許婚
来島義男と雷蔵の親子が住む家は別府造船所のすぐ隣・・・といってもそこからから歩いて5分ほどのところにある。
元々来島家は江戸初期?(もっと古いか?)から続くといわれている船大工の家系であり、その関係から港の直ぐとなりに自宅兼造船所(笑)を持っていて、おもに漁舟などの小船を中心に取り扱っていたのだが、幕末にペリーさんが「開国シナサーイ」とやってきた後船舶も西洋化がすすんでスクーナー船などが利用されたりしたがその内ボイラーやレシプロ搭載船が登場するなど船舶も大型化。
で、これじゃあ旧来の造船所(笑)では漁船くらいしか作れないし使えねえww
と雷蔵の先代である茂吉が判断し、現在の地(土地費用が思いのほか安かった)に造船所を建設してしまったのである。
当初は最大300トン級のドックが1基と300トン級船台が1基あるだけであったのだが、後を継いだ雷蔵が300トン級ドックを700トン級に拡大し、船台も1基増設したのである。
で、家も直ぐ隣に移して地域ではそれなりの屋敷にしたのであるが、そんなに大きいものではない。(80坪位か?)
茂吉自身もそんなに大きい家をもてなかったこともあるがそんな買い物を望むことはなかったし、後を継いだ雷蔵も「造船所が儲かるのはいいけれど、それで家拡張するよりも造船所拡張したほうがいい」と考えていたし、義男も「工事メンドイ」ということで、第一次大戦の好況で業績が黒字続きであっても手を出そうとしなかった
さて、そんな来島家の屋敷(笑)にて、一人の少女がいた。
その少女の名を貝島茜という。
貝島財閥の親戚の家の娘であり、現在別府造船営業取締役をしている来島義男の婚約者で、現在花嫁修業の一環と言うことで来島家にて義男と同棲中であった。
彼女は稽古事で習った縫い物をしていたが、やがてその手を止めて「フゥ・・・」とため息をついた。
彼女がここ来島家にきてからはやくも一ヶ月が経とうとしていた。
実家である貝島家とは全く勝手が違う生活にもようやく慣れ始めていたのだが、彼女には悩みがあった。
というのも、義男が全く手を出そうとはしなかったからだ!
まぁ、ヘタレの代名詞とも言うべき来島義男である。
いまだ14才(もう2~3ヶ月もしたら15になるが)の茜に手を出すはずがない。
しかし、それをしらない茜にとっては大問題であったりする。
・・・もともと、政略結婚とは家と家の間のつながりを強化するためのものであった。
一番繋がりを顕著に示すことができるものは血縁である。
すなわち、子供の存在だ。
要は、政略結婚で重要なのは結婚してできた夫婦の間に子供ができるかできないかと言う問題なのだ。
それ以外(例えば愛とか恋とかそんな感じ)は極論すれば不要だと考えられていた。
そのため、夫と妻双方にそれぞれ愛人が会ったことも珍しくなかったのだと言われている。
勿論、歴史を紐解けば政略結婚が全て不幸だったのかと言うとけしてそうではなく、中には幸せな夫婦も多々あったと言われているが・・・
さて、この茜の役割もまたその例にたがわず義男との子供を作ることであった。
なので、別に義男にいつ手を出されても全然かまわないと思っていた。
思っていたのだが・・・当の義男が全然手を出さない!
いやまぁ、当たり前のことといえば当たり前のことなのだが、茜にとっては大問題のようにしか感じられなかった。
まだ着てから数ヶ月しかたってないのでまだ慌てるような時間じゃないのだが、それでも彼女は焦っていたのだ。
というのも、話は一年近く前にさかのぼることとなる。
「結婚・・・ですか?」
「そうだ。」
本家に呼び出された茜はその日、太市と会うなりいきなり結婚するようにと言われた。
なんでも最近上り調子な造船会社と誼を結びたいからそこの御曹司と結婚をして欲しいと言うことだった。とはいえ、相手はもう30を越えた男なのだと言う。
かたや茜は13歳になったばかりの少女に過ぎなかった。
確かに、彼女は物静かでかつどこか達観したような性格から13歳とはとても思えないような少女であったが、それでも彼女が13の子供であることに代わりはないし第一、歳が下手をすれば親子ほども離れすぎていてさすがに躊躇してしまう。
「しかし・・・私は」
なので相手の年齢を聞いたとき、茜は思わず言葉を濁した。
確かに、小なりとはいえ財閥一族の親類である以上、いつかはこうなるとは茜自信思っていた。
実際、茜の周囲には貝島家に近づきたいと言う人間が結構おり、茜に取り入ろうとする人間もいた。
幼いながらも聡い娘であった彼女はそういうことを経験するうちに段々と「人生なんてそんなもん」といった感じに達観するようになっていった。
なので30のオッサンとの結婚にはさすがに躊躇したが結局「これも一族の役目だし・・・」といった感じで了承するしかないのだとも思った。
だが、名前こそ貝島だが分家のそのまた分家みたいな存在に過ぎない自分が行ってもいいのか?
もっと本家の人間が行くべきなのでは?
とも思ってしまう。
そこは太市も了承していたようで
「何、たいした問題ではないよ。要は向こうさんとの誼・・・即ち、子供さえ作ってくれればそれで良いのだから」
と言った。
まぁ、実も蓋もない言い方をすれば一応子供作って夫婦として生活していればそれでいいということだ。
向こうさん(主に雷蔵)も欲しているのは後継者だけだから・・・
なので子供作ったら後は愛人作るなり何なりお好きにどうぞと言うわけであった。
ということで、茜の出荷が決定したわけである。
茜の母はと言うともろ手を挙げて送り出した。
まぁ、この時期お札で灯りを灯すなんてことをやった成金がいた位(本当かどうか知らないけれど)調子のいいところは調子が良かった。
特に造船業界や海運業界は上り調子である。
娘がそこの御曹司に嫁ぐと言うことはすなわち、TAMANOKOSIに他ならなかったのだから。
娘の幸せを願う立場からすればそうなる。
ちなみに言うと、太市を除く貝島宗家も庭にあった石ころが玉璧に化けた様な物だったので喜んでそれに賛成した。
そして見合いをして義男と顔を合わせることになったのだがなんというか・・・普通の男だった。
ひょろ長い身長と童顔のためか2~3歳くらいは若く見える(あんまり変わらないか)
着ている背広は一応上等そうなものだが・・・どうも話に聞いているような新進気鋭で抜け目のない優秀な人物にはとてもじゃないが見えなかった。
中小企業に勤めているヒラ社員というのがシックリと来た。
それぐらい、カリスマ性はかけらも見えないような男だったのだ。
義男は太市と雷蔵が部屋を出ようとするときについでに立ち上がろうとした。
どうしたというのだろうか?
と思い、茜は声を掛けてみると
「い・・・いや、何でもありません(´・ω・`)」
といって席に座りなおした。
その後茜と義男はしばらくお互いに黙ったままだった。
まぁ、こういうのは大体男のほうからエスコートするものである。
だが、義男はと言うと顔中から汗を流しまくっており顔色も悪そうだった。
「あの・・・」
「は・・・ヒャイ!?」
茜が心配して口を開くと義男は驚いたような声を上げた。
「大丈夫でしょうか?」
「だ・・・大丈夫ですよ・・・うん、大丈夫、俺は大丈夫だ。転生者うろたえない・・・」
「てん・・・せ?」
「あ・・・ああ!?ななんでもありませんからね!?」
そういうと義男は「HAHAHA」と笑った。
(この人が、自分の夫となる人・・・)
茜はのっけからものすごーく心配になった。
当時義男は自分が犯罪者コース確定と言うことで茜にかまっているような余裕は彼の中にはなかったため、場当たり的に対応していた。
これは私的なこととは言っても営業の人間としてはあまりにも問題である。
(というか政略結婚自体がある意味営業活動の一環ともいえるのだが)
そして数ヶ月の準備(一通りの礼儀作法その他の勉強)を済ませて来島家にやってきて現在に至るわけではあるが、茜は相変わらず義男と言う人物を掴みかねていた。
というのもこの男、茜の目から見たらシドロモドロにする以外どこにでもいる極普通の男にしか見えなかったからだ。
悪い人間ではないとは思えたが・・・
義男はどうも自分を「女」として見ているようには思えなかった。
というよりもむしろ避けているようにすら思える。
茜がやってきた時も、相当驚いていたし
(当たり前だが)相当シドロモドロの対応をとっていた。
で、茜がやってきたその日、彼女はいつ来てもいいように身を硬くして布団に入っていたのだが結局義男が来ることはなかった。
先日も「ちょっと大阪逝ってくる」といってトランク片手に飛び出して行った。
ここまで手を出さないなんて・・・
自分に魅力なんてないのだろうか?
茜は不安になった。
このまま義男に放っておかれたままということは期待をこめて自分を出荷した貝島宗家の期待を裏切ることになりかねない。
ただでさえ、自分は貝島家から恩を受けてきたのだ。
裏切るようなことはしたくないし、第一できない。
(最悪、愛人作って子供生んで「あんたとの子よ」とでもやればいいのだが、肝心の愛人がいないので無理)
こうなったら何が何でも義男に手を出してもらって子供を作らなければ成らない。
彼女はそう決心した
このときから、結婚までのおよそ半年強におよぶ義男と茜の暗闘(大体逃亡する義男とそれを追う茜)が始まり、来島家の女中(既婚者)や雷蔵、そして何も知らずノコノコやってきた宮部ら社員を巻き込んだ騒動となっていったりするのだが、それはまた別のお話である。
「私が最初にお会いしたとき、あの人は私よりもずっと年上で立派な重役さんだと言うのにまるで同い年の男の子のように慌てていまして、私はこんな人が夫で大丈夫なのでしょうかと不安になったことをことをつい昨日のことのように覚えていますわ。」
彼女はそういうとフフッと微笑んだ。
それはまるで10代の若い少女のような微笑だった。
ある歴史小説家とある老婦人との会話
●潮文庫 小説「海原の盗賊」より抜粋
皆様、お久しぶりでございます。
続きの更新が遅くなったこと、誠に申し訳ございませんでした。
さて、今回は取敢えず婚約者の茜をクローズアップしてみました。
・・・やっぱり変人扱いというか不安がられています。(^^;
これをどうやっておしどり夫婦になっていくのか・・・書いているくせに想像が付かないです
ただ、当時、婚約者宅に花嫁修業をしに行ったのかどうかは筆者はよく分からないので何とも言えないのですが、そういう事にしておいて下さい。
さて、次回はさらに時間が飛んで第一次大戦の終結になるとおもいます。
次はできるだけ速く上げたいです。




