第28話 キール制圧
機巧暦2139年12月・ドイツ帝国キール
「長官、本日は異常ありませんでした」
「うむ。列強は講和締結が近いからどこも帝国には手を出さないだろうな。手を出せばまた戦争状態に後戻りになるからな」
「そうですね。このまま順調に講和条約までいって欲しいものですね」
艦隊司令室にて見張りの兵士が司令長官に報告していた。辺りはすっかり暗くなり静まりかえっていた。
「長官、お茶飲みます?」
「ああ」
「それじゃ今、淹れますね」
「・・・・・・・・」
兵士はそう言うとポットにお湯を入れ始めた。
「そう言えば長官、今日で艦隊司令長官就任5年目の節目でしたよね?」
「・・・・・・・・・・」
「?」
司令長官からの返事がない・・・・・・・
「長官もしかして・・・・・寝てます?」
「・・・・・・・・・」
「長官・・・・・・・・・ヒッ!!」
返事が無いことに不安を感じた兵士が振り向く。兵士は小さく悲鳴をあげた。そこには首の無い長官が座っていた。首からは耐えなく血が溢れ出ている・・・・・・・・
「だ、誰が・・・・・・・」
ガチャ、ガチャ
「?」
ジャキッ!!
「貴様か? 我が長官を殺したのは・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
部屋の隅から姿を現したのは鎧に身を包んだ騎士。右手には血がベットリと付いた剣が握られていた。
「クッ・・・・・・・・」
ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ
騎士はゆっくりと兵士に向かって歩いてくる。
「うぅ~」
剣の一本でもあれば戦えたかもしれないが残念ながら丸腰だ・・・・・・・・・
「逃げるしか・・・・・・・・」
ガチャ!! バンッ!!
「うっ!!」
ガチャ、ガチャ、ガチャ
扉を開け放ち逃げようと廊下に出るとそこには仲間の兵士らの遺体が無数に転がっていた。首が無い遺体、内臓が散乱している遺体、四肢が無い遺体・・・・・・・・
「こ、これは・・・・・・・・」
「アハハ、逃げようとしても無駄よ。この艦隊司令部は我がイギリス連合王国が制圧したからね☆ まあキール全体が私たちの管轄下に置かれたわ」
「!?」
兵士が振り返るとアルフレート=フォン=ドルシアが立っていた。彼女の後ろには騎士が10人程いる。
「逃げる兎さんと追いかけっこするのも悪くないけど逃がすと面倒だからね。ここで始末してあげるわ。ちなみにこの司令部での生き残りは貴方だけよ」
「うっ!?」
ドルシアは剣を腰の鞘から引き抜くと兵士の背後に周り背中に切っ先を突き付けた。
「さっきは始末してあげるって言ったけど・・・・・・・・やっぱり勿体ないかしら。帝国の機密を知ってそうだし。生き残ったのは何かの運命ってことで私たちの味方にならない? ユズキ=クオンの居場所を吐けば仲間にしてあげる☆」
ドルシアは屈託のない笑みを浮かべながらそう言う。
「答えろ。ユズキ=クオンは何処にいる?」
「・・・・・・・・・・・」
「黙秘するのか?」
「・・・・・・・・・」
兵士はドルシアの言葉を無視した。
「そうか・・・・・・なら仕方ないか」
「うぐっ!!」
ドルシアは剣の切っ先を兵士の背中に食い込ませた。白い軍服が血で滲む。
「もう一度、聞く。ユズキは何処にいる?」
「クッ・・・・・・・・・・調子に乗るなよ!! 連合王国の牝犬が!! 貴様らなどユズキ少将にかかれば瞬殺よ!! 帝国にそして陛下に栄光あれ!! アハハ!!」
ドスッ!!
「そうか。ならば死ね☆」
「グハッ!!」
追い詰められた兵士はそう叫ぶ。そしてその言葉を合図にドルシアは剣を背中から腹にかけて貫通させた。
「私を侮辱するとはいい度胸ね~ この剣はそう簡単には引き抜かないわよ」
「ブハッ!! ギ、ギャァァァァァ!! *#@&*@@?!!?」
ドルシアはそう言うと突き刺さった剣をグリグリと動かす。余りの激痛に兵士の口からは悲鳴ではなく獣が咆哮しているような声が響き渡る。
「アハハ!! 存分に苦しむといいわ!!」
「@#@#?@*@#??@・・・・・・・・・@??・・・・・・・・・・・・」
「事切れたか・・・・・」
ドサッ!!
兵士は痙攣しその後、亡くなった。ドルシアは剣を引き抜くと兵士の遺体を蹴り飛ばした。
「強情はるとはくだらないわね。素直に白状すれば一軍の将にはしたのに・・・・・・・・・強情というよりは軍人としての意地か・・・・・・・・」
「ドルシア中将、次の命を下さい。後方の三個師団も到着したとの報告が入りました」
「わかったわ。よし!! これで敵艦隊司令部は制圧完了した!! キールを徹底的に略奪し破壊しろ!! この地を二度と使えないようにしてしまえ!!」
「分かりました!!」
先遣隊の三個師団《6万》の機巧部隊が艦隊司令部を制圧すると後から到着した三個師団《6万》がキールの街を占領した。
「ドルシア中将、キール占領が完了致しました」
「ご苦労だったわね」
「それとユズキ=クオンの居場所が分かりました」
「!!」
配下の言葉にドルシアはハッとした。
「ブレーメンにいるということです」
「そう・・・・・・・・ならブレーメンに行くわよ」
「分かりました」
配下が去るとドルシアは自分の右手を撫でた。彼女の右腕は機械仕掛けの義手となっている。刃渡り60㎝の剣が仕込まれていて戦闘用の義手なのだ。彼女は人間と言うよりは感情や意思がある機巧人形に近い。心臓も機械仕掛けで流れる血管も魔術回路になっている。
通常の鉄のフレームに魔術回路や魔術宝珠で創られた人形を機巧人形と言う。
対して生身の人間に魔術回路や魔術宝珠を埋め込んで創られた人形を禁忌人形と言う・・・・・・・・・・・・・




