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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第44話 ユーグ公参上! と死体遺棄事件

「それだけ事態が動いたということですわ」


「ユーグ公はとにかく、ゴブロイド殿は! あなた様に敵対していた張本人ではありませんか」


「ゴブロイド殿本人ではなく、ゴブロイド殿の甥御です」


 王位継承権をめぐって戦っているサーシャ殿の従兄になるわけだ。なんだか釈然としなかった。


「それは、万一の場合、こちら側にも恩を売っておいて一族を残しておきたいという意味でしょうか」


「普通に解釈するとそうですわね」


 リョウは黙り込んだ。なんとなく気に入らなかったが、姫は笑っている。


「ゴブロイド殿はとにかく、ユーグ公はありがたいわ。大貴族ですもの」


「私はユーグ公を存じ上げませんので……」


「リップヘンでも頭が上がらないと思うわ。リップヘンのおじさまです」


「どんな経歴の方ですか?」


「剛勇の方です。狩猟とかがお得意で、後はまるでダメ。リップヘンと似ていますわ。思い込むと必ず行動に移すタイプです」


「やりにくそうですね」


「僧侶などは大嫌いです。偽善的だとお思いなの。帯剣貴族を至上のものとお考えなので」


 それでいくと俺なんかまるでダメじゃん……とリョウは独り言を言いそうになった。




 ユーグ公の参上は、三々五々集まってきていた同行希望貴族たちに動揺をもたらした。


 扱いにくさに掛けては、リップヘンの上を行くと評判の公である。リップヘンの母上とは犬猿もただならぬ仲で、それがあってか(リップヘン殿の母上と対立する)リーア姫には全身全霊をこめてお仕えしたいといってきたが、扱いをひとつ間違うとどう転ぶかわからない、なかなかの危険人物であった。


 そして間の悪いことに、リップヘン殿同様、王位継承を狙っているサーシャ殿の伯父君のゴブロイド殿の甥が同時期に参上した。成り上がり者のゴブロイド殿の縁者など、ユーグ公の気に入られるとは到底思えなかった。


 大体、同行を希望して名乗りを上げた貴族たちのほとんどが、純粋に姫君のお為を思って、護衛をかねて同行を希望してきた者たちであった。たまたま街道沿いに領地を持っていただけの比較的小領主が多く、マーリー殿やユベール殿のような王宮に伺候できる貴族は少なかった。


 それでもジェルナン殿は彼らの意気込みをよく理解して、姫君の腹心を作るべく、丁重に扱ってきたが、ユーグ公は、そこは大貴族、正々堂々と虫けらどもを蹴散らしにかかった。


 連中が気を悪くしたのは言うまでもなかった。


 だが、幸いなことにユーグ公は鉢合わせしたゴブロイド殿の甥が虫けらどもより更に気に障り、虫けらどもがほっとしたことに彼らをさほど気にしなくなった。

 そのかわり、ゴブロイド殿の甥について悪口三昧、あまりの口の利きように、姫の即位のための希望と熱情に燃える若々しい旅路を誠に気まずい雰囲気で覆い尽くした。


 ゴブロイド殿の甥は、リップヘン殿と同年齢らしかった。ゴブロイド殿はおそらく自分の縁者をひとり姫の側に付けたかったのだろうが、適当な者がいなかったのだろう。その甥は押し出しは立派だったが、もうなんとも形容しがたい性格の方で、リーア姫までが辟易しているようだった。


 彼はカナー殿と言い、親切で善意の人だった。

 しかし、自分の意見は絶対に譲らず、相手の事情や気持ちが全く通じなかった。業を煮やした相手が、都合が悪いとあからさまに説明しても、やり方を変えることはまずなかった。伝わったのかどうかもよくわからない。この辺の鈍さは、もはや特技であった。


 ユーグ公とリップヘン殿は激怒した。

 ジェルナン殿を含めた残りの貴族どもは、できるだけ関わらないように工夫していた。問題はリーア姫で、カナー殿は姫をお慰めしたい一心から、ことあるたびに姫の自室を訪ね、そのたびに特にリップヘンの激高を買っていた。


 ところが、カナー殿にはリップヘンの怒りがうまく伝わらず、またいくら姫君からそれとなく、あるいは、はっきりと私室の訪問を断られても執拗に訪問し続けた。


 カナー殿によると、姫君は寂しがっていらっしゃるというのである。

 そんなことはありませんと姫君から真向否定されても、彼は自分を信じた。姫君が遠慮していると解釈した模様だった。

 姫君の本当の気持ちを理解できる自分は、洞察力のある、よくできた人物であると内心大変満足している様子がうかがえた。

 内心満足しているだけなら、気持ち悪い程度で済んでいたろうが、他の貴族どもに向かって、姫君の私室を夜間訪問しないのは、寂しがっている姫君の気持ちがわからない気の利かない連中だと批判するものだから、話はこじれた。


 遠慮と節度のある貴族連中は、無礼者に、無礼者呼ばわりされる屈辱を味わった。


 リップヘン殿に至っては、「訪問」と「夜間」が相乗効果で、脳の血管が破れそうな勢いだった。




 そして、ある早朝、プレショーンがややあわてた様子で、ジェルナン殿の部屋のドアをノックしに来た。


「リップヘン殿がカナー殿を手打ちにされまして」


「は?」


 ジェルナン殿はあわててまずマスクをつけると、話を聞き返した。


「手打ちって?」


「つまり、切り殺しました」


 さすがにジェルナン殿は呆然とした。


「な、なぜ?」


「多分、気に入らなかったのでは?」


 ジェルナン殿は大急ぎで服に袖を通しながら、カナー殿の部屋へ急いだ。


 例の怒りの発作に取り付かれたリップヘン殿が、まだ興奮冷めやらぬ様子で部屋の真ん中で仁王立ちになって、カナー殿の死体をにらみつけていた。


「おお、ジェルナン」


 リップヘンはジェルナン殿を見ると声をかけた。


「いい所へきた。こいつを人目のないところへ捨てて来い」


 こいつとはすなわち、もう息絶えたカナー殿のからだのことだった。


 ジェルナン殿は、何を見ても驚いた様子をしないし、他人を責めたり非難したりしない男だった。彼はリップへンとは対照的に怒ったりしないのである。リップヘンもそこの所を承知しているのか、すたすたとそのまま外へ出て行ってしまった。ジェルナン殿はプレショーンと顔を見合わせた。二人で始末するしかなかった。

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