年末年始と地元6
作業場はとにかく熱かった。
いかにも熱そうに焼けた鉄と薪。火精霊が集まってるな。
こういう各精霊の属性のものがたくさんあるところにはその属性の精霊が多く集まってくる。鉄があるから土精霊もいるな。視線を感じるけど無視。精霊以外の視線も感じるけど無視。
「こらっ!お前らよそ見してる暇があったら手ぇ動かせ!」
おじさんの強烈な一喝が飛んだ。 怒らせると怖いのか、みんな一斉に仕事に集中し始める。
少しだけ説教をして、おじさんが私たちの方にやってきた。
手にはいくつかのナイフを持っている。
「ほらよ、あんたの弟の打ったやつだ」
見せてもらうと……うーん、使えないわけじゃないけどやっぱりまだまだって感じだな。
歪みとかもあるからこれはお店に出せないのかな。
「これがアレスの打ったナイフですか。やっぱりまだまだですかね」
「まあまだあいつも来たばっかだしな。鍛冶の才能とかはないが真面目だ、そのうち店に置けるくらいのが作れるようになる」
才能ないって言われてる。兄としては結構ショックだな。まあ誉められてるしいいだろう。
「ではこれはどうするんですか?」
「これか。打ち直せば普通のになるからあいつの練習用にとっとくよ。買い取るって言うなら売るが、少ししか使えねーよ」
まあいつもナイフは使うから良し悪しはある程度わかる。これは買わないな。いくら弟が打ったナイフとはいえ粗悪品は粗悪品だし。よし、普通のナイフを買おう。
「あんた王宮で働いてるらしいが、ナイフなんて使うのかい?」
私は護身用に持ってたナイフをおじさんに渡した。王宮で常備してるのと同じもの。柄がぼろぼろになってきてるな。
「しかし、王宮じゃずいぶんいいのを使ってるんだな」
おじさんはじっとナイフを見つめている。
「ええ、王宮の出入りの工房の品です」
「王宮御用達ってわけか」
「武器の質が悪いからなんて言い訳はできませんからね。こういうところにお金を渋ってはいられません」
補佐官になったときに武器代みたいなお金を渡されたからね。もちろん表向きは必要経費。
こんなにいるのかと思ったけど、実際の値段見たら少し足りないくらいだった。使い勝手は最高なんだけど、値段のことを考えるとちょっとなあ。
「そういえば何でナイフなんだ?」
「長剣は普段の仕事の邪魔になりますし、何より私は見ての通り筋肉があまりないので長剣はあまり長時間振っていられないんです」
それにナイフの方が服の中に仕込みやすいし、まあ長剣ぶら下げてる人も多いけど。
「それに私は精霊使なので精霊に手伝ってもらえば色々な戦術が使えますし。長剣よりもこっちの方が向いてるんですよ」
「そういやあんたこっちでも有名な精霊使だったな。俺はそういうのにあんまり興味なかったからそれくらいしか知らねーが」
有名なのか。まあハセ区はちっさい区だから出身者が王宮勤務になったらそれだけで噂にはなるか。しかも私の場合宰相様の補佐官だもんな。たぶんかなり有名人になってる………?
「おにーちゃん………」
ミゼルが何かを訴えるような目で私を見てくる。
まあミゼルには鍛冶屋なんて退屈だったかな。見てて面白いわけでもなく、精霊がいなかったらすごい熱いし。
「嬢ちゃんにはつまらなかったか?まあここは熱いしいったん表に出るか」
おじさんはその強面を緩めて言う。
ミゼルは黙ってこくりとうなずいた。




