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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第85話 真相3 黒歴史が役立った。ただし、陛下がキレた

「もうひとつあるわ」


 突然、女の声が響いた。


 その場にいた全員が、声の方を振り向いた。


 公妃だった。勝ち誇ったリップヘンの顔がゆがんだ。


「この男は東渡りのジグ人。時間を超えることが出来る。リョウは、以前、わたくしの愛人でした」


 リップヘンが猛烈にいやそうな顔をした。人々が再びざわめき始めた。陛下がいやな顔をし始めた。


「ここにいるリップヘンが殺してしまったのよ。でも、生き返ったのだわ。あちこちで生き返っているのね、リョウ。リンゲルバルト殿の手下のマシューが、あなたを殺そうと背中から切りつけたそうですが、あなたは死ななかった。ジェルナン殿は不死身だと言っていたそうですから」


 会場内の人々がざわついて、この新しいスキャンダルについて論評を始めた。ついにジェルナン殿が言葉を発した。


「お言葉ですが、公妃様、わたしはあなたを知りません。それから、背中から切りつけたなどと言うことを、いったいどこから聞いてこられたのですか?」


「知らない? 知らないですって? 私はあなたを隅々までよく知っているわ。あなたは私の恋人だったのですもの。ウソもいい加減になさい」


 リップヘン殿と陛下とジェルナン殿が、一様にいやな顔をした。会場内はさらにざわめいた。くすくす笑いも聞こえた。


「大体、そのお話は、いつごろの話なのですか」


 ジェルナン殿が不審そうに聞いた。


「いつって、いつかしら」


「リップヘン殿が公妃様の愛人を殺した話は、何年前のことなのですか?」


 リップヘン殿は、聞かれたくもない話に進展してきて非常に都合が悪そうだった。


「16歳くらいかな」


「わたしが12歳くらいのときの話ですね」


「まあ、そうなるかな」


 ジェルナン殿は公妃に向き直って言った。


「それは無理ですよ。別の方のお話でしょう」


 公妃はいきり立った。


「だから言ったではありませんか。東渡りのジグ人は、時間を移動できるって」


 ジェルナン殿は疑わしそうな顔つきだった。


「そういうのはあるんでしょうか?でも、よしんばそうだったとしても、別の方の話だと思いますよ。わたしは、今、生きていますし」


 陛下が非常に不快そうだったのが目に付いた。


 ジェルナン殿もリップヘン殿もちょっと驚いて、同時にまずいと思ったらしかった。陛下が口を切った。


「マスクをしろと言ったのは、リョウがあなたを知っていたからですよ。リョウだとわかったら、ヴィード、あなたはリョウに協力しなかったでしょう。私はリョウのことをずっと昔から知っていました。だから、私が直筆の手紙を書いて呼び寄せたのです。あなたのことも同時に呼び寄せましたね?同じ時期です。

 さて、ヴィード、あなたはいますぐお母様を連れて出ておいきなさい。アルデラ公妃」


 陛下は公妃に向き直った。


「あなたの顔は二度と見たくありません」


 一同が押し黙った。公妃が黙った。


「陛下、あんな傭兵の長の戯言などを本気に取られるおつもりですか? 陛下? 証拠もないのに、わたしに謹慎を命ぜられるのですか? 陛下」


 リップヘン殿が必死に食い下がった。

 

「リップヘン殿」


 ジェルナン殿が重々しい声で話しかけた。


「なんだ、うるさい。この流れ者めが。この悪魔の使い」


「わたしに向って失礼なことを言ってはならない。貴公の裏切りの証拠ならここにある」


 その場の人々全員が振り向いた。

 陛下もジェルナン殿の方を向き直った。


 ジェルナン殿は2通の手紙を取り出し、人々によく見えるように彼の顔の辺りにかざした。


「ユーグ公、いかがかな? お読みになれるだろうか?」


 老人のユーグ公は老眼なのか読みづらそうだったが、這うように目線を動かしてゆっくり読み上げた。人々は固唾をのんで聞き入った。


「バイツと言う男を貴公の下に送る。話を聞いてやって欲しい。5月8日 ヴィード・リップヘン」


「リップヘン殿の筆跡ですか?」


「そうじゃな。手紙をやり取りする仲ではないが、多分そうじゃろう。汚い字だな」


「もう一通、お願いします」


「わしは目が悪いから、これで勘弁してもらおう」


 ジェルナン殿は困ったようで、その場を見渡して、そばにいたステイン殿に依頼した。

 ステイン殿はすらすらと読み上げ始めた。長い文章だが、人々はシンと静まり返って聞いていた。


「……リンゲルバルト殿は、ガゼル殿を攻撃しない。すでに密約が出来ている。即刻、城を譲るように。……ジェルナン殿はあの性格だから、必ず戦場に出向く。北部戦線で彼を討ち取れ。……まずは、ジェルナン殿の軍の中に暗殺者を紛れ込ませろ。……ジェルナンさえ死ねば、陛下はリップヘン殿と結婚され、わたしには宰相の地位が約束されている。心配はいらない。ジェルナンが死にさえすれば、マノカイは我々のもの。ラセル陛下から宰相の地位の内諾も得ている……」


 読み上げるステイン殿の額に青筋が浮かび始めた。


 老眼のはずのユーグ公が、途中から熱心に手紙を覗き込みだした。


「5月8日 (署名)ガシュー・エルブフ」


 人々は一斉にエルブフ殿の顔を見た。彼は、顔を伏せていた。


「死んでしまえ、エルブフ!」


 突然、後ろの席から、大声で野次が飛んだ。最初は人々はその声にびっくりしたが、次の瞬間、呼応して次から次へと野次が飛んだ。


「この裏切り者!」


「マノカイはマノカイのものだ。ゼノアの許可なんか要らない。」


「リップヘンもだ。花婿気取りか。」


 会場は騒然とした。誰かが固いものを投げた。椅子にあたり大きな音を立てた。


「静かに!」


 衛兵が何名か出てきて、あまりに興奮した人々を制した。


 陛下が立ち上がった。


 皆は静まった。


 陛下が怒っていることは、遠くの者にもよく伝わった。


「二人ともに謹慎を命じます。処分は後日、伝える。」


 衛兵は二人を二重三重に囲んで出て行った。


 続いてキャンベル殿、公妃が衛兵に連れられて出て行った。


「女性になんてことをするの。」


 公妃が陛下の横を通りすがりに聞こえよがしに言った。リーア陛下がキンキン声で衛兵に言った。


「しゃべれないように口をしばっておしまい。この女には手錠を忘れないように」


 衛兵はこれ以上の事態の悪化を恐れて、公妃を邪険に引っ張って連れて行った。


 ユーグ公とステイン殿、ジェルナン殿はこっそりと目を見交わした。彼らがリーア姫のヒステリーを見たのは初めてだったのである。


「どうしよう。」


 ジェルナン殿がおそるおそるユーグ公に相談を持ちかけた。


「どうしようって。そりゃ、あれはやきもちだから。やさしくしてやんな。」


 ステイン殿が突然おかしな音を立てた。彼はふきだしただけだった。


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