第27話 誰の手も借りず
機巧暦2139年11月・イタリア王国マルタ島
「さてブルガリア、ギリシャは保護国にすることは確定した。次は敵に魔術師がいた場合どうするかだな。我らは全員が魔術を持っているがイタリアの魔術教会からの洗礼を受けていない」
この世界は全員が体内に魔術回路を有している。しかし魔術教会が認め洗礼を受けていないと魔術を発動させることは不可能なのだ。ちなみに魔力を正常に発動できる魔術師はドイツ帝国にしかいない。これは神聖ローマ帝国時代にイタリアの直轄地だったためだ。フランスやロシア=ソビエトにいる魔術師はドイツ帝国から出ていった者だった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「アハハ、お通夜のようだな。やはり敵に魔術師がいた場合は厳しいか」
大覚寺がそう言うと皆は黙ってしまった。魔術師と魔術を保有していても使えない者とでは象と蟻である。捻り潰されるのがオチだ・・・・・・・・・・・・・・
「榊原少将と親しい久遠少将を我らの陣営に加えてはいかがか?」
「たしかに久遠少将は最強の魔術師・・・・・・・・・・心強いかも」
「ちょっ! 柚希・・・・・・・いや久遠少将はドイツ帝国の所属です。勝手に引き抜くの俺はどうかと思いますよ」
久遠の名が出た途端、静まり返っていた場が賑やかになった。劉季と劉徹らの言葉に康介が慌ててそう言った。
「久遠少将は魔術協会からの洗礼を受けずに魔術を発動させたと聞きます。魔術協会は久遠少将に対して厳罰処分を下す方向で話が進んでいるという噂があります」
賑やかな場で一人だけ冷ややかに北畠はそう言った。
「厳罰処分だと? 久遠少将を厳罰処分に下せば魔術協会側が危うくなるのぜ?」
「魔術協会は魔術師の殺生与奪権を持っているんだ。協会の連中は全員が魔術師殺しのプロだ。敵うはずないだろ」
「な、何が言いたいんだよ?」
楠木中将はムスッしながらそう言う。
「久遠少将を支持する者は魔術協会から睨まれるってことだ。いつ暗殺されてもおかしくないなってことを言いたいんだ。欧州本部がこれからだと言う時に面倒事に巻き込まれたくなかったら魔術協会から睨まれているドイツ帝国や久遠少将としばらく距離を置くことをお勧めします。大覚寺元帥、オスマン帝国侵攻と欧州本部の領土拡大は他国の手を借りずにやるべきです。他国の手を借りれば必ずや干渉してきます」
「・・・・・・・・・・もし魔術師と遭遇したどうするんだか」
「そうか・・・・・・・・その件は少し考えておく」
北畠の言葉に大覚寺はそう言った。




