優奈編
「ボクを選んでくれたんだね、ヒロくん」
「うん……」
「また会えるときを、ずっと待ってたよ」
「……」
「ゆう」
「ずっと一緒にいようね」
「うん」
僕はゆうの手を握った。そうして僕たちはそのまま、家に帰った。
「母さん、ゆうと一緒だよ」
「え……?」
母さんは驚愕した面持ちで顔を抑えていた。
「あ、あら……そう」
そのまま黙ってしまった。久しぶりにゆうに会えたのに、なんでそう突っ立っているんだろう。少しイラついたが、ゆうの顔を見て、ゆうがいればいいか、と思った。
「ゆう、おいで」
「うん」
僕はゆうの手を取って階段を上った。
二階の部屋に入ると、僕は扉にゆうを押し付けて唇を重ねた。
「んっ……」
「ゆう……」
部屋の隅のベッドにゆうを座らせて、隣に僕も座った。
ゆうの身体を抱く。柔らかくて、いい匂いがする。
「ヒロくん、気持ちいい?」
「うん。ゆうの身体、柔らかいよ」
「そう。良かった……」
……………………
………………
……
僕らはそれから長いことそんな生活を送っていた。
温かくて、何の疑問もなく幸せな時間。
「ヒロくん、ボクにするの、キスか、せいぜい身体を触るぐらいだよね」
「それで満足なの?」
「もっと、イイことしようよ――」
「もっと、イイこと?」
「そうだよ、ほらここ」
ゆうは僕の手を取って彼女の胸に当て]そこから手を下に導いていった。
少し硬い感触。
「やめろっ!」
バッ!
手を跳ね除ける。
ゆうは少し悲しげな顔をした。
「ご、ごめん」
「何で、手を離したの?」
「……」
「もう一度訊くよ。なんで手を離したの?」
「……」
「そう。答えられないの」
パァン! 頬に衝撃が走った。ゆうが、僕の頬を叩いたのだ。
「いい加減」
「現実を見なさいよ」
「……」
僕は、またしても何も言えなかった。
「それじゃあね、祐人さん」
ゆうは――夕季さんは立ち上がり、開いた扉の向こうへと消えていった。ガチャン。扉が閉まった。
僕は夕季さんに甘えていた。夕季さんの気持ちを考えないで、僕は自分に都合のいい言葉だけを聞いていた。
だけど、それが悪いことだとは思えなかった。僕ははじめからゆうが好きで、ゆうだけを好きでいた。その過程で夕季さんを傷つけてしまったが、僕はゆう以外のことはどうすることもできなかったのだ。
期待させてごめんね、夕季さん。
「ゆう……」
「ゆう……僕は君の所へ行くよ」
「もういくら頑張ってもゆうには会えない……それなら、もう生きている意味はないよね」
重い脚を駅に向かって引きずっていく。
夜風が僕のいる駅のホームに吹いて、微かな夜の光をレールが反射していた。もうすぐ、電車が来る様子だった。
ああ、僕はまたいろいろな人に迷惑をかけるんだな。
「ゆう……いまに君のところに行くよ」
「まもなく、二番線に列車が参ります」
アナウンスがホームに寂しく響く。電車のレールを走る周期的な音が聞こえる。
「愛してるよ、ゆう」
電車がブレーキを掛ける音を聞いて、僕はホームから身を投げた。
優奈編をお読み頂きありがとうございました!
結構好きなシチュエーションを何個か詰めてみたお話しです。
「いい加減現実を見なさいよ」なんて、夕季さんが言いそうにない言葉ですから、これは趣味です。そしてこの優奈編は、そうです。バッドエンドなんです。
ノベルゲーム版では、祐人が飛び込んだ後、「男の娘を選びなさい」とデカデカとテキストが表示されます(笑) そこから夕季編に飛ぶことも、祐人のように頑なに優奈を選ぶことができる仕様にもなっているんですが、あれは僕ではなくてスクリプターの仕業です。
男の娘は大好きですが、優奈を選ぶことも悪いことではないと僕自身は思っています。そういう意味では一つのエンディングとして読んでもらえるといいと思います。
それに、このバッドエンドは後味が悪いようですが、 『夏菊 番外編&後日談』(http://ncode.syosetu.com/n8884dm/)ではメタとして昇華しているのでそちらも読んで頂きたいなと思っています!
『夏菊 夕季編』 Coming soon...