1話「王と道化」
普段、小説をまったく読まない人間が、AIと一緒に書き始めました。
数多の名作を読んだあとの、箸休めの落書き程度に、温かい目でお楽しみいただければ幸いです。
なお、作者は道化ほど打たれ強くありません。 鋭いお言葉も彼のように笑って受け流せませんので、どうかお手柔らかに。
それでは――王と道化の物語を、どうぞ。
王が杯を掲げた。
「今宵は無礼講だ。存分に飲め!」
歓声が上がった。
百を超える蝋燭に照らされた大広間には、長い卓が幾列にも並び、その上を肉と酒が埋め尽くしている。
焼かれた仔豚。
香草を詰めた鶏。
蜂蜜を塗った果実。
海を越えて運ばれた葡萄酒。
一皿で、城下の一家がひと月は暮らせるような料理が、食べきれぬほど並んでいた。
「陛下!」
太った伯爵が立ち上がった。
「今年も我が王国は豊作! 民も皆、陛下の治世に感謝しておりますぞ!」
「そうか!」
王は満足そうに笑った。
「それは何よりだ!」
「まこと、陛下の御威光の賜物でございます!」
貴族たちが笑う。
ハハハ。
ホホホ。
実によく揃った笑い声だった。
王の足元に座っていた男が、骨付き肉をかじりながらそれを聞いていた。
頭には三つ又の奇妙な帽子。
先端についた小さな鈴が、首を動かすたびに鳴る。
赤と緑の派手な衣装。
そして右脚を引きずる、不格好な身体。
宮廷道化師だった。
「おい、ジョーカー」
王が呼んだ。
「はいはい。こちらに」
「寝ていたのか?」
「まさか。伯爵様のお話に感動しておりました」
伯爵が得意げに胸を張った。
「ほう?」
王が笑う。
「どこに感動した?」
「民が皆、陛下に感謝しているというところです」
「当然であろう!」
伯爵が言った。
「今年は豊作なのだからな!」
道化師は肉を皿へ置いた。
「それはおかしい」
宴のざわめきが、ほんの少し小さくなった。
伯爵が眉をひそめる。
「何がおかしい?」
「昨日、城下を歩いておりまして」
「それがどうした」
「パン屋の前で、母親が二つのパンを半分に切っておりました」
「……それが?」
「子が三人おりました」
何人かが笑うのをやめた。
「困った母親でございます」
道化師は笑った。
「三人の子に、パンは二つ」
王の表情が少し変わる。
「そこで私は教えて差し上げました」
「何をだ?」
「伯爵様によれば今年は豊作だそうです、と」
伯爵の顔が強張った。
「すると母親は何と言ったと思います?」
誰も答えない。
道化師は杯を持ち上げた。
「『では、残りは伯爵様のお腹に実ったのでしょう』と」
「ブッ!」
若い騎士が酒を吹き出した。
何人かが堪えきれず笑った。
王も腹を抱えた。
「ハッハッハ! 確かに見事な豊作だ!」
伯爵の顔が真っ赤になる。
「き、貴様……!」
「おや?」
道化師が伯爵の腹を見る。
「顔は赤く実ってますがこちらはまだ収穫前でしたか?」
今度こそ広間が爆笑に包まれた。
「陛下!」
伯爵が立ち上がる。
「この無礼者をお咎めください!」
「無礼講と言ったのは余だ」
王は涙を拭った。
「座れ。道化の戯言ではないか」
「しかし!」
「それとも」
道化師が笑った。
「戯言では困るので?」
伯爵が黙った。
王の笑い声も止まった。
ほんの一瞬だけ、広間が静かになる。
道化師は笑っていた。
いつもの笑顔だった。
「……ジョーカー」
王が呼んだ。
「はい」
「本当に、城下では食べ物が足りぬのか?」
声が変わった。
道化師には分かった。
今度は王として聞いている。
「足りないのではございません」
「では?」
「ございます」
道化師は卓上を見渡した。
「ここには」
王も卓を見る。
食べきれず残された肉。
ほとんど手をつけられていないパン。
床には酔った貴族が落とした果物まで転がっている。
「…………」
「陛下」
「なんだ」
「私は愚か者ゆえ、難しいことは分かりません」
道化師は笑った。
「ですが、豊作というものは不思議ですな」
「何がだ?」
「豊作になれば貴族様の腹は大きくなり、民の腹は小さくなる」
誰も笑わなかった。
道化師は耳を澄ませた。
静かだった。
だから自分で笑った。
「ハハハ」
「……どうやら今のは、あまり面白くなかったようで」
王は道化師を見ていた。
やがて、杯を置いた。
「宰相」
「はっ」
「明朝、穀物庫の記録を余のところへ持ってこい。伯爵領の徴税記録もだ」
伯爵の顔から血の気が引いた。
「へ、陛下……?」
「それと」
王は卓上に並ぶ料理を見る。
「今夜残った食料は捨てるな。城下へ回せ」
「御意」
道化師は何も言わなかった。
ただ杯を口へ運ぶ。
「愚者」
「はい?」
「満足か?」
道化師は首を傾げた。
「何のことで?」
「……食えぬ男だ」
「ええ」
道化師は自分の細い腹を叩いた。
「伯爵様ほどではございませんので」
「ハハハハハ!」
再び王が笑った。
今度の笑い声は、本物だった。
道化師も笑う。
王が笑えば、貴族も笑う。
騎士も笑う。
給仕も笑う。
広間いっぱいに笑い声が響く。
けれど。
道化師は知っていた。
人間の笑い声には、いくつもの種類がある。
面白くて笑う者。
王が笑ったから笑う者。
怒りを隠して笑う者。
恐怖をごまかして笑う者。
そして――
生きるために笑う者。
その違いを、彼は誰よりもよく知っていた。
なぜなら彼自身が、かつてそうだったからだ。
*
十数年前。
まだ彼に名前すらなかった頃。
奴隷市場の片隅で、一人の少年が笑っていた。
頬を腫らし。
脚を折られ。
鎖につながれながら。
それでも少年は、笑っていた。
「何がおかしい?」
一人の男が、少年にそう尋ねた。
それが――
すべての始まりだった




