第52話 戴冠式での戦勝報告(目立つ!)
翌朝、リグ殿は数人のものと一緒にジェルナン殿を見送った。
「戴冠式への出席は非常に大事です。ぜひとも行ってくださいまし。ここは我々で何とか守り通します」
「頼む。数日のことだ。姫君の身の上も心配だ。戴冠式にこの騒ぎをぶつけてきた点も心配だ。何かあるのかも知れぬ。私が出席できないよう仕組まれている気がする」
「ぜひとも間に合うようにお出かけください」
「だいじょうぶだ」
ジェルナン殿は軽く笑っていった。
「誰をお連れになりますか?お独りでお戻りになられるわけではありますまい?」
「インディとマーフィとガレだ」
3人が小さくなっていた。
「この者たちですか?」
リグ殿が驚いた様子だった。
「あまり役に立ちそうにもありませんが」
「お前らの役にも立たない。だから連れて行く」
それは例の、ジェルナン殿の顔を見てしまった連中だった。
「誰にも話すな」
前の晩、3人を呼び寄せてジェルナン殿は言い渡した。
「誰にもしゃべりません」
「何も見ていないな?」
「は、はい。何も見ていません」
「マスクをはずしたことはない」
「はい」
「わかったな?」
「はい」
「よし。お前らが約束を守れるように、俺の供回りに加えた。明日からついて来るんだ」
ジェルナン殿は、ぎろりと連中を一渡りねめつけてから出て行った。
寝室に戻ると、アンスとケーネットが扉の前で待っていた。
「どうした、おまえら」
「ジェルナン様、今日インディと言う兵士がジェルナン様のマスクが外れて素顔を見たと……」
「なんだと?誰から聞いた?」
「インディの連れからです。何でも銃弾がジェルナン様の顔の辺りをかすめていって、紐を切ってしまったらしい、それでマスクが外れてジェルナン様の素顔を見たと」
アンスとケーネットは不安そうだった。
「やつらは3人とも明日俺が連れて行く」
「ど、どこへ?」
「マノカイだ。戴冠式に出席する。式はあさってだ。間に合う。そしてあいつらは処分する」
「殺すんですか?」
「いや、関係ないところへ捨ててくる。どっかで田舎づとめでもさせるさ」
「ここへおいておけば、私たちが処分します。死体の一つや二つ、増えたところで誰も気がつきゃしません」
「とはいえ、俺の顔なんてそんな値打ちもない話だからなあ」
「でも……」
「俺は多分、一生このマスクをしたまま暮らさなきゃならないだろう。だが、それだけのことだ」
「インディは、ジェルナン様は大変きれいな顔をされていたといっていました」
「そんなことまで言ってたのか。考えを変えた。あいつは殺してしまえ」
「傷もやけどのあともなかった、なぜマスクをしてるのかわからないと」
「おまえら、その話を否定して歩け。わかったな。あのマスクの下に何があるのかわからない、そう言い回ってくれ」
アンスとケーネットはまだ不安そうだった。
ジェルナン殿は腹心の二人を見つめた。ある程度の秘密は共有したほうがいい場合もある。たとえば今のような場合だ。
「このマスクはリーア様のご命令でつけている」
ジェルナン殿はゆっくりと言った。
ふたりは秘密の話を聞いて緊張したようだった。
「姫君様のご命令は絶対だ。理由もわかっている。死んでもはずすわけには行かない。だが、理由はいえない。それはわかってくれ」
ジェルナン殿はそういった。その後で付け加えた。
「俺も暑苦しいときもあるし、はずしたいんだがな。もう慣れたよ。慣れってこわいな。最近じゃマスクがないと不安だよ。顔のない男だな」
戴冠式の当日は曇りだった。
好天を願っていたマーリー殿や参加貴族たちや民衆たちだったが、それでも雨ではなくてよかったと感謝していた。
王宮から、王国第一の教会まで美々しい行列が長い列を連ねて動いていくことになっていた。
それから長い祈祷があり、その後、戴冠式が執り行われ、大司教の手により王冠がリーア姫の頭上に輝く予定だった。
その後、教会から新王がオープンパレードを行い、王宮で大宴会が催されることとなっていた。
「ジェルナン様はサーシャ様の反乱の平定に向われて、戴冠式に出席なさらないそうよ」
「気の毒に。あの方が、姫様を王位につけたようなものなのに、お手柄は全部ほかの人のものかい。ほかに大将とか中将とか言う人はいないのかい?」
「名前だけらしいね。ヘナチョコさ。ジェルナン殿だけ本物の軍師だったらしいね」
「だめな連中だな。ジェルナン殿は僧なのに強いんだな」
「でも、大分危険だって言うじゃないか?マッシュ公は殺されちまったし。そんなところへ乗り込んでいくだなんて」
「リップヘン殿は行かないのかい?」
「どうしても戴冠式に出たいそうだ」
「卑怯者だな」
「姫様と結婚したいのさ。そのためには宮廷をうろちょろしていないといけないんだろ」
「ジェルナン殿が気の毒だ。いっそジェルナン殿と結婚すれば……」
「ジェルナン殿は確かに勇敢な方だと思うが、マスクの僧では無理があるなあ。恐ろしくまずいご面相だそうじゃないか。若い姫君にはお気の毒だよ。前の王様だって、男前とはいえなかったし、そもそも大変な年寄りだったからなあ。二人も引き続いて醜男だなんて」
宮廷内でも町の中でも、噂の内容はほぼ一緒で、リップヘンは怒っていた。リップヘンの結婚が、ますます遠のきそうだった。だが、独身で身分が高くて、そして美男子と言う条件のそろった人物はほかにおらず、彼の可能性はかなり高かった。だから彼は我慢していた。
行列は宮廷の席次に従い、静々と進んでいった。
リーア姫は毅然としていたが嬉しそうではなかった。
ユーグ公、この日のために南部の辺境の町からわざわざやってきた大貴族のバッソンピエール殿、北部地方のエルブフ殿が馬車を連ねて従い、その後ろにリップヘン以下身分の高い騎士たちがつき従った。
民衆は歓呼の声を上げ、大騒ぎだった。だが、人々が教会内に入ってしまうと、扉は閉じられ、中を垣間見ることは許されなかった。彼らは午後の見世物を楽しみに、そのままそこらで待っていた。
教会の中では荘厳な式が、手順にのっとって、粛々と行われていた。
式は2時間もかかるのだった。
「チャチャっと王冠さえ乗せちまえばすむ話じゃないか。」
立ちっぱなしで足がしびれてきたリップヘン殿が毒づいた。
「お静かに。もうすぐですよ」
だが、その時、もっとも人々が緊張し、厳粛な雰囲気に包まれるべきその時に、教会の外から、わあああという雷鳴にも似たような音が響いてきた。
あまりにも大きな音だったので、大司教さえもが、一瞬、目を新しい王からそらして、扉の方へ向けた。
それと同時に、厳重に閉め切られたはずの正面の重い大きな扉がギーと音を立てて開き、いっぱいの光とともに誰かが教会に入ってきた。
「誰じゃ。」
式は中断され、人々は次々に振りかえり、光を背にした人物に目を凝らした。
ジェルナン殿だった。
人々の目は彼に釘付けになった。
「ラ、ライカ殿?」
「ジェルナン殿……?」
ジェルナン殿は、埃だらけの軍服姿だった。
「どうしたのじゃ、ライカ殿。なにか異変でもあったのか。急の知らせか」
ユーグ公が声を上げた。
「新女王陛下と皆様方に申し上げます」
彼の声はよく通り、あっけに取られ、静まり返った教会の隅々まで届いた。
「反乱軍を討ち取り、ウィンズローズの城を取り返し、平定いたしました。この知らせを戴冠式に間に合うよう、急ぎ戻ってまいりました」




