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佐野

その言葉にテンションが上がる翔真の後ろできららがジュースを飲みながら近づいてくる。

「わ、いきなりなんですか」

「別に~、なんとなく話しかけにだけ~、2学期になってからお前らはリア充ぷりが半端ないよな~と思っていいのか?そんなんで、」

「あれ以来、兜君は来ませんし。会長も何もして来ない。なら楽しむのもありかなって、」

「兜ねぇ。学校に来てないわけじゃないだけど、まぁ、お前らには会いたくないよな。」

兜は翔真に負けた後、どうしても抑えることのできない憎悪で、勇騎にも勝負を挑んだ。

だが、ヒーローの力を手にした勇騎相手に、兜は手も足も出なかった。

勇騎はそもそもヒーロー適性が極めて低いため、それほど絶対的な力の飛躍が望めるわけではない。だが、変身により向上した身体能力をもってすれば、持ち前の戦闘センスと圧倒的な経験の差がある。結果、翔真のように派手ではないが、兜では埋めがたい、実力の力の差を見せつけ、兜自らに敗北言々をさせた。

だが、それで改心する事もなく、学校こそ止めなかったが、教室に来る事もなくなっていた。

だが、だからと言って今まで通りというわけではない。翔真と勇騎は今や生徒会からも一目置かれる強者。故にクラスでは誰も彼もが彼らを避ける。

彼らが悪いわけではないと理解しているし、別に嫌いというわけでもない。むしろ感謝の念すらある。だが、彼らと仲良くしては獅子王の怒りを買いかねない生徒会を敵に回す。

そうなれば子供同士の学校の中だけでの出来事でなくなってしまう。

誰もそのリスクを冒すことはできない。そしてその事は翔真もさやかも理解している。

だが、それでも自分たちで選んだことだ、後悔はしていない。

だからこそこうしていつも3人だけでクラスのみんなと距離を置く、そうすることがお互いにとって最善の術だ。

「きらら師匠、俺どうしたらいいっすか?ヒーローならこういう時どうするんですか」

「別にお前が悪いわけじゃないし、そんなに簡単に兜をどうこうできるならこんな事にはなってないさ、少なくとも、今回の件はお前たちが正しくて兜が悪いと断言できる

あいつはただのわがままのガキだ。それがわがままが通らなくて壁にぶち当たってるだけ、本当にあいつを思っているなら、どうするかわかるな。」

「次に来た時も正々堂々全力で凹る」

「そうだ。」

「え!そうなのそれダメでしょ!余計たちが悪くなるでしょ。」

「私たちヒーローはそういうものなんだよ。」

何でもかんでも暴力で、翔真は少し呆れてしまう。

「さて、それよりなんで私がわざわざこうして来てあげたか、」

「暇だから、」

「そんなわけないだろ、実はな、獅子王のことで、」

きららはまじめな話をする前に目線をさやかに移す。

「私には関係の話、聞いて下手に巻き込まれたくもないから、これで失礼します。」

そういうとさやかは、一人中庭から離れていく。

しかし、離れたところでどうしようか、まだ昼休みは半分も過ぎてない。教室に行っても居心地は悪い。なんだかんだで、翔真が居場所になってくれているところがある。

その時だ、彼女の視界に担任の佐野が大量のプリントを運ぶ様子が目に留まる

「佐野先生、」

「伊万里さん、どうかしましたか?」

「いえ、重そうだなって思いまして、お手伝いますよ。」

「いいですよ。大丈夫ですよ。」

「いいですから、」

伊万里は半ば強引に佐野のプリントの半分を奪い取る。

ただでさえ、自分たちの印象は悪いのだ。せめて担任の評価くらいは上げておいて損はない。佐野の権限などたかが知れているが、それでもないよりはマシだ。

「伊万里さんくらいだよ。こうして私の仕事を手伝ってくれるのは。」

「先生も大変でしょう。こんなことでよかったらいつでも手伝わせてください。」

そういって伊万里は先ほど勇騎に見せた作り笑顔で微笑みかける。だが、それは佐野にとっては救いの笑みだ。自分の境遇の理解者。彼女だけが自分の味方。


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