それは彼女が求めた日常
「だから、そうじゃないです。軍師!僕は、樹里さんは心に惚れたのであって」
「一目惚れでしょ、それで心って何よ。見かけでしょそんなもの、」
「軍師?」
「伊万里さんの事です」
今日も昼休み、中庭の片隅で、飲み物の買い出しから戻った翔真が目にしたのは、椅子に座るさやかを前に、地面に正座し、必死に抗議する勇騎の姿だった。
「ちょっと他の人がいる前ではその呼び方ややめてって言っているでしょ。」
「今のは不意打ちです。翔真君がショートカットで上から来るのが悪いです。」
「で、なんで、軍師なの?」
「それは、打算的で、冷酷に人の心を把握するからで、」
「まずはその悪気のない悪口やめなさい。そういうの、樹里さんの前でも出るわよ」
「何、また恋愛相談?そんなことしていいの、勇騎君、ヒーローは?」
「それはそれ、これはこれです。俺、師匠みたいに一生独り身は嫌だし、彼女がほしい。というより樹里さんとその、色々、」
「気持ち悪いわ。」
「というかさらっと師匠さんのことディスったよね」
「そんなことないよ。尊敬してるよ。ただ俺だけじゃなく、誰も師匠のように正しく、強くいられない。だからと言って師匠は誰かのために合わせて妥協はしない。だから誰も対等にはなれない。師匠は誰かを守れるし、誰かの痛みも理解できる。でも師匠はだれにも弱さは見せないしだれにも頼らない。とてもじゃないけど僕はそうはなれない。」
「怖くないそんな人」
「怖いよ。でも、すげぇカッコいいんだ。」
「そう、でも少なくとも樹里さんに好かれたいなら、その師匠の教えを頼りにするのはやめなさい。会ったことないのにこんなこと言うのは何だけどね。」
「そんな!師匠は最高にかっこいいですよ!」
「でも、モテないんでしょ。それはヒーローが惚れるかっこよさなんでしょ。それを念頭に置いて行動しているから、せっかく命を救ったっていうアドバンテージを生かせずに、こうして日々、恐ろしい速さで距離が空いて言っているのを、自分自身で感じているんでしょ。なんで私にこうして頭を下げて教えを請わないといけなくなったか、思い出しなさい。」
「そ、それは、」
「で、でも、僕は樹里さんに好かれるように荷物を持ったり、それに積極的に話だって、」
「いいことを教えてあげるわ、美人には男はみんな優しいの、だから優しいなんてなんのアドバンテージにもならない。本当のホストみたいな奴は美人じゃなくても優しい。だからこそあんまりモテたことのない子がそういう子にコロッと言っちゃたりするけど、私とか樹里ちゃんとかは基本的にこの学校関係者以外なら優しくされるものなの、慣れているの、それが当たり前なの、むしろある意味冷たくされるほうが印象に残るくらい、」
いまさらっと自分が美人だって言い切った、でもそれに惚れているから何も言えない、翔真は少し遠い目で二人を見守る。
「美人は性格ブスっていうのは嘘だから。基本的にみんなから優しくされて、褒められるから、毎日が楽しいし、大抵のことはみんな協力してくれる。
だから人を嫌う理由がないし、人に親切にするのも嫌じゃないし、黙っていても見返りは帰ってくるものなの。それは私とかに好かれたいって思うからで、翔真だってほら、少し甘えた感じで頼めば、飲み物だって買いに行ってくれるでしょ。」
今それを、本人を前にして言うか
「翔真、ありがと」
さやかは満面の笑みでお礼を言われると有無を言わせず、うれしい気持ちになる。
「ね、少し高めの声で、言うと実際以上に感謝してるって思えてくるでしょ。樹里ちゃんは若干天然でこんな感じだけど。」
「ですよ、軍師とは違いますよ。というか軍師超かっけぇ!俺もかわいいって思いました。」
「ふふふ、プロのモデルさんとか女優さんに直接会っていただけのことはあるでしょ。
人に好かれる技術、例えば、何も考えていない純真無垢な笑顔っていうのはこうするの」
なんだろう、今までよりも一番遠くにさやかを感じる。




