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父の日

私が初めて父の偉大さを知ったのは小学校1年生の頃でした。

あの日、父のためにたくさんの人達が集まり、父のために涙を流していた。お母さんもずっと泣いていた。

お母さんは私に言った。

「お父さんは星になったのよ」

世間では父の日と呼ばれている日が私の父が星になった日。

私は、涙を流す人を眺めながら父と最後に交わした約束を頭の中に刻み込んでいた。 


あれから15年の月日が流れた。

命日には毎年母と墓参りに行くというのが我が家の掟になっている。私はそのために実家に帰省していた。

「お母さん、雨降りそうだけど今から出るの?」

「大丈夫。多分降らんやろ。」

何を根拠に言ってるのかわからない母だが、この手の予想はだいたい当たる。

「ねぇ、お父さんってタバコ吸ってた?」

「吸いよったね~。妊娠したのが分かってからは家の中では吸わなくなったのよ。愛が産まれてからは愛の前では吸わんようにしよう。なんて言ってたわ。」

「そうなんだ。」

「タバコがどうかした?何かお父さんの事思い出した?」

「ううん。昨日、帰ってきてお母さん家にいなかったでしょ。することなかったからお父さんのお墓に行ってみようと思って一人で行ったら赤い箱のタバコが置いてあったの。誰か墓参りにきてくれたのかな。」

「森さんのとこかしら。あの人もずっとお父さんに会いに来てくれてるんよ。」

「なんか懐かしい名前。お父さんが一番仲良かった人だよね。」

「そうそう。学生の頃からの友達で『永遠のライバル』なんてよく聞かされてたわ~。足の速さだけはお父さん負けた事がないって自慢してたわね。」

「おいおい。ちょっと待ってくれ。おれが勝てなかったのは足の臭さだけぞ~。」

なんていうタイミング。むしろ入るタイミングを狙っていたようなドンピシャ具合。さすがだ。

「お、愛ちゃん。大きくなったな~。お母さん似でよかったな~」

「森さん、お久しぶりです。元気そうで何よりです。」

「昨日もお父さんに会いに来てくれたのかい?」

「いや、昨日はいっとらんよ。昨日は朝から大忙しで帰ってすぐ寝た。」

「あら、そう。愛が昨日お墓に行ったらタバコが置いてあったから森さんじゃない?って話しばしよってね~。」

「おいはタバコ吸わんけんな~。タクが吸いよったとやろ」

「あは。タバコ吸いに墓からでてきたんですかね~。どうせやったら会いにきてくれたらよかったのに。」

「あいつはそんなドッキリするようなやつじゃなかけん愛ちゃんに会いに行くときは前もって連絡してからくるやろ。」

「あは。そうなんですね。連絡待つことにします。」

「それにしても、今年は天気の悪かな~。連続晴れ記録15で終わりやな。」

言われてみると確かにそうだったかもしれない。

だから、お母さんは雨が降らないと思っていたんだろう。


ん?


ふと思い出した記憶。

それは、私がお墓の前で泣いた時の記憶。

その日は雨が降っていたような・・・。

優しそうなお兄さんが傘を貸してくれたような・・・。


「あ、お父さんのお酒持ってくるの忘れちゃった。愛、悪いけどとってきてくれる?」

「え~。じゃあ、私とってくるから先に行ってて。」

「台所の棚の下にあるけん。転ばんようにね。」

「はーい。」

お母さんは昔から忘れ物が多かった。

私が使っていたお弁当箱は二段式のものでおかずの部分に何も入ってない事が何回かあったのをよく覚えている。

私はよく食べるほうだったので、それに気付いた時のリアクションはきっと周りから見たら笑えたはずだ。


階段を降りていくとスーツの男性とすれ違いざまに

「こんにちは」と声をかけられる。

「こんにちは」と返した瞬間、私は足を踏み外してしまうが

私を包み込むようにその男性が転ぶのを阻止してくれた。

「大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です。ごめんなさい。ありがとうございます。」

予想外のイケメンとの接近による緊張の中できる限りの言葉をだしたつもりだった。

「よかった。悪かったね。いきなり声かけたから足を踏み外したのかな。ほんとにごめん。」

「いえ、私おっちょこちょいなんで。ほんとにありがとうございます。」

「もう墓参りは終わったのかい?」

「え、いや、まだですけど・・・」

「君のお父さんには世話になってね。これから僕も参らせてもらおうかと思っていたんだ。愛ちゃん・・・だっけ?」

「は、はい。そうです。え?私会ったことあります?すみません私覚えてなくて。」

こんなイケメン忘れるはずないのに。誰なんだ。

「君がまだ小学生の頃だから覚えてなくてもおかしくないよ。それに話したのは少しだけだったし。」

「そうですか。あ、私忘れ物とりに家に戻ってるとこなんです。」

「なるほど。忘れ物はお父さんが好きだったお酒かな?」

「そうです!なんでわかるんですか~」

「勘だよ。」

鋭い勘だな。この人と付き合ったら浮気はできないだろう。

いや、もしかしたらその勘は今までに数々の浮気を暴いてきた経験から培われたものかもしれない。だとすると、恋愛してきた人数は多いけれど長続きしないタイプ。性格に何か癖があるのか?

「どうかした?」

「いえ、なんでも。」

「じゃあ、とりあえず僕は先に行っておこうかな。階段気をつけて歩いてね。」

「はい。では。」

そう言って私は家に戻りお酒を手に持ち再び階段を一歩一歩歩いて行くのだった。きっとイケメンお兄さんの効果だろう。階段を登る私の体は疲れ知らずの状態になったのかいつもよりも早くお墓へとたどり着いた。が、しかし、そこにいたのはお母さんと自称昔はイケメンだったという森さんの姿だった。

「お酒持ってきたよ。」

「ありがとね。早かったね~。あんたまだ若いね。」

「スーツのお兄さんこなかった?」

「カズ君の事かい?」

「あの人カズっていう人なの?お母さんも知ってるの?私、全然知らないのにさっき話しかけられてビックリしたんだけど。」

「いい男やけんビックリしたんやろ~?」

「愛ちゃん残念やな~。カズはもう結婚しとるけんな~。」

「残念ってそんなのどうでもいいですよ~。」

「カズ君はね、もう20年くらい前に海で溺れた事があってね、それに気づいて助けたのがお父さんだったの。お父さんが亡くなった事知ってからは時々お墓まできてくれてるみたいなんよ。命日の日に来るのは珍しいみたいやけど。」

「カズはサービス業しよるっていう話しやけんみんなが休みの日は仕事せんといかんけんな。」

「もう帰ったの?」

「急用って言ってたけどな。」

「でも、すれ違わなかったよ。他に下る道なんてあったっけ?」

「そこの先に古い道があってな、そっから行ったんじゃないか?」

森さんが指さした方に行ってみると確かに道らしきものがある。

でも、わざわざこんな道通らなくても普通に階段降りてくればよかったのに。

まさか、階段の道を選んだら私とすれ違う事がわかっていたからあえて違う道を選んで・・・。

「愛、早くお父さんに参らんね。」

「はーい。」

「あれ?タバコ置いてあった?」

「なかったわよ」

「そう。」

「タクが全部吸ってしまったんやろ。わざわざ墓まできてタバコ盗むやつはおらんやろ。」

「そうだね。」


墓から家に帰り着くまでは誰も口を開こうとはしなかった。

お母さんも森さんもきっとお父さんの事を思い出しながら歩いてたんだと思う。

私もその時はお父さんの事考えてたいた。

だからきっと気づかなかったんだと思う。

階段の幅が広くなっていたことも段差も小さくなっていたこと。

そして、家から墓までの距離が短くなっていたことも。


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