第51話 百姓どものたいまつ行列
「さあ、行くぞ。」
「え? ど、どこへ?」
「もう、サーシャ殿は討ち取ったのに?」
「マッシュ公の居城だ。早く行くんだ。リグ殿はもう向っている。援護に行くん
だ。サーシャ殿の隊だけでなかったら、どうするんだ?」
走りながら一人が聞いた。
「まさか、ゼノアですか?」
「そうだ。サーシャ殿の残党なら、サーシャ殿を討ち取ったことがわかれば投降してくるだろう。だが、万一、ゼノアの者だけだったら抵抗してくる可能性がある。リグ殿が危ない。早く行かないと。」
もう、夕方だった。ジェルナン殿はたいまつを用意させた。
「農民を連れて来い。たいまつを持たせろ。こちらの兵を出来るだけ多く見せかけるんだ。敵はゼノアだ。マノカイの内乱じゃない。このままだとゼノアに支配されるぞ。そう言え。」
この地方に近い地方出身の若い兵たちが、近くの村へ出かけて行った。
村の若者が次々とやってきた。みな厳しい顔をしてる。
この戦いに志願してきたのだ。
ジェルナン殿は彼らに言った。
「マッシュ公の城にはゼノアの兵が入り込んでるんじゃないのか?」
「知りません。でも、サーシャ様の兵がそんなにたくさんいるはずがないって、城から逃げてきた料理番が言ってました。」
「ゼノアの連中をやっつける。マノカイの領地はマノカイのものだ」
若者だけでなく、中年の農夫たちや女房どもまでやってきた。
ジェルナン殿は、彼らの顔を見ながら言った。
「いざとなったらお前らは逃げちまえ。この暗闇だ。誰の仕業かなんてわからない。だが、今は手伝ってくれ。城をゼノアの手から取り戻す。」
百姓どもは真剣にうなずいた。傍らの女房達に何かささやくと、女たちはたいまつを用意し亭主に手渡した。その間も、うわさを聞いた村々の百姓どもが次々と駆け付けた。たいまつの炎に照らされた彼らの横顔は真剣そのものだった。
「マーシュ殿のことが嫌いなのです」
ジェルナン殿の部下の一人がささやいた。
「彼は圧政をふるっていました。サーシャ殿がその跡継ぎになろうとしていると考えているのです。あのマッシュ公を殺すくらいの人物ですから、そう思われても無理はありません」
ジェルナン殿は、知っている限りのサーシャ殿のことを思い起こした。どう考えても凶暴には思えなかったが、この際それは黙っておくことにした。もしかしたらサーシャ殿も、百姓ども相手には横暴なのかもしれないし。それより、そもそもサーシャ殿はもう死んでいる。ただ、それも、伝える理由がないので黙っておくことにした。
男たちが、老いた者も若い者も、街道をたいまつをかかげて歩いていった。
木のヤニがパチパチとはぜ、道を明るく照らしていた。遠くからもよく見えるはずだ。数限りない兵たちが城を延々と目指しているようだった。
城の近くまで来ると、全員に雄たけびを上げさせた。兵士達の数はしれていたが、百姓はずっと人数が多かったので、何千人もの大軍に思えた。
暗闇の中をウマが一騎、ジェルナン殿の旗印を掲げて走り寄ってきた。
「ジェルナン殿ォォォーーー。」
「おお、リグ殿だ。」
ウマに乗ったままのリグ殿がジェルナン殿の元に駆け下りてきた。
「城は無人でした。取り戻しましたよ。」
彼は息を切らせて報告した。
「城には確かに軍勢がいました。でも、私達の後にたいまつが続々と続いているのを見るとびびって逃げたようです。すごい数でしたね!」
「百姓どもにたいまつを持たせたんだ。暗闇の中じゃ兵士じゃないなんてわかりっこない。」
「そりゃすごい。全然わかりませんでした。連中、あわてて逃げたので、いろんなものが残っていました。城に火を掛けられなくてよかった。そのまま使える」
マノカイの兵たちは、集まった百姓どもに、次から次へとこの話を伝えた。日に焼け深い皺の寄った年寄りの顔がほころび、若者は歓声を上げた。
自分たちが戦って城を取り戻したような気分になっているに違いない。ジェルナン殿とリグ殿は顔を見合わせて、ちょっと苦笑した。
彼らは意気揚々と自分達の家へ引き上げていった。
軍隊の方はそうは行かなかった。城内部を徹底的に捜査して、潜んでいる者が居ないか、危険なものがないか調べ終わり、徹夜で警備する兵を残して後の者は休むことになったのは、もう深夜だった。
ようやく落ち着き、城内に用意された部屋でリグ殿と差し向かいになるとジェルナン殿は言った。
「リグ殿、ここを任せる」
「は?」
まだ若いリグ殿は聞き返した。
「俺はマノカイへ戻る」
「マノカイに戻る? 今? 今ですか?」
「リンゲルバルトの軍がまだどこかに潜んでいるだろう。長期戦になるかもしれない。だが、城を取り返したので、かなり安全だ。村の衆も味方だ。異変があれば通告してくれるだろう」
「し、しかし!」
「大丈夫だ。2、3日のことだ。俺はここにいることにしておけ。兵士共にも黙って行く」
「何のために戻られるのですか? なぜ?」
「決まっている。リーア姫の戴冠式だ。サーシャ殿の棺も一緒に出る」




