俺から見たあいつ
パーティーなんていつ以来だろうか。
俺みたいな下級貴族の次男以下は当主にはなれないから、自力で稼いで生活するのが普通だ。
だから俺は他のやつよりは自信のあった精霊で精霊使になった。
ちなみに、精霊使いと精霊使の違いは国に認められているかいないかだ。国の試験に受かれば精霊使、個人のものは精霊使いと呼ばれる。
精霊使いは九割が才能、残り一割が努力と言われるくらい生まれつきの才能がものを言う。
そういう理由で、精霊使の試験は貴族、庶民関係無く試験を受けることができる。
俺はそれに受かって、ここ精霊院に来たときに初めてレゲルに出会った。
試験の班が違ったから試験の時に見てはいないが、すごい新人が入ってきたとその頃からあいつは有名だった。
現在は第二宰相様の補佐官で、殿下とも知り合いになっている。庶民からそこまで上がるのは並大抵のことではない。
そして今、あいつは俺にドラゴンを託して魔物と戦っている。
殿下とフェターシャ嬢を安全なところに誘導するように言われて今離れたところだが、殿下とフェターシャ嬢の目は戦ってるあいつに釘付けだ。
俺も援護するべきか迷ったが、俺の力では足手まといになるだけだ。それくらいわかる。
「あの方は大丈夫なのですか?」
不安げな瞳でフェターシャ嬢はあいつの方を見ている。
「あいつ……レゲルなら大丈夫です。負けませんよ」
俺はフェターシャ嬢を安心させるために言った。
両腕を攻撃したレゲルは、そのあと魔物の喉元に詰め寄った。
一気に大量の血が吹き出し、あいつの腕は血で染まる。
魔物はゆっくり倒れてもう動かなかった。
「やったのか?」
「まだ一匹残っています。まだ安心はできません」
俺は残った魔物に目を向けた。
氷で動きを止められている魔物に向かってあいつは一気に近付いた。
「なぜあの方は一人で戦っているのです?」
フェターシャ嬢は先程の魔物の最後を見て倒れかけ、今は殿下に支えられている状態だ。
「思いの外他の魔物相手に手間取っているようで……こちらまでこれないようです。それにこちらにはレゲルが居ますから、レゲル任せになっているのでしょう」
言わなかったが、あいつのことをよく思っていない貴族は多い。あわよくば相討ちにならないかと思われていそうで、俺は自分のことでもないのに寒気がした。
精霊の攻撃である程度削られたと思っていたが、まだ十分動けるようで魔物は近寄ってくるあいつに向けて何度も腕を降り下ろしている。
あいつはそれをギリギリのところで避けて、その腕に少しずつではあるが傷を負わせている。
精霊の攻撃で怯んだ隙に、あいつはまた魔物の喉元にナイフを突き立てた。
魔物が倒れるのを見届けて、俺は血塗れになったレゲルの方に走った。
血で真っ赤に染まっていて、傷口などは見えない。
他の魔物もだいたい片付いたようで、せわしなく動き回っていた騎士や精霊使いの動きが緩やかになる。
「大丈夫か!?」
俺はぼんやり立っているレゲルに声をかけた。
「ああ、殿下達とレルチェは無事か?」
レゲルは血に染まった上着を脱ぎながら言った。
上着の下は染み込まなかったようで汚れてはいない。肩のところが裂けているだけだ。
「レルチェはここだ」
俺はレゲルに俺の肩に乗っていたレルチェを見せた。レゲルはレルチェに触れようとしたが、その手が血塗れであることに気付いて手を水精霊に洗わせた。
「ズボンはここでは替えれないな……それより他の魔物は?」
「もうほとんど倒した。お前は休め」
「肩以外に怪我は?」
殿下が横にいた。フェターシャ嬢も一緒で、心配そうな目でレゲルを見ている。
「他はかすり傷程度です。それよりも殿下は他の怪我人の手当てをお願いします」
魔物はレゲルが相手していた二匹だけではない。怪我人……下手すれば死人も出ている可能性もある。
「わかった。レゲル殿は休んでいろ。フェターシャさんは……」
それまでぼんやりレゲルを見ていたフェターシャ嬢は殿下の声にはっとしたように殿下の方を見た。
「私はこの方を見ています。レゲル様は私達を庇ってお怪我をなさったのですから」
その時俺は気付いた。
フェターシャ嬢のレゲルを見る目が他の男に向けるものと違うことに。




