筋は通っているようだ。だがしかし、それが分かったとしてどうなる。そのパンティーをこっそり盗みだすとでも言うのか。それこそ奴は今の生活を維持するために必死に守り抜く事だろう。容易い事ではない」

「その方法については私が説明しよう」

 と言って、暗闇の学校から現れたもう一人の影、生徒会長の斉藤謙一が登場する。

「……あなた達に頼みがあります」

 と会長は言って、一呼吸してから、

「パンティー脱がしをやって頂きたい」

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