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『三人の大切な君を守れなかった俺は、過去に戻って今度こそ全員を幸せにする(※なお、全員俺への好感度が最初からカンストしている模様)』  作者: 卯月 恭


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第2話:二度目の青春、愛おしい彼女たち

「おーい、蓮! 志穂! お前ら朝から相変わらず熟年夫婦みたいだな!」

 校門をくぐった直後、背後からそんな能天気な声が降ってきた。

 振り返ると、制服の第一ボタンを外し、軽い足取りで歩いてくる男がいた。

 高橋潤。

 昨日――いや、俺にとってはついさっき、世界の終わりみたいな顔で俺に懐中時計を押し付けてきた、我が親友。

 今の潤は、あの時の冷徹な眼差しが嘘のように、いつも通りの、お調子者の顔をしていた。

「なっ……! だ、誰が熟年夫婦よバカ潤! あんたなんかと一緒にしないで!」

「おっと、志穂ちゃん朝からツンがキレッキレだねぇ。蓮、お前も大変だな」

 潤はケラケラと笑いながら、俺の肩にガシッと腕を回してきた。

 温かい。生きている。

 その事実に、俺の胸がドクンと跳ねた。

「……潤」

「ん? なんだよ蓮、改まって。もしかして俺のイケメンぶりに惚れ直したか?」

「いや……お前、その、なんでもない」

 聞きたいことは山ほどあった。

 あの懐中時計は何だったのか。世界の仕組みとは何なのか。

 だけど、今の潤は何も知らない「過去の潤」のはずだ。ここで突っ込んだことを聞けば、逆に怪しまれる。

 俺は潤の腕を軽く払いながら、さりげなくあいつの胸元に視線を落とした。

 制服の隙間から、細い銀色のチェーンが見える。その先は、ポケットの中に隠されていた。

 ――まさか、あの時計を、今の潤も持っているのか?

「あ、蓮先輩! 志穂先輩!」

 潤の胸元を凝視していた俺の耳に、鈴が転がるような、一段と高い声が届いた。

 校舎の靴箱に向かって、トトトッと小走りで駆けてくる小さな人影。

 一学年下の後輩――篠原恵だ。

「もー、朝から二人で登校ですか? 見せつけてくれますねぇ。私という可愛い後輩がいながら、不潔です!」

「ふ、不潔って何よ! ただ途中で会っただけだから!」

 顔を真っ赤にして怒る志穂を尻目に、恵は俺のすぐ目の前まで来ると、下から覗き込むようにしてニヤニヤと笑った。

「なーんて、冗談ですよ。でも先輩、もし志穂先輩にフラれたら、いつでも私のところにきてくださいね? なんなら、今すぐ乗り換えてくれてもいいんですよ?」

 悪戯っぽくウインクをして、クスクスと笑う。

 あの日、スマホの向こうで「本当に、本気で好きだった」と泣いていた少女と、目の前の少女が重なる。

 あの絶望を知っているからこそ、今の恵のからかいが、どれほど必死に隠された「本気」なのかが、痛いほど伝わってきた。

「……そうだな。その時はよろしく頼むよ、恵」

「へっ……?」

 いつもなら「バカ言うな」とあしらうはずの俺が、真剣な目でそう返した。

 恵は一瞬、ハトが豆鉄砲を食ったような顔になり、それから猛烈に顔を赤くして数歩後ずさりした。

「え、あ、ちょっと先輩!? 今の返しは反則です! からかい甲斐がないっていうか、その、ずるいです……!」

 両手で顔を覆ってモゴモゴと呟く恵。

 本当に、可愛い奴だ。今度は絶対に、あんな高いところから落ちるような真似はさせない。

「おいおい、朝から修羅場か? ごちそうさまだねぇ」

 潤がそんな風に茶化しながら、俺たちの背中を押して歩き出す。

 靴箱で恵と別れ、俺と志穂、そして潤の三人は、二年B組の教室へと入った。

 ガララ、と扉を開けた瞬間。

 教室の中心から、ひときわ華やかな笑い声が聞こえてきた。

「あはは! 本当それウケるー! あ、蓮、志穂、おはよー!」

 クラスの女子グループの真ん中で、パッとこちらを振り返り、満面の笑みで手を振る少女。

 杏山梓。

 陽の光を浴びてキラキラと輝くその笑顔は、雨の交差点で冷たくなっていた姿とは、微塵も結びつかない。

 梓は周囲の友達に「ちょっとごめんね」と断りを入れてから、俺たちの元へと駆け寄ってきた。

「蓮、今日も志穂と一緒だったんだね。仲良しで羨ましいなー」

 いつも通りの、明るくて、完璧な、誰もが好感を抱くトップカーストの美少女。

 だけど。

 今の俺の目には、彼女の笑顔の裏にある、ほんのわずかな『歪み』が見えてしまった。

 梓の視線が一瞬だけ、俺と志穂が一緒に歩いてきたことに、怯えるような揺らぎを見せた。

 誰からも愛されていなければいけない。

 もし誰かに嫌われたら、自分の居場所はなくなってしまう。

 この教室の、世界の中心にいる彼女は、薄氷の上を歩くような恐怖と毎日戦っているんだ。

「梓。おはよう」

「うん、おはよう! 今日も暑いよねー。あ、そうだ、今日の放課後さ――」

 梓が何かを言いかけた、その時だった。

「お前ら、予鈴が鳴るぞ。席につけ」

 担任の教師が教室に入ってきて、梓の言葉が遮られた。

「あ、はーい!」と明るく返事をして、自分の席へと戻っていく梓。

 俺もまた、自分の席へと腰を下ろした。

 窓の外からは、けたたましい蝉の声が聞こえる。

 目の前には、生きている三人のヒロイン。

 そして、斜め前の席で、あくびを噛み殺している親友の潤。

(ここからだ……)

 俺は机の下で、ギュッと拳を握りしめた。

 未来の記憶によれば、最初の異変が起きるのは、この夏休みの直前。

 まずは梓が、クラス内の人間関係のトラブルから精神的に追い詰められ、あの「夜の街」へと逃げ出すことになる。

 今度は、絶対に先回りしてみせる。

 授業開始のチャイムが鳴り響く中、俺は彼女たちを救うための計画を、脳内で静かに組み立て始めるのだった。

(第2話 了)

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