第83話 真相1 裏切り者の名前が明かされる
その日のうちに、国務官会議が陛下の名で招集された。
人々は錯綜する噂に動揺しながら、全員が大急ぎで集合した。
壇上には、瀕死を噂されたジェルナン殿が平然と立っていた。イライラしているように見受けられた。
人々は、その姿を見て、あっと驚いた。
「どこにもケガなんかしていないじゃないか。」
「やはりあの噂はウソか」
陛下と国務官達は一緒に会場に入ってきたが、その後ろから衛兵達が目立たないようについてきていた。
ジェルナン殿は会場の様子をうかがった。
特に気になったのは、リップヘン殿、エルブフ殿両名の出席だった。
彼ら二人は、やってきてはいたが、調子はよくないように見えた。彼ら二人の後ろは、ジェルナン殿の子飼いの兵士モレルが率いる衛兵達ががっちりと固めていた。
「よし。きたな」
会議が始まった。
ジェルナン殿は指名されて、大きなはっきりした声で北部戦線の状況報告を行った。
「マノカイ軍は勝利した」
固唾をのんでいた人々は、一瞬黙ったが、大きな拍手と歓声が沸きあがった。
「ゼノア軍は全滅し、敵軍の将、リンゲルバルト殿は処刑された。砦と城は奪還した。完全な勝利である」
特に後ろの方の、位の低い貴族の席は大喜びだった。勝ってうれしいのは当たり前である。しかし、今日のこの戦勝報告会が、実は勝利を宣言するためのものだけではないことを、集まった貴族たちは知っていた。
どうしてこんな完全な勝利が、負け戦と伝えられ、さらには負傷している様子が全くない、とても元気そうなジェルナン殿が瀕死の重傷と伝えられたのか。
「戦いはマノカイの完全なる勝利だったが、奇妙な点がいくつもある。」
ジェルナン殿は続けた。
「北部戦線に向う途中、ガゼル殿は戦況を伝えるため、マシューと名乗る彼の部下をわたしの元によこした。ところが、この男は、実はもとリンゲルバルト殿の部下で、スパイだった」
会議場がざわめいた。
「ガゼルの紹介できたのですか? 証拠は? 正式な紹介状がガゼル殿の筆跡でしたか?」
陛下の低い声が響いた。ジェルナン殿は陛下の方に向き直って答えた。
「まちがいなくガゼル殿の筆跡でした。ガゼル殿のこともよく知っていました。ですが、その後、マシューが刺客であることに我々は気づき、彼を数日間泳がせていました。城の奪還計画を知らせると、時間がないことを悟ったマシューは、暗殺を実行しようとして我々に捕らえられました。」
集まった貴族たちは、今度は黙って、一言も聞き漏らすまいと静まり返った。
「ガゼル殿がゼノア軍と通じていることは、この時点で明白だった。
だが、おかしなことに、ゼノア軍を壊滅させた後、ガゼル殿は逃亡途上のリンゲルバルト殿を捕虜としてとらえてマノカイ軍へ連れてきた。
両者の猿芝居かとも思ったが、リンゲルバルト殿は、本当に逃亡途上で荒野をさまよっていたらしく、ガゼル殿をののしっており、何かをたくらんでいる様子ではなかった。
リンゲルバルト殿は勇敢な騎士であり、殺したくなった。だが、前回のウィンローズの件も、その前の尼僧院の件もあり、マノカイに災いをもたらす者であり続けることは間違いなく、やむなくわたしの手で処刑した」
末席に連なっていたキャンベル殿がうめいた。
ジェルナン殿を含めて、全員がそちらの方を向いた。
「リンゲルバルト殿を殺したのか」
キャンベル殿が押し殺したような声で尋ねた。
「殺したくなかった」
ジェルナン殿が答えた。彼は今リンゲルバルト殿を手にかけたところであるかのように、片手でもう一方の手の手首を押さえていた。
「友人ではないか」
「そのとおりだ。殺したくなかった」
「捕虜を殺すとは、どういうことだ。リンゲルバルトなら、ゼノア王も莫大な身代金を払っただろうに。捕虜は殺されないことも多々あるだろう」
「キャンベル殿、お黙りなさい」
氷のように冷たい声が響いた。陛下だった。
「これは交渉事ではなかった。戦争です。戦場を逃亡中の将軍がマノカイ軍に捕らえられたのだから、殺されて当たり前です。ジェルナン殿、続きを」
「ガゼルは、自分の裏切りがばれたことを知って、言い訳にリンゲルバルトを連れてきたらしい。ゼノアの惨敗を見て、怖くなったのだろう。マノカイに付いたほうが有利と考えたに違いない。
ただ、捕虜を殺されるとは考えていなかったらしく、あとで青くなっていた。ゼノアの怒りを恐れたのだろう。
だが、私が知りたかったのは、誰がガゼル殿に接触したのかということだった。ガゼル殿は、直接仲介した人物の名をバイツだと白状した。バイツとは誰なのか」
人々は固唾をのんで次の言葉を待った。
「ところで、その前に、マノカイで流されたと言う悪質な噂について確認したい。」
噂の話になると、陛下が動いた。彼女はじろりと貴族どもに目をくれた。誰が犯人か見つけ出してやるといった感じだった。
「マノカイで流された噂を聞くと、私は刺客により瀕死の重傷を負ったそうだが、これは暗殺計画を知る者が流した噂であろう。刺客の存在など誰も知らないはずだ。」
聞き入る者達のうちの何人かが、なるほどと言った様子でうなずいた。
「また、実際には勝利していたのにもかかわらず、敗戦と伝えられたが、これもまた暗殺計画を知る者達の仕業と思われる……」
ジェルナン殿は手で誰かに向って合図した。人々は一斉にその方向を見た。
衛兵達が二人の男を連れてきていた。一人は、身動きできないように衛兵にがっちりと体を抑えられ、もう一人は憔悴しきった様子で衛兵に支えられてやってきていた。
「ご紹介しよう。私が戦場からマノカイの宮廷に送った使者達だ。一人は牢の中で発見され、もう一人はキャンベル殿の居室にいた」
牢の中? キャンベル殿の私室? 人々は大きくざわめきながら首を伸ばして二人を見た。キャンベル殿を見る者もいた。ジェルナン殿が続けた。
「ひとりは、私の部下で名前はインディー、もう一人の男の名はバイツと言う」
バイツ?




