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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第4章 東渡りのジグ人の真実

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第99話 下手人と依頼人

 ジェルナン殿は姫が何をしようと、ただ愛おしくて、銃と金属片が作った小さなやけどを心配して、尼僧院の奥で休むよう侍女たちを呼んだ。


 だが、一人になると、彼は呆然と、さっきの言葉を繰り返し消化した。

 いろいろな言葉が浮かんでは消え、今までの変な彼の夢の切れ端が、彼女の言葉を裏付けていく……


 だけど、結局、そんなことはどうでもいいことに思えた……事実上の王として君臨するこの世界に、彼は満足していた。努力の末に勝ち得た地位だった。それに……


 彼女が死んでしまったと思ったその時、そして、生きていてくれたことがわかった時、彼は自分の心の黙示録を読んだのだ。

 

 彼の運命なんて、安いものだった。彼女の命に比べれば。




 やがて彼はリグを呼んだ。


 そう、この国の人々は彼を必要としていた。彼の指令を待っていた。


 陛下と話している間は、誰一人遠慮して部屋に入ってくる者はいなかったが、ドアの外には緊張した貴族たちが大勢詰めていて、彼の決定を待っていることを知っていた。


 リグは呼ばれるのを待っていた。彼の目はギラギラしていた。


「さあ、リグ、陛下には安心していただいた。別室へ行こう。下手人を呼べ。」


 従僕たちが急いで駆け付け、王配殿下に手を貸した。


「主だった貴族たちも待ち構えております。殿下のご裁定を。下手人には残虐な死を。」


 襲撃事件からまる二日たっていた。

 襲撃犯はつかまっていた。

 みすぼらしい様子の中年の兵士だった。


 彼は無言でその男と向かい合い、周りにはマノカイへのあからさまな挑戦に逆上した貴族の面々が押し黙って詰めかけていた。


「なぜ、我々を狙った?」


「た、頼まれたから」


「誰に頼まれたのだ」


 下手人はためらった。キイキイ声のユーグ公が乱入してきて叫んだ。


「こんなやつの話を聞くことはない。即座に殺してしまえ」


 ジェルナン殿が公を押しとどめた。彼は興奮している様子もなく、静かにその男に尋ねた。


「誰かね? そしてなぜかね?」


 こんな男が自分の意志でマノカイの王家を狙うはずがなかった。

 ありふれた兵士用の服を着、兵士にしては年を取りすぎている。虚勢を張っていたが、実のところ恐怖で震えているのが見え見えだった。どう見ても狂信的なテロリストタイプではなかった。


 マーリー殿が勢い込んで一枚の紙をジェルナン殿に渡した。


 上質の紙で、こんな兵隊崩れが使うような紙ではなかったが、汚くたたまれぼろぼろだった。こう書いてあった。


『マノカイの王配を殺した場合  金100   ゼノア王 ラセル』


 ジェルナン殿は目を光らせた。


「そいつはどうでもよろしい。もう一枚ある。」


 興奮しきったユーグ公が叫んだ。


 顔を緊張させて、マーリー殿が、もう一枚を手渡した。


『マノカイの女王を殺した場合  金1000  ゼノア王 ラセル』


 ジェルナン殿は驚いて、紙を呆然と見つめた。2枚の紙は、筆跡も同じ、紙質も全く同じだった。


 我に返って、彼は周りのマノカイの貴族たちの顔を見た。


 ユーグ公と目があった。ジェルナン殿と敵対していたはずのジャボット殿、ステイン殿とも目があった。


 なぜ、女王陛下を? ジェルナン殿を憎む者はマノカイ国内にもいるかもしれなかったが、なぜ陛下を?


 集まった貴族たちの顔つきが変わっている理由が理解できた。これは自分に対するテロではなかった。


「マノカイへの挑戦だ」


 ジャボット殿が言った。


「ゼノア王に復讐を。死を」



「陛下には知らせるな」


 王配殿下は厳命した。


「どうする気だ。まさかこのまま捨て置く気ではあるまいな?」


 ユーグ公がジェルナン殿に詰め寄った。


 ジェルナン殿は、豪華な作りの王宮の中で、たった一人薄汚い恰好をした下手人に向き直った。


「まず、この者に聞こう。この紙は誰からもらった?」


「わ、わかりません。知りません」


「嘘を言え。ならばなぜ、今手元にあるのだ。」


「わ、私じゃないからです。相棒が、もう一方のやつが話を付けてきたって俺を誘ったんでさ」


「それは本当らしいです。何回も聴取しましたが、結局こやつは誰から頼まれたのか、本当に知らないようです。相棒の方は、射殺されています」


 小さい声でリグ殿が言った。ユーグ公がうなずいた。


「じゃからさっさと殺したらよかろう。王配殿下が臥せっている間に、我々はカラカラになるまでこやつを絞ったのじゃ」


「実際に絞ったのは、リグ殿と私です」


 ユーグ公には尋問は無理と考えたのか、あわててジャボット殿が解説した。


「あんた、あんたさまがここの一番偉い人ですかい?」


 下手人の兵士崩れが王配殿下に必死で話しかけてきた。みんなが下手人のほうを振り返った。


「じゃ、じゃあ、あんとき言わなかったとっときの話をしますんで、どうか俺を殺さないでください」


「そんな話があるとは思えませんが」


 リグ殿がぎゅっと眉をしかめた。


「聞かなかったからだ。誰も聞かなかったからだ。」


 男は必死だった。


「あんたにだけ、あんたにだけ言うよ。みんなにばらされたくなかったら、こっそり教えるから、この貴族の皆様方に席を外してもらってくれ」


「この場で話せ」


 王配殿下は言い放った。


「いいのかい? 他言は無用だよ。誰にも言わないでいたんだから、俺を殺さないでくれ。いいかい、この前、女王様を狙ったときのことだ」


 ガウンに顔を半分隠しながら、王配殿下は鋭い目つきで男を眺めていた。


「相棒は間違いなく王配殿下をマノカイへ街道でやっつけたんだ。それなのに、この修道院にも王配殿下がいるだなんておかしいだろ。いいかい、女王は浮気してるんだ」


 全員が呆然とした。


「いいかい、本当のことなんだ。

 この尼僧院に王配殿下は必ず行くから、そこで殺せと命令されてたけど、尼僧院なんかに行くはずがないだろ。俺たちは尼僧院に行かず、王配殿下の軍の後をくっついていった。

 俺たちの読みの通りさ。王配殿下は尼僧院なんかにゃ行かなかった。

 でも、あの夕方、王配殿下を殺したあと、俺と相棒は、街道で女王陛下の馬車とすれ違った。すごい馬車だったから、すぐわかった。女王さまが本命だから、つけてきたんだ。」


 貴族たちの反応を待ったが、全員黙りこくっていた。


「続きを言うぜ。中には入れないから、庭にいると、女が一人出てきたんだ。すぐに女王様とわかった。とんでもない別嬪だった。光が差してるみたいだった。服もすごかった。だが、そのお方が、みすぼらしいなりの若い兵士と抱きあっていたんだ」


 どうだと、言った風に下手人は周りを見回した。


「どんな兵士だったか知りたくないか? 特ダネだろう、な? そいつを撃ったんだ。殺さないでくれ。王配殿下の憎い恋敵を撃っただけなんだ」


「リグよ」


 重々しく王配殿下が口を開いた。


「締め方が足らなかったんじゃないか?」


 リグは平身低頭していた。


「途中で殺すわけにもいきませず……」


 他の連中の中にはうっかり薄ら笑いを浮かべてしまった者もいた。


「殺さないでくれ」


「この大バカ者。その兵士は私だ」


 王配殿下はフードを取った。下手人は息をのんだ。


「あんたが王配殿下?……若い」


「リグ! 今すぐ一番腕利きの一番残酷な古参兵にこやつを引き渡せ。処刑の前に遊んでやれ。もう聞きたいことが済んだのだったら、殺してくださいと頼むまで痛めつけろ」


 下手人は荒々しく引っ立てられて行った。


「ご自分のご夫君が浮気相手か。面白い余興じゃったわ」


 笑いを抑えきれなかったユーグ公がクックッとつぶやいた。


 ジェルナン殿は、ユーグ公を無視してリグ殿を呼んだ。リグ殿は真っ青になっていた。


「ゼノアへ侵攻せよ。そしてゼノア王を捕えよ」


 その場にいた者ども全員が驚いた。

 殺すのではなく?


「これ、ジェルナン殿。一国の王を捕えるなどということは……」


 ジェルナン殿は抗議を抑えて、リグ殿に向かって言った。


「五日で帰ってこい。成果が上がろうと上がるまいと必ず戻ってこい。」


 数日後、軍備を整えたマノカイ軍は、静かに出立した。


 いくつかの旗竿には、グレイの布がくくりつけられて風にたなびいていた。


「王家の旗ではない。グレイとはいかなる意味が?」


 街道沿いのマノカイやゼノアの人々は、不審げにひそひそ話を交わしたが、やがてマノカイの都から不吉なうわさが流れてきた。


「リーア女王陛下と王配殿下を狙ったものがおったそうじゃ。」


「なに? 本当か?」


「陛下はご無事か?」


「おケガをなされたそうじゃ。国一番の名医が付き添っておられるそうだが」


「王配殿下はどうされたのだ。姫君様をお守りできなんだのか?」


「殿下も撃たれて重傷らしい。」


「誰が?! なぜそのようなことを?」


「それが……下手人はゼノアの者で……」


「なんと! マノカイの王家はゼノアのためにあんなにご助力されたというのに?」


「大きな声では言えないが、どうやらある方の差し金で……マノカイの王家のご幸運をねたんだある方の……」


「誰じゃ、そやつは」


 話し手はあたりをはばかる様子を見せた。つられて聞き手も声をひそめる。


「ゼノア王ラセルさま」


 はじかれたように聞き手は驚いた。


「そんな…… そんなことがあるというのか?」


 軍は街道を全速力で駆け抜けていった。

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