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蒙古襲来  作者: レモンティー


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第一章 六度の使者

海は、まだ静かだった。

だが――大陸では、すでに結論が出ていた。

「服従せよ」

その一言を伝えるため、使者は日本国に送られる。

一度ではない。

二度でもない。

最初の使者は、まだ穏やかだった。

「元国の皇帝の威光に従えば、血は流れない」

随行の者が小声で言う。

「これで終わる。どの国もそうだった」

「従えばいい。それだけだ」

だが――

返事はない。

「……どういうことだ?」

「時間がかかっているだけだろう」

「いや……様子がおかしい」

二度目の使者。

言葉は、少しだけ強くなる。

「拒めば、災いが来る」

「これは警告だ」

「慈悲を示しているうちに決めよ」

だが――

返事はない。

三度目。

「最後の警告である」

使者の声に苛立ちが混じる。

「なぜ答えぬ」

「理解しているはずだ」

「我らは選択肢を与えているのだぞ」

だが――

返事はない。

四度目。

もはや声は命令に変わる。

「抵抗は無意味である」

「逆らえば滅びる」

「それは決定事項だ」

だが――

返事はない。

使者の一人が吐き捨てる。

「無知か」

別の者が首を振る。

「違う……」

「理解していて、答えていない」

五度目。

大陸側の記録には、明確な変化が現れる。

「なぜ返答がない」

「なぜ沈黙を続ける」

「恐れているのか、それとも――」

言葉が止まる。

誰もその先を言わない。

だが全員が理解している。

“拒絶”という可能性を。

そして六度目。

最後の使者。

彼らはすでに外交官ではなかった。

「確認だ」

「従うか、否か」

「それだけだ」

船上で、一人が呟く。

「これで終わる」

別の者が答える。

「ああ……どちらにせよな」

博多。

日本側にとって、それは議論ではなかった。

結論は最初から決まっている。

鎌倉。

武士の国。

幕府の中枢。

そこにいる者たちは、書状を前にして沈黙していた。

だがその沈黙は迷いではない。

「異国の王が命じる?」

「ここは日本だ」

「……返す言葉は?」

短い沈黙。

そして一人が言う。

「いらぬ」

別の者が頷く。

「なら、答えは一つだ」

「来れば斬る」

それだけだった。

博多。

使者が到着する。

文書を掲げる。

「我らは大いなる皇帝の命により――」

途中で声が遮られる。

「敵だな」

使者が眉をひそめる。

「何だと?」

「我らは使者――」

「関係ない」

「待て、これは交渉だ」

「違う」

武士が一歩踏み出す。

「確認だ」

「お前らが敵かどうかのな」

空気が変わる。

使者の一人が叫ぶ。

「無礼だぞ!」

「これは国と国の――」

最後まで言わせなかった。

刀が抜かれる音。

「やめろ!」

「待て!」

「話せば――」

斬撃。

交渉は、終わった。

理由はない。

議論もない。

ただ――結論だけが先にあった。

使者たちは処刑された。

そして、誰も戻らなかった。

記録には、ただ一行。

「帰還せず」

大陸。

報告を受けた官が言う。

「……全員か」

「はい」

「一人も戻っておりません」

沈黙。

「事故ではないな」

「はい」

「では?」

答えは一つしかない。

「拒絶、です」

六度。

すべてが無視されたのではない。

一貫して、拒絶された。

皇帝の前。

報告が読み上げられる。

「六度の使者――帰還せず」

短い沈黙。

そして、声。

「六度も与えた」

誰も顔を上げない。

「それでも従わぬか」

怒りではない。

観測に近い冷たさ。

「理解していないのではない」

「理解した上で、選んだのだ」

側近が問う。

「では、いかがなさいますか」

間を置かず、答えが出る。

「侵攻」

それは戦争ではない。

“秩序の執行”だった。

一方――博多湾。

鎌倉武士は、その経緯を知らない。

「いつ来る」

「もうすぐだ」

「遅いな」

知っていても、関係がない。

彼らの論理は一つ。

「来たら?」

「斬る」

「それだけだ」

そして後世、人々は語る。

「使者は殺され、戦は始まった」

だが、それは正確ではない。

「六度の勧告があった」

「そして七度目に、軍が来た」

だが本質は違う。

六度の時点で、すでに戦争は完成していた。

あとは――

実行されるだけだった。

海の向こう。

大陸。

その報は、元国の皇帝クビライの元に届く。

最後の報が届く。

「使者たちは戻りませんでした」

沈黙。

そして、短い一言。

「ならば滅ぼせ」

側近が静かに復唱する。

「降伏を拒む者は――」

皇帝が続ける。

「皆殺しにせよ」

(草原の掟により降伏を拒んだ者は皆殺し)

その瞬間。

戦争は、不可避となった。

外交とは終わりではない。

それは猶予だ。

そして日本国・鎌倉幕府は――

その猶予を、自ら切り捨てた。

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