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会議

1917年3月25日 別府造船所会議室



「船の発注を絞る・・・と?」


「はい、これまでわが社は欧州各国、あるいは他社さんからの船舶発注を承ってきましたが、そろそろ戦争も終盤に差し掛かっております。」


雷蔵の問いに義男は答えた。

義男もこの年に営業取締役に昇進していた。

この数年の間にも別府造船所は規模を巨大化させており

従業員2200名

船台やドックも旧来の700トン級ドック漁船用船台のほかにや5000トン級が二基あり、そのいずれでも現在急ピッチで船舶の建造が続いている。

他に10000トン級が一基建造中である。



「しかし、そうなりますとこの先、受注が減りますな。そこの対策はいかがいたしましょう?」


経理取締役の安東忠弘が尋ねた。


「守りに入るほかあるまい・・・」


人事部長の一色がかぶりを振った。


「言ってしまえば年に何隻もの船の発注があったという方が可笑しい事だったですから」


フゥ・・・と溜息をつきながら義男が言った。


「もっと続く可能性もないわけではないが・・・」


まぁ、ないだろうな。と富樫も愚痴をこぼした。


「おそらく、ここ1~2年で終結してしまうでしょうね」


その言葉に経営陣は一様に暗い顔になった。



まもなく戦争は終わる。

戦争が終わると言うことはこれまでの馬鹿みたいな受注はもう来なくなるだろう。

結論を言うと最悪としか言いようがなかった。

去年まで別府造船所はこれまでの需要がさらにまだ続くと想定していた。

だが、アメリカの参戦ということでドイツが勝利する目はなくなったといっていい。

つまりこのまま受注を受け続けても完成するのは戦後であり、そうなると下手をしなくても別府造船所は膨大な船の在庫を抱えることになってしまうものという事は軽く予想できた。

何隻かは別府汽船に回せたとしても、ソレにも限界がある。



ならばやるべきことは船の建造量を減らして船のデッドストックをできるだけ少なくする。


その一方で新しい販路を見つける。


ということであった。


「次に売れる可能性としては・・・アレくらいか?」


雷蔵が言ったアレとは姫島丸のことである。



「ええ。現在設計部と技術部は姫島丸を参考として二千トンクラスフェリーの設計、開発を行っております。」


黒田が言った。


「これが完成すれば、おそらく埠頭さえ整備できれば船の荷揚げ能力は劇的に向上するものと推察されます。」


「ただ、問題としてはコストと、ソレを使ってくれるところがあるかどうか・・・だな」


武田が口を挟んだ。


「その辺は営業努力をする必要があります。一応、姫島村や別府町にも協力を要請しておきますし、設計が完了しだい、大阪商船さんや鉄道院にも提案するつもりです。」


義男がソレに答える。


「なるほど・・・」


「しかし、確実に船が余るな・・・これは」


「確かに・・・」


富樫の言葉に一様は頷いた。

ここ数年、日本中の造船所では船舶の建造ラッシュが続いていた。

お陰で川崎造船などは第一大福丸型貨物船を何隻も吐き出している。

そのために空前の好景気が続いているのだが・・・

だが、このままでは不味い。

義男が考えている通りこのまま戦争が終われば日本中で船あまりが起こるだろう。

その時、大阪商船は別府造船から船を購入してくれるのだろうか?


・・・かなーり怪しい。



「・・・提案をけられる覚悟は必要でしょうね。」


ヤッパリ受注が取れなくてこの後の金融恐慌とかで倒産か!?

青い顔をしている義男の言葉に一同は暗い顔で頷いた。


「では・・・どうするべきだろうか?」


船あまりが起こる以上、受注はこないと考えたほうがいい。

まあ、船の整備や小型船・・・例えば漁船の建造、補修は来ると思われるが。


「・・・鉄道関連は如何でしょう?」


おずおずと宮部が手を上げた。


「鉄道・・・?」


義男が怪訝な顔をした。

現在別府造船は日出~別府造船所間の鉄道線である大神鉄道(株)を社内に保有しているが、お世辞にもその採算はいいとは言えなかった。

元々、船舶建造用の鋼材を輸送するためだったのを地元からの要請を受けて客車も整備して運行している。

だが、元々それほど人口もないため需要が少ないのだ。

その為に十分に採算が取れているかと言うと答えはNOであった。

鉄道にそれほど興味を失っていた義男には全く思いつかないことであったとも言える。


「どういうことかね?」


雷蔵が続きを促す。


「はい、ここ数年でもわが社は鉄道を整備してきましたが、その結果多くの運用ノウハウを得ました。」


その言葉に全員が頷く。

ソレを確認し、宮部は続けた。


「ですので、客車の新規開発も可能かと・・・造船の技術を応用して電気溶接でモノコック構造での新型

客車の開発をすべきではないでしょうか?コレならば、既存の客車よりも安価に勝つ速やかに製造も可能です」


「フム・・・」


義男は宮部の提案に興味深さを覚えた。

だが一方で「まだ弱い」と感じていた。

他の社員達も同じような感じであった。

だが、義男にすれば一考の余地があると思った。


その内に義男の頭にあるものが浮かび上がった。


(蒸気機関車が廃れたのって・・・たしか電気が普及したからだよな?でも、平成時代でもローカル線も一部は電化できてなかったはずだし・・・でも・・・あれかぁ・・・)


そんな風に一人考えにふけっていると


「義男・・・おい!」



「・・・うわぁッ!?・・・ってなんや、親父か。」


突然呼ばれて義男は慌てて正気に戻った。

すると目の前には雷蔵の姿があった。


「もう会議終わったで?」


「え!?マジでか!?何で教えなかったんだ?」


「お前が起きなかったからやろ」


呆れたように雷蔵が言った。


いつの間にか終わっていた・・・だと!?

と、義男は愕然とした。


「まぁ、結論も出なかったからな。取り敢えず、船の建造量の段階的な縮小は決定したが、具体的なことはデータの集計などもあるから一週間後を目処に先送りや。」


「おまえのぉ、仕事と家事でしんけんじゃと思うが居眠りはないやろ?」


「すまん、ちぃーと考え事をね」


頭をかきながら義男は苦笑して言った。


「何だ?言っちみろ」


「ん?ああ・・・ドイツのディーゼルっち言うエンジンあんやろ?」


「ああ・・・あれか。」


「アレを機関車に使えへんかな~と思ってな」


「・・・なるほど。でんわし達はディーゼル使ったこつないぞ?」


「もちろん、直ぐやなくていい。それに、アレはいろんな物に応用が可能や。やから戦争が終わったら・・・」


「と言うこつは、まただれかを送るのか?」


「そうなるな・・・」


雷蔵にしてみても義男の話は悪い話ではない・・・と思う。

だが・・・誰にするか?

と考える。

宮部は・・・駄目だ。

今嫁さんが身重なのだ。

この数年以内に欧州に単身でブッ飛ばすなんてことをしたら今度こそ義男は殺されるだろう。

では黒田か?

彼はウチのエースだ。

だが、彼はエンジンには詳しいが専門家とは言いがたい。

では・・・誰が良い?


「一応、わしに当があん。」


雷蔵の考えが分かっていたのか、義男はニヤッと微笑んだ。




今回は来るべき不況に備えてどうするか~ということで皆様頭を抱える回です。もう直ぐ戦争が終わりますが、基本的にソレまでの間は現在の経営方針(ひたすら船造る)を続けますが、ある程度船の建造量を減らしていきます。

まぁ、何隻か確実にキャンセルになりますが。

実は川崎造船は第一大福丸型を大量建造したはいいですが、大半が戦争終わってからの完成で全く売れず、それが原因でその後の不況で一度経営破たんしています。

さすがにその二の舞は避けたいのでなんとかなればいいのですが・・・


後、戦後にディーゼルエンジンの勉強をしますが、そろそろ真キャラを登場させるつもりです。実在の人になりそうな予感ですが・・・さて、誰でしょう?



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