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42-1・燕真と茨城童子~暇な仲間達~怪しい気配

 文架市から離れた某所にある山。

 やや特殊な見た目の赤いホンダVFR1200Fが山道を突っ走る。中腹の駐車場に停車をしてヘルメットを脱ぎ、見るからに平凡な若い男が山を見上げた。


「警報の場所はここか」


 彼の名は佐波木燕真。退治屋文架支部に所属をしており、半年前までは文架市に住んでいたが、今は全国各地の調査の為に出向をしている。

 斜面を駆け上がり、ハイキングコースを外れた雑木林に入ってから、鬼の顔が施されたリングを指にはめて正面に翳した。

 指輪に隠っていた念が押し出され、燕真の正面で漆黒の煙が上がる。そして煙の中から、燃えるような赤髪と青い体色の角が2本生えた大男=茨城童子が出現をした。酒呑童子の副将を務めた鬼は、燕真が文架市から出向をする時に「餞別代わりだ」と預けられ、今は燕真のパートナー、兼、護衛の任に就いている。


「この気配、ヤマビコか」

「解るか?案内してくれ」


 一般的な退治屋ならば霊感を研ぎ澄ませて妖怪を感知できるのだが、佐波木燕真は霊感ゼロ。妖力感知レーダーを使うか、茨城童子に頼らなければ、妖怪の潜伏場所を探すことが出来ない。


「うむ、付いて来い、未来の婿殿」

「毎度の事だけど、その『婿殿』って何だよ?」

「ふっ!愚問だな!婿殿は婿殿だ!」

「意味わかんね~よ!」


 茨城童子の案内で、草木を掻き分けて目的地に向かう。燕真は知らない事だが、茨城童子は、お館様と奥方様から「未来の婿殿のサポートをよろしくね」と頼まれているので、燕真を「婿殿」と呼ぶ。そして、これもまた燕真は知らない事だが、茨城童子には戦闘面での燕真のサポートの他に、燕真が現地の女の子と“イイ感じ”にならないように見張る&妨害するって任務も受けていた。おかげで、今まで3回ほど、燕真は“彼女が出来そうフラグ”をへし折られている。


「近いぞ、婿殿!」


 逃走するハイカー達に遭遇。燕真と茨城童子は、人の流れに逆らって斜面を駆け上がり、身長3mほどの異形を発見した。中級妖怪・ヤマビコ。人間を捕食する凶暴な妖怪だ。


「ビコビコ~~~~っ!」


 燕真は、専用ベルトを装着して構え、変身アイテム・Yウォッチに手を添える。だが、茨城童子が燕真の腕を掴んで制止した。


「待て、婿殿!」

「んっ?どうした?」

「くっ!・・・この気配は、もしや?」


 燕真の腕を握る茨城童子の手の平から、茨城童子の緊張が燕真に伝わる。


「!!!?」


 次の瞬間、派手な色彩と装飾の着物を纏った和装の女が真横に立っていた。燕真は、真横に立たれるまで、女の気配を全く感じなかった。


「ア、アンタは・・・」


 燕真が話し掛けようとした直後、茨城童子が燕真の頂頭部を鷲掴んで、力任せに地面に押し付け、自身は地に片膝を付いて頭を垂れた。


「頭が高いぞ婿殿!この御方を、どなたと心得る!?」

「頭から手をどけろっ!この人は・・・」

「そこの鬼、余計な口外は無用じゃ」

「ははぁっ!」

「イイから手を離せ、茨城!コイツは・・・」

「無礼な物言いをするな!詮索は無用だ、婿殿!」

「知っている人だろう!?」

「知らんっ!」

「解りやすい嘘を言うな!さっきは、知ってる感じだったじゃね~か!」

「黙れ!これ以上、口にしたら、いくら婿殿でも、ただでは済まんぞ!」

「解った解った!黙るから、とりあえず頭から手を離せ!」


 茨城童子の手をどかして、顔を上げる燕真。

 ヤマビコに背を向けた女が、「パチン」と音を立てて日本刀を納刀したら、その背後でヤマビコが真っ二つに切断されて爆発する。要は、燕真が地面に顔を押さえ付けられている間に妖怪の討伐が完了した。


「・・・瞬殺かよ。メッチャ強い」

「フン!あの御方なのだから、当然だろう!」

「やっぱ、知ってんじゃねーか!」


 戦いを終えた女が戻ってくる。茨城童子が再び燕真の頂頭部を鷲掴んで地面に押し付け、自分は片膝を付いて頭を垂れる。


「頭が高いぞ婿殿!」

「いちいち土下座させるなっ!」


 女は燕真&茨城童子の脇を通過して数歩進んだところで足を止めた。


「わらわは戦姫。武者修行の最中に、遭遇した妖怪を斬り捨てたまでじゃ」

「はぁ?戦姫?・・・アンタは」

「空気を読め、婿殿!この御方は戦姫様だ!」


 女は地面に押し付けられている燕真に微笑み、艶々で長い黒髪と着物の裾を翻して、気品と色気を感じる立ち居振る舞いで悠然とした態度で去った。そして、茨城童子は、女の姿が見えなくなるまで、燕真の頭を地面に押さえ付けたまま、ひたすら低姿勢で傅き続けていた。


「い、いつまで、俺を押さえてんだよっ!?」

「あの御方の姿が見えなくなるまでだ!」

「そもそも、なんであの人が、ここに居るんだよ?」

「むぅっ?あの人とは誰のことだ?

 此処には、私と婿殿以外には誰も居ないではないか!」

「オマエ、言ってる事がメチャクチャだぞ!」


茨城童子の手をどかして、顔を上げる燕真。女の姿はもう何処にも無かった。




―翌日の放課後・2年A組―


 サトリ騒動が解決してから数日が経過。愉怪な仲間は陽射しで暖かい窓際に椅子を並べて腰かけて、特に報告事項も無いので他愛のない話をしていた。要するに至って平和だ。


「ふぇ~~~~・・・暇だぁ~~~」

「麻由ちゃん、『愉怪な仲間達』への依頼は?」

「特にありませんね」

「依頼を生徒会経由にしたんだから、

 今までみたく下らない依頼なんて来ないんだろうな」


 ゆる~い愉怪な仲間達とは対照的に、校庭では各運動部が練習に精を出している。耳を澄ませば音楽室から楽器の音が聞こえる。


「それでは私は、部活動に参加するので、これで」

「そんじゃ、あたし達は帰ろっか」


 麻由が時間を確認して立ち上がったのを合図に、皆で動き出す。


「あっ!私、今日は、ジャンヌさんの付き添いだった!」

「んぁっ!ァタシ、暇だから、真奈とジャンヌに付いて行ってイイ?」

「紅葉、学生に暇な時間など存在しません。

 時間が有るのならば、自学や自主トレなどで有効利用を」

「んっ!解ってる!」

「うわっ!それ、絶対に解ってない時の返事だよね、紅葉ちゃん」

「まぁまぁ、そこは人それぞれ。紅葉には紅葉のペースってのがあるんだ。

 皆が皆、麻由みたいにシビアなわけじゃないんだからさ」


 美穂は、麻由の前では「時間の使い方は人それぞれ」と言ったが、定期テストで底辺(2年2学期中間)→172位/240位(2年2学期末)→80/240位(2年学年末)と順位が上がってきたことが楽しくて、麻由ほどではないが自学に時間を割くようになっている。ただし、「やれ」と言われて出来るものではなく「やらないヤツは、言い訳を作ってやらない(美穂自身がそうだった)」と解るので、他人に強要する気は無い。




―2時間後・武面拠自動車学校―


 ジャンヌがコースで実技を受けている。学科が苦手でやや停滞気味だが、実技は何の問題も無く進捗して、もう直ぐ第1段階の見極めの予定だ。

 あっと言う間に終業時間。紅葉と真奈が居る待合所に戻ってきた。


「これで終わりっ?帰ったら、みんなでゴハン行こっ!」

「いや、1時間後に実地をもう1時間を受ける事になっている」

「ふぇぇぇっ・・・まだやるの?大変だね~。全部で、ぁと何時間あるのぉ~?

 免許なんて無くても、ユニコーンはOKなんだから、

 ベンキョーしなくてもイイんぢゃね?」

「それでは、昭兵衛殿が託してくれたハスラーⅢに乗れませんからね」

「あ~~~・・・そっかぁ~」

「義理堅いジャンヌさんらしいよね」


 教習の感想を聞いたり、ドラマやアニメの話題に飛んだりして、取り留めの無いガールズトークで時間を潰して1時間が経過。ジャンヌが「行って参る」と歩き出そうとしたら、紅葉のアホ毛が立ち上がり、妖気の発生を感知する。


「んぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」


 いきなり奇声を発して立ち上がったので、周りの生徒や事務員達が「何事か?」と眺めている。真奈が紅葉の口を塞いで宥め、皆で外へ出て輪になった。


「妖怪がでたの?」

「んっ!ヨーカイっ!」

「直ぐに出動しよう!」


 麻由も気付いたらしく連絡が来た。


「マユゎバルミィ呼んで連れてってもらうってさっ!」

「私達も急ごうっ!」


 ジャンヌが教習のキャンセルをして、3人は外へ出て校舎の死角に入る。車長モトコンポ(☆マシン綺羅綺羅☆)&ユニコーンバイク召喚。紅葉が真奈に「後ろに乗れ」と言うが、格好悪くて嫌なので、真奈はユニコーンバイクのタンデムに飛び乗った。


「んぁっ!!」

「どうしたの?」

「パゥダーゥッドからメール来たっ!!

 ぇと・・・

 『戦姫と名乗る謎の女が、文架市に向かった。

  上級妖怪の可能性あり。厳重注意せよ』だって!!」

「その『謎の女』とやらを、クーチャンが察知したのか!?」

「かもしんないっ!ただの妖力とゎ何か違ぅのを感ぢたっ!

 いつもの妖怪とゎチョット違うかもっ!」

「いつもと違うって、海跳先輩みたいな感じ?」

「良く解んないけど、海跳センパイともチョット違うっぽいっ!

 海跳センパイの時はピリピリって感じだったケド、今ゎグサグサって感じっ!」

「意味が解んないっ!」

「ここで話していても蓋が開かない。先ずは現地に行きましょう!」

「ジャンヌっ!ソレを言うなら『クサイ物には蓋をする』だよっ!」

「違うよ紅葉ちゃん!ジャンヌさんが言いたいのは『埒が開かない』ね」


 ☆マシン綺羅綺羅☆&ユニコーンバイクが現場に向けて発進をする。

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