三話
七月になっても梅雨は明けず、繁華街にしとしと雨が振り続けている。
天井に備え付けられた大きなエアコンは、冷気を店内に送り込んでいた。
お店にはダンス音楽が流れているが、聞いたことのない音楽ばかりなのと周りが騒々しいため聞き取れず、珠希は集中して聞くのを辞めた。
由美子に勧められて買ったドレスだけでは肌寒く、用意していたカーディガンを羽織ってカウンター席に腰掛ける。
ウーロン茶を頼むと、カウンター越しに立つ初老の男性がコースターに乗せてグラスを差し出してくれた。
お礼を言うと静かに微笑んでグラスを洗う作業に戻る。
丁寧に整えられた髭に、ぴしっとした黒い服装で貫禄がある。
おそらく、お店のマスターだろう、と珠希は思った。
お酒を飲まない珠希にとって、お酒を取り扱うお店は珍しく見えた。
ズラッと並んだお酒のボトルも、従業員専用だと思われる扉に飾られた絵も、未体験の出来事だった。
気がつけば、たくさんのことを経験して大人になってしまった、という実感に繋がって感傷に浸ってしまう。
歳を重ねることには、他の人同様に抵抗はある。
しかし、大人の階段を登るのも案外悪いものではないな、と集まってくれたみんなを見渡して思った。