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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第69話 結婚問題を多面的に討議。しかし理屈に意味なし!

 ゼノア王の提案は国家を揺るがす大問題だった。

 エルブフ殿を始めとした旧貴族達は、この結婚を強力に推進した。以前と異なり、今回は対等の結婚であり、マノカイの名門貴族も正当に評価され、それなりの地位を占められると踏んだのであろう。

 一部の貴族、たとえばバッソンピエール殿などは懐疑的であった。マノカイは内戦状態を脱してまだ間がない。国力はぜい弱であった。また、マノカイの王は女性であり、その面からも、ゼノア王が主導権を握ってマノカイがゼノアの下につくのではないかと危惧していた。

 大部分の小貴族達は反対であった。彼らの築いた地位のすべてが崩壊する危険性をはらんでいた。


「強大な権力を握り、広い範囲に絶対的な覇権を及ぼすチャンスである。また、二国間に恒久的な平和が保障される」


 大貴族たちはリーア陛下に結婚を嘆願し、また、首都の場所をマノカイに置くことを条件とするよう申し入れた。


 エルブフ殿が、首都の場所にこだわったのは自分達マノカイの権力を保持しようとする試みであった。ただ、首都の場所についてはゼノア大使のキャンベル殿にあっさり否定され、結婚推進派は少々出鼻をくじかれた感があった。


 人々は、リーア陛下に注目していた。彼女はどう決めるのだろう。

 


「この結婚に何かメリットはあるのだろうか」


 マーリー殿はため息をついた。


「恒久的な平和さ」


 ジェルナン殿が言った。


「少なくとも、ラセル陛下とリーア陛下が結婚状態にある限り、二国が争うことはない」


 マーリー殿はつまらなさそうにジェルナン殿を見た。


「二国間の戦争はなくなっても、内戦の可能性は逆に高まるぞ。被害は内戦の方が大きい。なにしろ自国内が戦場になるんだからな。関係のない女子供も死ぬし、田畑も荒らされる」


「絶大な権力を握ることになる。マノカイ・ゼノアに逆らう者は誰一人いなくなる」


「まともに一国になりきればな。誰が権力を握るんだ。結局ラセル陛下の一人勝ちだろう。マノカイの者の出る幕なんかないんじゃないか。それともこの結婚で、リーア様のお子様が、統一マノカイ・ゼノアの王家の王様になるのか」


「子どもが生まれても、その子がゼノアの王位も同時に継ぐとは考えにくいな。だって、ゼノア王の子どもは元気で、王子として大切に育てられているんだろう。リーア陛下に子どもが生まれたからといって、それは継承権を剥奪する理由にはならない」


「それじゃ意味ないじゃないか。何十年かマノカイの者達が虐げられる年月があるというだけだ」


「虐げられるかどうかはわからない。うまくいけば融合するかもわからない」


「可能性があるだけだ。俺がいやなのは、そんなことじゃない。俺の国はマノカイだ。王が結婚して一緒になったからって、ゼノアの連中と同じじゃない。」


 ジェルナン殿は、マーリー殿を見た。


「みんながそう考えているなら……」


「もちろん大貴族どもは違うぞ。あいつらにとって、家と領土はセットだ。結婚によって、国境が動いても何も感じるまい。エルブフ殿なんか母方がもともとゼノアの貴族だ。どっちの人間だかわかりゃしない。だが、俺みたいな小領主や農民、商人どもは違う。マノカイとゼノアがひとつの国だったのなんて、百年も前の話だ。それにそんなに長い期間でもない。王様どもの結婚で、妙な連中と一緒くたにされるのは我慢ならない」


 ジェルナン殿は、マーリーの顔色を見ながら、考え考え言った。


「私の見るところ、この二つの国はとてもよく似ているが……言葉も同じだし」


「そんなこたない。ジェルナン、お前はどうしたいんだ。このまま指をくわえて、ラセル陛下の家来になる気か?」


 マーリー殿が怒鳴った。


 ジェルナン殿は黙った。それからマーリー殿に向ってようやく言った。


「昔、ラセル陛下に仕えていたことがある。リップヘン殿と一緒に。だが、リーア陛下に仕えたことで、ラセル陛下を裏切る形になった。私のことは許さないだろうな」


「そら見ろ。お前にとってメリットはない。全くない」


 ジェルナン殿の部屋だった。彼は椅子に前後さかさまに座り込み、背もたれに腕をもたせかけて、その上にあごを乗せていた。


「まさか僧院に戻るわけにも行かないし」


「なにが僧院だ。お前に僧院ほど似合わん所はない」


 そのとおりだった。ジェルナン殿にとって、この世界の中で生きていくことはスリリングで手ごたえのあるゲームだった。今までのところ、彼は勝っていた。


「要領がよくて、頭が回る。弁が立って度胸がある。自信家で女にもてる。そんな男が僧院にいて何が楽しいものか。自分の性格をわきまえろ」


 ジェルナン殿はこの評には不満そうだった。彼は椅子に座ったまま、横を向いた。


「何をぼんやりしているんだ。このままマノカイをゼノアの家来にさせる気か?エルブフ殿みたいなマヌケで自分の保身しか考えていないような大貴族様に、この国をむちゃくちゃにさせる気か?」


「だが、マーリー、必ずしも合併は国家にとって悪いことばかりでない場合が多いのだ、歴史に学ぶと……」


「言っておくがな、ジェルナン、お前の話は単なる評論だ。何を他人事みたいに言ってる。いいか、よく聞け。ラセル陛下とリーア陛下が結婚したら、俺達ふたりとも首はない。ラセルが容赦するとでも思うか?」


 ジェルナン殿は顔を上げた。


「まあ、そうだろうな」


 ラセル陛下は彼を殺すだろうか? もし彼が、彼の元にもう一度戻り、今度はラセル陛下とリーア王妃に命をかけて仕える忠実な騎士に戻るとしたら?


「なんでそんな涼しい顔してるんだ。ラセルはどうせ俺みたいな小物の田舎の小領主のことなんか知らないだろうとか考えてるんだろう。そりゃその通りさ。だが、エルブフ殿は俺のことを知ってる。俺のことを嫌ってる。奴はこの国とリーア陛下をゼノアに売り渡して、大きな面をしようって馬鹿野郎だ。この結婚をまとめて、ラセルから厚遇されるつもりなんだ。これは奴にとってただの立身出世のチャンスに過ぎない」


 マーリー殿は真剣だった。エルブフ殿をはじめとした旧勢力が力を取り返したら、リーア姫とともに都を目指した者たちの将来はすべてめちゃくちゃになってしまうだろう。


「ジェルナン、行って、陛下に結婚を申し込んできてくれ。俺たちを救えるのは、リーア陛下だけだ。でないと俺達全員の首が飛ぶんだ。エルブフ殿が容赦すると思うか? リーア陛下はお前がいなきゃ、動き出せなかった。だが、お前だって、陛下がいなけりゃなんの力もない。ラセル陛下は絶対権力者だ」


 何年も前とまったく一緒のテーマだった。ジェルナン殿は考えている振りをした。

 彼はマーリー殿に言われるまでもなく、全部分かっていた。

 だから、彼の中で、こんな結婚話は、むろん問題外だった。

 

「ラセル陛下にたとえどんなに気に入られていようと、ラセル陛下だってどうしようもないだろう。お前の首は、俺より危ない。お前と俺とリーア陛下の幸福を考えてくれ。先のこととか、国全体の幸せとかはどうでもいいから。先のことなんか誰にもわかりゃしないんだから」


 マーリー殿がもどかしそうに言った。

 マーリー殿は知らないが、すでに結婚については申し込みも済ませているし、承諾も得ている。


 ただ、ジェルナン殿の口からは、何があっても言い出せない。マーリー殿にすら言ってはならなかった。姫は公言できても、なりあがり者の彼が婚約を言い出せば、絶対にいい結果は生まない。


 だが、それだけでは足りない。


「もっと行動を」


 もどかしそうにマーリー殿が言った。ジェルナン殿は、ギクリとしてマーリー殿を見た。

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