第30話 誘拐事件発生
機巧暦2139年12月・ドイツ帝国ブレーメン
「はえっ!? え? なっ!?」
「王女様、どうなされました?」
「・・・・・・・・だ、大丈夫よ」
シャルロットは各地から届く報告書に目を通していた。大日本帝国・欧州本部とオスマン帝国の戦争、イギリス連合王国によるキール占拠、北フランスと西フランスによるフランス統一の報告書も届いていた。
「各地からの報告書どうですか?」
「どうもこうも無いわよ。何よ!! 唖然とすることばかりじゃない!! 何よ! フランス統一って!! この私が正当な王女なのよ!!」
「まあまあ落ち着いて下さい」
「冗談じゃないわ。統一すべきは私なのに・・・・・・」
シャルロットは王位を諦めているように見えて諦めてはいなかった。それどころか隙を見て奪おうと考えていた。
ガチャ
「よっ!」
「ユズキ・・・・・・・屋敷に籠もってないとダメじゃない」
「色々、動き始めいるみたいだな」
扉を開けて入ってきたのは別館で療養中の久遠柚希だった。
「?」
「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
「その様子じゃ大丈夫みたいね」
「?」
前まで底なし沼のような瞳だったのが今ではしっかりと生命が宿っている。
「ユズキ、其方に命じたいことがあるわ」
「おいおい俺は停職中だぞ。師匠からの許可がないと動けない身なんだぞ」
「ふふふ、ベルリンの陛下やレイシア少将の許可はとっているわよ」
「え?」
そう言うとシャルロットはフランソワを通して久遠柚希に書状を差し出した。
「で、お願いしたいことがあるわ」
「わかった。聞こう」
ーーーーブレーメン・宮殿広間
「帝国陸軍少将・久遠柚希に命じる。第一航空戦隊を率いてキールを連合王国から奪還せよ!!」
「御意!!」
シャルロットがお願いしたいこととはキール奪還だった。俺は帝国から停職を解かれ後、今日、復帰し再び帝国陸軍少将となった。まあ士官学校臨時教官は解任されてしまったが・・・・・・・・・
「偵察した部隊によれば連合王国軍は最先端技術である機巧師団を組み入れていると聞いているわ。油断は禁物よ」
「ああ、わかってるよ。俺は最強の魔術師・灰色の亡霊と呼ばれる男だ。只ではくたばらねぇよ」
俺がそう言うとシャルロットは静かに頷いた。周りにいた家臣や一航戦の連合も熱狂し騒ぐことなく静かに見守っていた。
しかし物事と言うのは上手くいくようには出来ていなかった・・・・・・・・
それは出撃の前夜ーーーー
「親父!! ユウナ様が!!」
「どうした? 騒がしいぞ!!」
夜、別館の屋敷で寝ていると配下のリム准尉がバタバタと足音をたててやって来た。
「ハァハァハァ・・・も、申し訳ございません・・・・・ゆ、ユウナ様が何者かに攫われました・・・・・・」
「なっ!? さ、攫われた・・・・・だと?」
頭の整理がつかない・・・・・さ、攫われたってどういうことだよ・・・・・・・・
「恐らく寝ている間に攫われたと思います。ユウナ様の寝所にこのようなモノが置いてありました」
リムはそう言うと1枚の紙を渡してきた。
「?」
そこにはーーーーー
彼女を返して欲しければブレーメンの西にあるミュンスター付近の廃墟まで来ることね。最強の魔術師と言われる貴方と会うのを楽しみにしているわ。
イギリス連合王国・陸軍中将アルフレート=フォン=ドルシア
「俺の弱い所を突くとはな・・・・・・これはやられたな・・・・・・・・」
「?」
俺の言葉にリムが首を傾げる。警備の手薄な夜をあえて狙ったのだろう・・・・・・・・・・




