閑話1話 とある両親の思い
一之宮 政雪
当家は平安時代の藤原家に通じるほどの名家で、平安から政治家として活躍し、当家の通字は政が付くようになった。私には二人の息子がいる、長男の政臣には後継者として通字の政を付けたが、二男は養子に出すつもりで次郎と名を付けた。
私にはかつて弟がいた。仲はそれほど悪くは無かったが、私が親から家督を継ぐ時に事件は起きた。周りの人間が弟を焚きつけ、弟の政都と後継者争いになってしまった。私は勝利したが、その勝利が確定する前に弟は失踪してしまっていた……私は、その失敗を繰り返さぬよう、二人目が男の子だと知ると養子に出す事を決めたし、養子に行きやすいよう愛情も注がぬようにした……
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が肝心の次郎は、一時引き籠ったりするなど一時不安定になったのだが、その後は、まるで一人で生きていけます。と言うように幼稚園に入園する頃から、自ら家族と距離を離し一人で行動することが増えた。それまでは妻か特に兄に懐き常に後ろを追いかけていたものだが、全くそれが無くなったのだ。
さらに調べものがあると言っては色々な人間に、果ては教えてもいないパソコンまでも駆使して情報を収集していた。また私が知らぬ間に三井家との婚約まで話を進めていた。
私の自業自得であろう、次郎は聡い子だ、冷たくされ名に通字も無いのを知り、自ら家を出る事を選んだのだろう……私は幼いわが子に何て事をしてしまったのだろう……
悔やんでも仕方ない、後悔している内に次郎は婚約をすでに成立させてしまった。こうなっては一之宮家に恥ずかしくないように、また今後の次郎の役に立つように各種の稽古を増やしてあげなくては……と考えたが、次郎は自らの意志で小学校からと決め、あんなに慕っていた兄が選んだサッカーでは無く、野球というスポーツを選んだ。
私は健康のためにも、また人間関係のためにも何かスポーツをやらせようと考えていたが、次郎は自身で野球を選んだ。まるで私には、兄と同じスポーツをあえて選ばなかったのは、後継者争いには参加しませんと言っているように私にはみえた。
私は、息子たちには家督争いがあったことは教えていないため知らない筈だが、次郎ならば以前の情報収集で何か知ったのかもしれない。親の私が言うのもなんだが長男の政臣は、かなり優秀な人間だ。
しかし次郎はそれ以上だ、まだ幼稚園児だと自身の立場を理解し、理解したうえでこちらでは手の出しにくい三井家と手を組み、大胆な処世術を披露した……実に見事だ。
しかし私自らが招いたことだが、少し寂しさを感じる…………ここに至っては、次郎の手助けをする道を選ぼう。だからこの子が選んだ野球には最高のコーチを選ぼう。
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一之宮 茜
この子が生まれる前から解っていたはずだけど……、出産前の診断どおりに二人目の子供は、男の子が生まれてしまった……。主人との約束で二人目が生まれてしまった時に、その子が男児だった場合には養子に出す……。それが主人と結婚するときに交わした唯一の約束事だった。
私も義理の弟である政都さんが後継者争いに敗れ、失踪してしまった時の政雪さんの悲しみは嫌ほど知っている。だからこそ二人目は女の子であって欲しかったし、この子には何の罪もない。養子に出されるのは親の勝手な理由、私だってお腹を痛めて生んだ子を養子には出したくない。でも諦めるしかないのだろうか……
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きっと罰が当ったんだわ……。次郎が3歳を過ぎたころ、突然次郎が引き籠ってしまった…………。
近くにいたメイドに話を聞くと、普段どおりに過ごしていたが急に大きな声を上げたと思うと突然怯えだし、何かから逃げ出すように自室に籠ってしまったとのことだった。当初は使用人から何かされてのではないかとも疑ったが、それまで近くに居た政臣さんに話を聞いたが、当日ならびに過日にそのようなことは無かったと証言してくれた。
となると、きっと私たちが原因なのだろう。養子に出すため愛情は極力注がないようにしていたし、そろそろどこに出そうかという話もしていた。もしかすると次郎は小さいながらも、親の何かしらの感情を察していたのかもしれない…………。
そう考えると、とても次郎に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。小さい時からきっと敏感な次郎は傷ついてしまっていたんだ。夜泣きもせず我儘もあまり言わずずっと今まで耐えていたんだって、ずっと兄や私についてきたのも愛が欲しかったのかもしれない。そう思うと悲しくなった…………
だから次郎が引き籠った時、私は何としても助けなければと思うようになった。私たちが何も出来ず、次郎が自力で自室から出てきてくれた後、より強く思うようになった。だからその後には政雪さんに養子の話を辞めるよう相談もした。そんななか次郎は私たちにも兄の政臣にも甘えなくなってしまっていた…………。
何か情報を探しているときに相談を受けることもあったけど。基本的には私たちを頼らず生活するようになってしまっていた。もう次郎には失望されてしまったのだろうか…………。
何かある度に、心配で大丈夫って聞くけど、あの子は絶対に「大丈夫です」としか言ってくれない。表情を見ると、とても大丈夫では無いようには見えるけど……、次郎の力になりたいけど頼ってくれない、これも私の我儘なのだろうか……?
だから三井さんから婚約の話を聞いたとき、次郎が彩香さんの事が好きならば、是非協力したいと思った。だから付き人の刑部家の涼君から次郎の気持を確認した時、少し寂しい気持ちになったが、次郎が決めたことなら応援したいと思った。それが私が次郎を養子に出す事を決めてしまった事への罪滅ぼしでもあるのだから…………。




