離宮のパーティー4
私は数名のご令嬢と踊りつつ、時々殿下の方を見ていた。
いい雰囲気になっている気がする。
二人ともにこやかだし、ステップも軽い。
私は今のところ三人のご令嬢と踊った。連続だったのでそろそろ疲れてきた。私にはあまり体力がないのだ。
「申し訳ありません。少し休憩しますので……」
私は少し疲れたように微笑んだ。貴族ともなれば人の顔色を窺うのは自然と得意になっているはずなので、それのわかる賢いご令嬢は少し身を引いた。
見ると、殿下の方もダンスを中断している。
フェターシャ嬢と少し離れたところで談笑している姿はそれだけで絵になっていた。
王太子殿下がすごい不満そうな顔で殿下の方を見ているが、主催者ということもあってか話の輪から抜け出せないでいるようだった。
私はメイドから適当にジュースのグラスを受け取ってそれを持ってそれとなく殿下の方に移動した。
ああいう雰囲気の時に話に割り込んでいくのはマナー違反とされていて、国の見本となるべき王太子殿下がそんなことすればいろいろ問題になりかねない。
しばらくすると、アルがやってきた。
「いい感じの雰囲気だな」
アルは殿下とフェターシャ嬢の方を眺めひとりでうなずいた。
「確かにお似合いだな。ああして上流階級には美男美女が増えていくんだろう」
「まっ、このままだったらいいか」
殿下とフェターシャ嬢はまだ朗らかに談笑している。
「クラヴィッテ殿下とフェターシャ様がよい雰囲気ですなぁ」
「とてもお似合いな二人だ」
そんな会話がちょこちょこ聞こえてくる。端から見てもよい雰囲気のようだ。このまま殿下が進んでくれれば丸く収まりそうだな。
ふいと殿下がこちらに視線を向けた。精霊にでも教えてもらったのだろうか。
殿下はすぐに視線を逸らしてフェターシャ嬢と話を始めた。精霊に教えてもらったからこっちを見ただけだろうか。なんにせよ気にしない方がいいか。
もう一度殿下を見ると、殿下と目が合った。
殿下はなぜか私を手招きしている。今のタイミングからして、殿下が呼んでいるのは私だろう。
「殿下が呼んでいるっぽいから行ってくる」
「俺は行かなくていいか?」
「私を呼ぶということは精霊関係だろう。アルも来るか?」
フェターシャ嬢が近くで見れる……とは言わなかった。
アルは結構面食いなところがあるのだ。ああいう整った顔立ちは確実にアルの好みだ。せっかくだから近くで見たいだろう。
思った通りアルは迷っていた。どうせなら見たいとか思っているんだろう。
殿下を待たせるのは悪いので、私は殿下の方に歩いた。後ろを慌てた様子のアルが付いてきたのがわかる。
やっぱり見たいんだな。
「先程話をしていた第二宰相殿の補佐官、レゲル殿です」
二人とも確実に身分が上の方なので、私は恭しく頭を下げた。
顔を上げて、ちらりとフェターシャ嬢の方を見た。
近くで見ても、というか近くで見た方が綺麗な人だ。
「初めてお目にかかります。カーレル第二宰相付き補佐官のレゲル・ゲナルダです」
「お会いできて光栄です。フェターシャ・フーレントースと申します」
普通の男ならこの挨拶だけで陥落してしまいそうだ。初々しい所作と微笑み。男を引き寄せる要素でできてるんじゃないだろうか。
アルに至ってはもう完全に固まっている。
「精霊のことで聞きたいことがあるそうだ。精霊に関しての知識はあなたの方が豊富だろう?」
確かにその通りだ。こういうときに変に格好をつけようとするよりも、こうして確実な知識を持っている人間を素直に紹介される方がありがたいし、盗られたりしないという自信も見える。
殿下はそこら辺もよくわかっているようだ。
なのになぜ今まで告白する勇気がでなかったのだろうか。知識はあるっぽいのに。
「精霊に関して……ですか」
フェターシャ嬢はおずおずと口を開いた。
「実は最近精霊が……」
その時だった、最も盛り上がっていた会場の中心で異変が起きた。
和やかな会話や笑い声で溢れていた会場の中心から、不安げなざわめきと女性の小さな叫び声が広がっている。
「何事だ!?」
殿下が叫んだ瞬間、大きい影がいくつも森の中から飛び出してきた。
この離宮は正面にしか壁がなく、自然を楽しむという理由から裏側は小さい柵の向こうに森が広がっているだけという造りだ。
代わりに騎士が守っているから今まで不審者に侵入されたことはないらしいが。
とにかく、そんな離宮に森の中から侵入してきたのは、巨大な猿型の魔物だった。




