子供達4
再び広間に戻ると、ほとんどの子供の身元の確認が終わったようだ。
あとは親が迎えに来るのを待つばかりらしい。
なにやら話をしていた子供たちが私に気付いて走り寄ってくる。
「レゲル様だー!」
ん?レゲル様?お兄さんのままでよかったんだけど、というかそっちのほうが個人的には嬉しいんだけど。
「普通にお兄さんって呼んでくれて構わないよ」
「だってあのレゲル様なんですよね、せっかくならレゲル様って呼びたいです」
……どういう意味だろうか。せっかくもなにも意味的には変わり無いような。
「それにみんなレゲル様のことレゲル様って呼んでます、私たちだけお兄さんなんて呼べません」
「そっ、そっか」
お兄さんの方が絶対親しみやすいと思うんだけどな。まああんまり強く言うことでもないし。
「もう親御さんは来るのかな?」
「少し遠い区の子もいますからね、迎えに時間がかかる子も何人か」
子供たちに聞いたのだけど、近くにいた騎士が教えてくれた。
「それなら連れていった方が早くないですか?」
「ええ、それも今検討しているところです。しかし、あの、何人か戻りたくないと言っている子もいますし、自分のいた区がまだわからないという子もいまして……」
私は振り向いて騎士を見る。
「わからないはともかく、戻りたくない、ですか」
「酷い扱いを受けていたようで、売られたらしいことをいう子もいます。そういう子は帰りたくないから出身区を教えてくれないんです」
全員が全員家に帰りたい、というわけではないのか。かといって引き取るというわけにもいかないし、これは騎士団だけに任せておける問題ではなさそうだ。
「それは何人くらいいますか?」
騎士はパラパラと資料らしきものを見ながら数を数える。
「ええと、全員で十六人いまして、出身区がわかっていて戻りたいと言っている子が十一人、出身区がわからない子が三人、残りの二人が戻りたくないと言っている子です」
「……少し話をしましょうか。どの子ですか?」
私は子供たちを見回す、特に変わった様子の子はいない、みんなどこかしらでお喋りをしているか、疲れたのか机に突っ伏して眠っている子しかいなかった。
騎士は話の輪に入り仲良くお喋りしている女の子と、机に突っ伏している子を指差した。
「あの子達の名前は?」
「話をしている子がレダ、寝ている子がカイです」
女の子の方はわからないけど、あの精霊の目の子も戻りたくないのか。
私はレダという女の子の方に近寄る。元気そうにお喋りをしていた。家に戻りたくないと思っているようには見えない。
「レダちゃん?少しお話しようか」
不思議そうに私を見るレダ。本当にこの子が戻りたくないと言ったのだろうか。
ぎこちなくうなずいたレダを連れて部屋の隅の椅子に連れていき、向かい合って座る。
「どこにもケガとかはない?」
「はい」
そう答え小さく微笑みを浮かべたレダは、金髪を伸ばした女の子で、歳は十歳くらい、痩せてはいるが目元の整った可愛らしい子だ。
「どうしてお家に帰りたくないの?」
単刀直入に聞く、騎士に聞いてもいいんだけどやっぱり本人の口から聞くのが一番だろう。
「……帰りたくないから」
「何で?」
「お母さんもお父さんも私なんていらないって、いつもそう言うんだもん。お父さんが変な男の人を連れてきて、私その人に連れて行かれたんだよ。帰っても意味ないもん。また売られるだけ」
少し訛りがあるな……それより、こんなことをまったく表情を変えることなくさらりと言ってのけた。もともとこういう子なのかな。そんな扱い受けてたら荒れるか、卑屈になるかしそうなのに。
「じゃあお家の場所を教えてくれないかな。話をしてみないとわからないこともあるから」
「何で?レゲル様には関係のないことだよ」
「じゃあ、お家を離れてこれからどうするつもりなの?」
そう訊ねると、レダは黙ってしまった。見てもらったところ、彼女は先程の騒動では精霊と契約していないようで、少なくとも精霊使いとしての道は今は歩めない。
「でも、帰りたくないんだもん。レゲル様は私に家に戻ってほしいの?」
「それが本来の姿なんだろうけど、話を聞く限りは、確かに今君をお家に帰すべきじゃない。私にはお父さんにもお母さんにも、何かをされたことはないから、君の気持ちはわからない。だから私にできることはただ話を聞いてあげることだけだ。決めるのは君だよ」
この子にできる支援はあまりにも少ない。冷たい話だが、この子一人のために全力で支援をすれば、似たようなことが今後起こったときも同じことをしなければならない。数人なら無理ではないが、いつか崩れてしまうだろう。この事を利用して新たな犯罪が起こる可能性もあった。
孤児院か、それに準ずるところに送るのが最終手段になるだろう。だがそれでは親に見付かってからを保証できない、ややこしくなるし、関わった騎士団や私もとばっちりを受ける。




