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終話

白い石でできた墓の上に、淡い黄色の花束が置かれていた。どうやら、先客がいたらしい。

「カーレル、お前も来てたのか」

聞き慣れた幼馴染の声だった。イグルドがこの花束を置いたのだろうか。

「当然だろう。この花はお前のか?」

「あいつは花なんかより本貰った方が喜ぶだろ?俺じゃあない。その辺りの花でいいだろ」

墓参りといえば普通は花か菓子だが、まあ確かにイグルドの言う通りだ。備えなくてもその辺りに生えている草木で十分だ、と彼なら言うだろう。

「もう2年も経つのか。月日が経つのは早いものだな」

「2年も経てば色々変わる。その色々を、今日は伝えに来たんだろ?」

「俺が宰相として忙しい間に、お前の方が先に来て伝えてはいないのか?少なくとも俺よりは暇だろう」

「まさか。俺だって色々と忙しいんだぜ?精霊王の存在が知られてしまったせいで、裏側は大忙しだ」

イグルドの言う裏側は、文字通りこの国の裏側の組織ゲーテ。彼らは初代国王亡き後から常にアリュを監視し、必要とあらば強引な手を使っても整える組織だ。その存在を知るのは古くからその組織に属する家柄以外には、極一部の貴族のみ。俺も、イグルドが幼馴染でなければ、そしてここに眠る彼がいなければ、知る事はなかっただろう。

「……なかなか楽しいものだったよ。お前の娘のお守りは」

この墓の下で眠っているのは、レネッタの前に補佐官をしていた友人であり、彼女の父親。

役人として共に仕事をしてきた彼は、出張先で過ちを犯した。どちらが誘ったのかはわからないままだが、そのとき彼はレネッタの母親と恋に落ち、それを吹っ切ることができないまま、家の都合で良家の女を妻として娶った。

その結婚から数日後に、密かにレネッタの母親を監視させていた者から、彼女が女児を産んだという知らせを受けた彼の顔が、未だに忘れられない。

彼の妻は彼よりも位の高い貴族の令嬢であり、その上結婚してすぐに別の女に産ませた子供を養子として迎えるなどできるはずもなく。

違う土地に引っ越したということだけを聞いていた。

「愛のない結婚なんてするから、そんな事になったんだ。まあ今さら言ったところでどうしようもないが」

しかし運命とは妙なもので、彼は彼女と出会ってしまった。

正確には、精霊院に凄い新人がやってきたという噂に興味を持ち、見に行ってしまったというのが正解だ。

一目見てわかったに違いない。そして同時に、自分の娘が男として振舞っているのを見て、彼は何を感じたのだろう。

かといって彼がレネッタに彼女の出生を伝えれば、男と偽っていることが知られてしまう可能性があった。

娘の邪魔にはなりたくないと気を病んでしまった彼は突然職を辞した。

娘であるレネッタを後任の補佐官としたのは彼のためでもあったが、同時に彼女を守らなければと思ったからでもある。

精霊院の期待の新人がゲーテに目を付けられていると、イグルドが教えてくれた。まさか友人の子供で、しかも娘だとは思ってもいなかったのだろう。本来なら話してはならない話であるのに、イグルドなりに彼を心配したのか、彼には言わず、私にそれを教えてくれた。

「まあ、さすがはお前の娘だ。今では優秀な部下だよ」

公私混同であると自覚していたため不安はあった。わかっていたのは彼の娘であり、稀に見る力を持つ精霊使いであることだけ。育ちも貴族ではなく市井であり、貴族社会の中で補佐官としての業務をこなすことができるのかは正直不安だった。

しかし、最初は書類仕事などは不慣れであったが、今ではそれなりにこなせるようになり、礼儀作法などについてもちゃんと習得してくれた。

「だからレゲル君……ではなくレネッタ君が私の補佐官でなくなってしまうのは寂しいな」

まさか王太子殿下と結婚するとは、さすがの私でも予想できなかった。

「ところで、その本は何だ?」

イグルドが一冊の本を花束の横に置いていた。確かに彼は本が好きだったが。

「これか?レネッタに関する話をまとめてあるらしい。市井で流行ってるぞ」

婚約が正式に発表されてからまださほど月日は経っていないが、もうそんなものが出回っているのか。

「これ以外にもあるが、これが一番まともだからな。多少誇張はあるが、娘の活躍が読める」

「それは複雑な心境にならないか」

本好きとはいえどうなのだろうかそれは。まあ、イグルドなりの供養なのだろう。

「とにかく、お前の娘については心配するな。俺たちが味方をするし、そうでなくとも王太子殿下を味方につけている。彼女なら大丈夫だ」

まだ不安な箇所はあるが、可能な限り手助けはする。

彼女も彼女なりに幸せを守っていくだろうし、今の彼女なら新しい幸せを見つけて素直に受け入れられる。

「結婚式は3日後だ。お前の代わりに見ておく。そのときはまた、報告しにくるからな」


宰相様の補佐官ですが、なにか?

これで完結です。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

自分の頭に浮かんだ話を小説にしたいなと思い書き始めてかれこれ5年が経っていて驚いています。

1話とかを読み返すと今と文体が違って(・・?)となります。途中スランプというか違う話を考えていたら間がすごく空いてしまったり。

思えば5年間これのことを考えなかった日はありませんでした。キャラクターは勝手に動いて思わぬ方に行ってしまったり(まさか最後結婚して終わるとは書き始めた頃微塵も考えていませんでした)、書いてる本人がifとか二時創作的なことをしていたり。

自分の語彙量や自分で蒔いた伏線の壁にぶつかったりして大変だったこともありますが、書いている時は何だかんだ楽しくて、今は書き終えた達成感に浸っています。


今後は新しい話を書きたいというのもありますが、書ききることのできなかった完結後の話(アルのその後、レネッタの兄弟のその後、第2王子のその後等)を番外編としてちょこちょこ上げていきたいと思います。

その他、その後やどこか気になるキャラがいましたらメッセージや感想などで教えてください。可能な限り書きたいと思います。

番外編なので、糖度高めのもの(当社比)も書いてみたりしたいですね。


さすがに最終話ですのであとがきが長くなってしまいました。

1話1話が短めとはいえ276話までお付き合いくださり、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 帝国が関わって来るまでは凄く面白い物語でした。 [気になる点] 帝国が理不尽なことをしてきたのだから主人公が帝国を滅ぼして皆殺しにしていれば爽快で良かったのにと残念でなりません
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