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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第45話 リップヘンの野望は、なかったこと扱い

 この話を聞いた同行するほかの貴族はあきれ返ったが、ユーグ公は、意気揚々としていた。(リップヘン殿は機嫌が悪くて面会謝絶状態だった。)


「当然である」


 ユーグ公は恐ろしく威厳はあったが、小柄でキィキィ声のやせた老人だった。そつなく接するジェルナン殿を便利に使っていた。このふたりは(ユーグ公とリップヘン殿のことだが)少なくとも表向きは、人一人を殺してしまったというのに平然としていた。



「早くマノカイにたどり着きたいものだ」


 ジェルナン殿はため息をついた。


「まあ、あの公妃様の兄君とご子息ですから」


 小領主たちは本気でジェルナン殿を気の毒がって慰めた。彼らは内心面白がっていた。

 ひとつにはカナー殿が気に入らなかったのがあるが、ユーグ公ら大貴族がどんなに内輪もめをやらかそうと、彼ら小領主には影響がないのを知っていたのである。


「よく似た一家の癖に、お互い不仲なのか」


 ジェルナン殿はもうひとつため息をついた。


「公妃様をご存知ですか?」


 一人が聞いた。


「何回か、やっています。向こう気の強い方なのでね」


「おお、マノカイの宮廷でですか?」


「ええ。公妃様はマノカイの宮廷に私室をお持ちですから」


「よくご存じなのですか?どんな方なのですか?」


「気が強い方ですね…………」


「わたくしなど宮廷に伺候したことがありません」


 小領主どもは、少しばかりジェルナン殿をまぶしそうに眺めた。



「ジェルナン、あの新興貴族の死体の始末はすんだかね。死体になっても気分が悪い」


 ユーグ公が突然乗り込んできた。


「地元の僧院に引き取ってもらいました。ゴブロイド殿が墓参に来たいといえば……」


「我々が気にすることではあるまい」


 ゴブロイド殿はカナー殿の伯父である。これが知れたらどういう騒ぎが起こるのか、ジェルナン殿にはさっぱりわからなかった。


「明日あたり、ゴブロイド殿とマノカイで会うことになりそうですが」


「さほどのことはなかろう。」


 ジェルナン殿はあきれ返ったが、何も言わなかった。彼は、早馬を手配してゴブロイド殿に事の顛末を伝えたものかどうか悩んでいた。


「そんな手間はいらん。明日にはわかる話だ。それよりリーア姫が即位に同意するよう説得せねばならん。」


「おお、それは。」


 皆が色めき立った。


「同意していただいて、即位の手配をせねばならん。ジェルナン、来い。」


 ユーグ公は、いろいろ心痛を抱えているらしいジェルナン殿を引きずるようにして、リーア姫の居間に急いだ。


 居間には、リップヘンが先客としてきており、むっつり陰気そうに黙り込み、同席していたガゼル殿とその他の比較的高位の領主たちをびびらせていた。ユーグ公は甥の不機嫌に気がついたかもしれなかったが、気に掛けるつもりはさらさらなく、とうとうと即位の必要性を説き始めた。


 リップヘンはユーグ公がリーア姫に即位するよう説得する様子を青筋立てて聞いていた。

 

 リップヘンは、王位につくため反対派と戦い続け、最後の決定打に王位継承権第1位のリーア姫と結婚して、マノカイ王として即位するつもりだった。

 サーシャ殿や公妃などの反対派は、彼がリーア姫の元へたどり着くのを全力で妨害していた。それをかいくぐって、肝心の姫のいる尼僧院にきてみたら、ジェルナン殿を始めとした厄介な貴族連中が大勢出現して、彼の企みを打ち砕いた。


 ユーグ公に集合を掛けられた貴族達はユーグ公に賛成するとリップヘンの反応がこわいが、姫の即位を姫の目の前で反対するわけにも行かないし、どっちつかずでよろよろしていた。

 リップヘン殿を怒らせるとどうなるかは、今朝のカナー殿の手打ち事件で思い知らされていた。ヘタに逆らうと、今度は自分たちが手打ちの憂き目に会うかもしれなかった。

 いくら現在は内戦中といっても、サロンで刀を抜いて人を切り殺す貴族なんて、常識をわきまえないなどと言ったようなレベルではない。もはや、頭がどうかしているとでもしか言いようがない。だが、この頭に支障がある人物は高位の貴族で、王位継承に立候補しているのである。



 はっきり言って、ユーグ公は説得にはまるで不向きだった。何が言いたいのかさっぱりわからない。

 その話は勝手放題に、ユーグ公が若いときの武勇伝だの、宮廷でのエピソードだのが混ざっていて、どこがポイントなのか全くわからなかった。


 ただ、ユーグ公の役にも立たない大演説の目的はただひとつ、姫の即位への合意だった。

 それだけは全員に伝わっていた。

 そして、それがこの場にいるリップヘンの野望を公開の場で完ぺきに打ち崩す合意であることも。


「貴公らはどう思っておるのじゃ。」


 いらついたユーグ公が声をかけた。あいかわらず領主どもは黙っていた。


「こら、リップヘン、いい加減に分別を付けろ。ここはリーア姫様に一度ご即位いただくのが得策なのじゃ。マノカイのために。あのアホウのラセルなどのいいようにさせてたまるか。そうじゃろ、ジェルナン殿。」


 ふられたジェルナン殿は、困惑して押し黙るはずだった。だが、彼はあっさり答えた。


「今こそ、ご即位の決意を。」


 誰も言葉は発しなかったが、全員がジェルナン殿と姫の顔を見た。


「国中が姫様の決定に従いましょう。」


「おお、よくぞ言った。すばらしい。善は急げじゃ。いかがかな、リーア姫。承知していただけるであろうな。」


 黙っていたリーア姫が答えた。


「行きましょう。マノカイへ」


 貴族どもの顔には、隠しても隠しきれない喜色があふれた。リップヘンはむっつりしていた。ユーグ公は、我が意を得たりと言った様子だった。


「これ、ジェルナン殿、早くの手配じゃ。反対する貴族どもはワシが蹴散らす」


「かしこまりました。」


 言われるまでもなく、実は即位の件に関しては、すでに手配済みだった。マーリー殿とユベール殿からは頻々と連絡がやってくる。

 

「ただ、現在、マノカイ城中にはゴブロイド殿と公妃派の軍勢が立てこもっており、サーシャ殿と公妃の許可がない限り、なんびとも入城させないと言っております」


「入城させないだと?! やつらになんの権利があるのだ」


「私が行こう」


 ぎらりと目を光らせたリップヘンが立ち上がった。


「いいえ。」


 リーア姫が言った。


「わたくしが行くと伝えなさい。軍勢を引き連れて、全員で入城します。王妃の入城に許可はいりますまい。」

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