《ゆづ、異界に立つ》1/ ゆづ、今宵は大惨事
感謝する。
オレの飢えは今、満たされた。─────『転生したらスライムだった件』
〝ガキンッ〟
「あだっ!」「…………え?」
マッチも中程、残すところ6チームになり予断を許さないフェーズに差し掛かった時のことだった。
〝ガキンッ〟
「い゛っだい!」
味方チーム二人のうちの一人、ガッチマンロボの方が遮蔽に隠れて敵と撃ちあっている私を後ろから拳で殴り始めていた。
「え、」「え?」「なんか、」「痛い…………」「なんか………」
〝ガキンッ〟
「あ!いだい!」「なんか!」「殴ってくる!」「旦那様方たち助けて!なんか、」「なんか殴られるぅ~泣」
〝ガキンッ〟
「あだぁっ!」
コメント欄に《バッテリーが欲しいんだよ》というものがいくつかあったので一つ後ろの遮蔽までアビリティで飛んで、かがんで身を隠したままインベントリを開いた。
「…………うん、」「うん」「《戦闘中バッテリーが欲しくなったらそうする》、ほうほう………」「《試合中最も早く簡単に意思疎通する方法だから》」「なぁ~るほど、そういうことだったんだね」
地面にバッテリーを二つ放ってピンを指すとガッチマンロボが即座に飛んで来てバッテリーを二つとも拾って、
〝ガキンッ〟
「いやぁっ!」
今度は正面から突きを入れてきた。
「え、」「えっ」「バッテリーあげたのに、」
〝ガキンッ〟
「ひぃっ!」
《一日一万回wwwww》《これが感謝の正拳突きwwwww》などと吹き荒れているコメントの中に《しゃがみボタン連打してみ》というそれらしいものがあったので従ってみることにした。
「…………え、こ、」「こう…………?」
〝カチャカチャカチャカチャ〟
「…………これ?」「これでいいの?」
〝ガキンッ〟
「あっでぇっ!」
そこでいずれかのチームが放ったウルトの空爆ミサイルが私とガッチマンロボと、チームごとを巻き込んで試合終了、というのが今日の成果だった。
一年に一度の箱内大型イベント〝まぼスタ対抗 Economic Paper is Brownリーグ大会〟での出来事。
この日のために3カ月を、私は慣れないシューターゲーの練習に費やしていた…………
「…………なんか、」「なんか笑」「微妙な結果に終わっちゃったけど笑」「まぁこれも一つの結果として受け止めて…………」
正直泣きそうなのをこらえつつ必死に進めているCパートに《可愛い》《お嬢結婚して》《今月メン限まだ?》等のコメントが並ぶ。
「まぁ、次?」「…………は、」「年始のマリカかな?」「多分」「それまでまた練習して、」「…………次は、ああいう悪ふざけみたいなのはないように、」「運営さんにも言っておく、ので…………笑」
《はぁ、かわいい》《3D早くもらえるといいね》《今日もゆずっキュン☆》《メン限まだですか?》…………………
「…………………」
みんな、何考えてこれを観てるんだろう。同接は2600人……………今この配信画面を少なくとも2600人が2600台の端末で観守っている状況な筈なのに、その中に私と会話が噛み合ってるコメントが一つもない。
「……………じゃ、今日はこのへんで」「おつゆずでした~」「今日はありがと、まった観ってね~」
〝ブツッ〟
「…………………」「……………ふゥ~うゥ、」
〝ドサッ〟
つい最近新調したベッドに、仰向けに身を投げ出す。
「…………………」
配信を切った解放感で、電灯を見上げる目がチカチカする。
「(…………………疲れた)」「(…………………もうやりたくない、 Economic Paper is Brown、)」「(当面は…………)」
私は今回の大会には結構本気でかけていて、この3カ月は配信でもプライベートでもEconomic Paper is Brown一色の毎日だった───────こういう銃を撃つ系(というか実は激しく動き回る系)のゲームは全般的に苦手だけど、それでもゼロから始めて結構手応えを感じつつプレイ出来るぐらいまでには成長した。
本気でやって本気で勝つ、もしくは負けるのが視聴者さん達を一番楽しませる方法だと思ったからやったことだったけど、ガッチマンロボ………………もとい、洞吹ゲドウ先輩にとってみればそれは違った感じだろうか。
「…………………」「はぁ、」
ごろり、と横向きに寝返りを打ってスマホを取り、もう一時間以上も前から放送中だったジル様のポケカを剥く配信を点けた。
《ヒャア、みんな見てぇ?グレッグルのこのポォズぅ~wwww》《〝こっち見てんじゃねぇ!〟みたいな、ねぇ?笑》《じゃあ、次……………》《あっ、またグライガー……………》《あ、パチリスだぁ!EXはパチリスでした、みんなぁ~》《じゃあ残りの一枚は…………?》《あっ、グ、グライガー…………》《ほんと多いな、今日グライガー…………》《えっと、じゃあ、》《次、のパック…………》《あ、スコルピだぁ~、、、、何これ、あんまり見たことないポーズ……………》《え、これグライガー?》《グライガーの特殊ポーズカード…………?》
「…………………」「…………………」
ジル様は、ポケモン関連の配信の時だけ声色が変わる。
もう結構いい歳の大人なだけあって普段は落ち着き過ぎな程に落ち着き払っているのに、
配信でポケモンを扱う時だけはモデル越しにでも分かるぐらいに口角が上がって、幼女のように声がピョンピョン跳ねる。
それがもう、
もう本当にとっても可愛い。
そう本人にお伝えしたいし、同じようなことをDMで何度かお伝えしたこともあるけど、返ってくるのは事務的な社交辞令とお返しのお世辞ばかり……………
実際にお会いして一緒に仕事をしたことも数回あるけど、何を言っても全部愛想笑いでかわされて、天気の話レベルの世間話で時間一杯を潰されてしまう。
「…………………」「…………………」
《ま……………》《また……………》《また、グライガー……………》《…………………》
「…………………」「…………………」「ふふ、」
嫌われてるのかな、と最初は思ったけど、どうも仕事仲間相手には一線を引いて、一律でそういう付き合い方を心掛けているみたいで………………同期のお二人とか、デビュー時期が近い先輩方は別としても、ここ数年でデビューした私達みたいな新参期生はみんなジル様との距離は遠い。
「…………………」「…………………」
《………………ひ、》《ひっひっひっ……………》《当たり過ぎでしょう、グライガー………………笑》
「…………………」「……………ふふ、」「ばーか…………笑」
《もう……………》《こうなったら、あれか》《作っちゃうか、〝グライガーデッキ〟笑》
「…………………」「…………………」
《………………え?》《〝弱過ぎる〟…………?》
「………………ふっ、」「………………ふふ、」
《当たり前だよ!笑》《知ってるよ!笑》
「は、はは、」「はははは………………」
配信画面右下で頭を振っているジル様のお顔を指でちょんちょん、と叩くと、さっきEconomic Paper is Brownで溜めたストレスがじわりと溶けていく感覚があった。
学生時分からよくやっている癖だった。行きたくもない学校に行く電車の中でちょん、つまらない授業の合間に教科書の影に隠れてちょん、爆音で喋くるスクールカースト上位グループの傍でちょん、自己嫌悪で死にそうな夜にベッドの上でちょん、………………
……………え?
指で触る代わりに、
キスをしたこと………………?
あります、それはもう。
もちろんです、はい。
あの頃は性的に暴走していましたから。
なけなしのお小遣いをはたいて買ったグッズにも
口は軒並み付けてます。
むしろ………………
いませんよ?うちの箱の学生ファンで、推しのグッズにおイタをしていない子なんて。
そういうものです。
そういう嗜み方が前提の箱なんです、うちは。
「…………………」「…………………」
《いや……………》《許してください、それは》《出来ません、ガチで〝グライガーデッキ〟を組むのは》
「…………………」「…………………」「うん、」
《え……………?》《〝今度の箱内ポケカ大会はグライガーデッキで〟…………?》
「…………………」「……………えーと………?」
《嫌だ!許して!》《私にだって……………》
「…………………」「…………〝アンケートはよ、〟っと…………」
《私にだって純粋にポケカを楽しむ権利はある!》
ジル様には、〝私がVTuberになった理由〟は、ちゃんと伝えてある。
〝私はあなたになりたくてここに来た、〟と…………………
嘘。
本当は〝少しでもお傍にいたかったから〟だけど、引かせたくなかったから……………
〝昔からよく聞いてて、それで…………/////〟
ぐらいに変換してだけど、それでも〝あなた切っ掛けで私はここに来ました〟とはちゃんと伝えてある。
デビュー当初から公言していたそれを受けて初対面時ジル様が私に対して言ったのは
〝申し訳ない…………〟
だった。
………………………………
………………………………
………………………………〝申し訳ない…………〟
何だそれ。
〝愛しています、〟って言ったつもりだった、私は。
それか
〝私、あなたのせいで人生狂わされちゃいました〟〝どうしてくれるんですかー!〟って。
それか
〝あなた、一人の女の子の人生壊しちゃったんですよ…………?〟〝自覚、あります…………?〟って。
それに
それなのに
それに対して〝申し訳ない〟って………………
抱いた後に謝るのと変わらないと、私は思う。
正直、〝配信〟っていう仕事が思っていたよりずっと空虚でスカスカで、とても一生は続けられなさそうなことや、来たくてたまらなかったこの箱の空気が自分に合わないことより
ジル様に受け入れてもらえていないことが一番悲しい。
私だってもう子供じゃないから分かってる。大人の世界では無用な期待を周囲に向けるのはマナー違反で、しちゃいけないことなんだって。
でも、
それをすっと飲み込める程私はまだ大人でもない──────
〝カンッ、〟
「ぐしゅ、ジルしゃま…………………」「…………………?」
寝転んでいるベッドの足方向、PCモニターの後ろの窓に硬い何かが当たった音がした。
「…………………」「…………………」「………………?」
多分、虫………………カナブンみたいな大きめの甲虫が当たった音だった。
この辺りは東京にしては緑が多くて、すぐ近くには結構広めの公園があったりする。
今みたいな暖かい季節はド田舎でしかない私の地元より、何なら種々多様な生き物を見かけるぐらいだった。
「…………………」「……………どーして分かってくれないの、ジルしゃま…………」「こんなに愛ちて」
〝カツンッ、〟
「りゅ………………」「………………っさいな」「…………………」
マンション三階のこの部屋の窓から改めて見る夜景は、遠くに見えるビル群に彩られて壮観だった。
「…………………」「…………………」
活動歴が増すごとに今の生活に感じるもやもやも増え続けていたけど、夢だった仕事をやりながらこんな場所に住めている現状を思うと全て贅沢な悩みなのかも、という気にもなってくる。
「…………………」「………………んっ、は、」「ジルしゃま、」「ペロペロペロペロペロ…………」
〝カンッ!〟
「!」「…………………」「…………………」「え?」
絶対に、
虫ではなかった。
明らかな意志をもって、こちらに呼びかける意図で誰かが何かを窓にぶつけてきているのが分かった。
「…………………」「………………え、怖」
〝カンッ!〟
「………………!」
今度は窓を警戒していたので飛来したものが何なのかがはっきり分かった。
石だった。
アスファルトと同じ色をした小さな小さな小石が下方向から投げ上げられ、窓にぶつかって落ちていくのがはっきりと見えた。
「えぇ……………」「何ぃ…………?」
恐る恐る窓に近付いて桟を遮蔽にする意識で目だけを出して下を覗いてみると、マンションの中庭部分、私の部屋の窓から三階下の地面に小さな人影が立ってこちらを見上げているのが分かった。
「ひぃぃ…………」「何だよ、誰…………?」
勇気を振り絞って目を凝らして見てみると、それは神酒間巫人修道院長だった。
「…………………!」「あぁ、」「えええ…………?」
思いの外小柄な体躯に長く伸ばした黒髪のロングウルフ(本人は姫カットだと言い張る)がとてもプリティな神酒間巫人修道院長がそこに立っていた。
「えぇ……………」「何でぇ…………?」
こちらの頭が見えたのか、腕を折り畳んで手のひらをこちらに向け、お上品に小さく手を振っている。
目を細めてにこり、と口を開けて笑うあの独特な、とっても可愛い笑顔も添えて……………
少し見とれてから慌ててがらり、と窓を開けて声をかけた。
「修道院長…………?」「え、どうして……………」「どうされたんです?こんな、所に……………」
このマンションはまぼスタのライバーが10何人とかいう規模で住んでいる実質的な社宅だけど、神酒間巫人修道院長みたいな大スターはみんなもっと都心の良い部屋に一人で住んでいる。
詳しくは知らないけど、修道院長の家はもっと都心の方に何駅も行った場所にある筈……………それが、どうして。
「…………………」「…………………」「え?」
こちらの声が聞こえないのか巫人さんはさっきまで手を振っていた手でこちらに向けちょいちょい、と手招きをして、同時に反対の手に持っていた、どうやらレジ袋らしい白色の袋を顔の横に掲げた。
「…………………」「……………あー!」
どうやら飲みの誘いのようだった。手招きをやめた手で指差す袋は二人分の飲料+おつまみぐらいの重量分垂れ下がっていて、いかにもそんな感じだった。
〝上がってきますか?〟と声をかけようとするとマンションのエントランスとは逆方向を指差して、中庭の通路をさくさく歩いて行ってしまった。
「…………………」「…………なぁーるほど、」
多分〝外で飲もう〟という意図だった。まぼスタでは結構恒例になっている飲み方で、先輩方とも公園のベンチに座って軽く飲んだことが何回かあった。
「…………………」「急げっ、」
とっくに終わっていたジル様の配信画面を切って、鍵だけを持って急いで部屋を後にした。
──────────────────────────────
エントランスとは逆方向の出口……………………つまり裏口から鍵を開けて出ると、周辺に人影はなかった。
裏通りではあるけど車二台が余裕をもってすれ違える程に幅広で、見通しのいいそこに巫人さんの姿は見当たらなかった。
「…………………」「えぇ……………?」
エントランスの前を通る大通りに繋がる方向を見ても巫人さんの姿はなく、反対方向を見ると………………
「…………………」「いた!」「いたいた……………」
小柄な女性の後ろ姿が、両手を後ろ手に回してお尻のところでレジ袋を揺らしながらゆらゆらと歩いて行くのが見える。
街灯の下を通過すると長い黒髪が揺れているのがはっきりと確認出来た。
「ひゃあ、速い……………」
三階から降りてきたことを考えても巫人さんは結構遠くを歩いていて、多分私の眼下から歩き去ってから一度も立ち止まっていない。
「急げ急げ……………」「巫人さん……………」
小走りで巫人さんを追いかけながら、〝考えてみれば変な状況だよな〟と思った。
巫人さんクラスの箱のトップ層はみんな揃ってもっと都心の真ん中の方に住んでいて、この辺りで見かけることは基本的にない。このマンションは他にもうちのライバーがたくさん住んでいるから遊びに来ることも無くはないのかも知れないけど、それにしてもあの巫人さんがピンポイントで、私…………………ジル様と同じく憧れの人として以前から名前を出してはいた方だけど、収録やイベントで数度お会いした以外で交流は特になかった。
「巫人さん、」「足、」「速っやい……………」
悠々歩きを小走りで追いかけている筈なのに、巫人さんとの距離は全く縮まらなかった。
マンションの裏通りで最初に見かけた時と同じく、目算で二ブロックぐらいの距離を保ちながら街灯もまばらな暗い道をゆったりと歩いていく。
「はぁ、」「ひぃ……………」「巫人、さん……………」
でも巫人さんに追いつけないことに、または巫人さんとはぐれてしまいそうなことに、私は全く焦りを感じていなかった。
何故なら巫人さんが向かう先にはこの辺りで唯一の森林公園があったから。
東京23区では珍しい規模のその公園はマンションに住むまぼスタライバー達の秘密の集合場所になっていて、そこのベンチに座ってみんなで飲んだり話し込んだりすることが度々あった。
多分巫人さんもその輪に加わったことがあったんだと思う。勝手知ったる風で公園までの見慣れた道を、迷うことなく進んでいく。
「も、」「もう……………」「はぁ、」「いいや……………」「ふう、」「どうせ、行く先は」「一緒、」「ひい……………」
こちらを一度も振り返ることなくすいすいと進んで行ってしまう巫人さんを、私は走って追いかけるのをやめた。どうせ行く先は公園なんだから、そこで合流すればいい。
「はぁー巫人さん、、、、、」「強いわ、やっぱ、、、、、」
巫人さんは陰キャの虚弱児の引き籠り体質を自称して負け犬キャラを演じていながら、実は決め所ではしっかり決めてくるやり手だった。ライバーとしての成績は箱内の女性ライバーで圧倒的一位、ゲーム大会にしても3D収録の体を使う系の企画にしても、(成績はともかく)美味しいところはちゃんと持って行き、誰よりも撮れ高を量産する人だった。
「う゛っ、」「う゛ぇーーーーーウ、」「ア゛っ、ぎ、」「ぎも、」「ぎもぢ、悪い゛………………」
多分人知れず体も鍛えていたんだと思う。ライバー業は室内で行う仕事なだけにみんな体力を落としがちだけど、〝腹から声を出してキレ良く喋る為にも体力訓練は是非に〟、というのは社訓、もとい事務所訓として日頃社員さん達が口酸っぱく言っていることだった。
私は、もちろん体は全然鍛えていなかった。
学生時分からそもそも運動は出来ないタイプだったけど、この仕事を始めてからその頃より更に体力が落ちているのは明らかだった。
「はぁーあ、」「あー……………」「う゛っ、、、、」「こりゃ……………」「飲めない、わ……………」
巫人さんが持って来たものがソフトドリンクか、でなくともアルコール度数の低い酒であることを願いつつしばらく歩いたところで顔を上げると、さっきまでより少しだけ距離の詰まった位置で、巫人さんはこちらを向いて立ち止まっていた。
「あー、巫人さん……………」「待ってぇ……………」
この周辺では一番大きな交差点を渡った先で、明々と灯る街灯の下に立ちにこにこと笑いながらこちらに向けて手招きしている。
おぼつかない足でふらふらと近付いて行くと頭上の赤信号を指差して止まるように、とハンドサインで示した。
「へ、へへ………………」「はぁーい………………笑」
信号を待ちながら手を口に当てメガホンにして〝巫人さん、それ、お酒です?〟と訊くと、また聞こえないのか目を細めてにこにことしたままちょんちょん、と赤信号を指差し続けている。
「へへ、巫人さん………………」
ジル様に次ぐ憧れの人の突然の名指しに、私は喜んでいた。
ジル様同様かそれ以上に私の告白に興味を示さなかった巫人さんがどんな話をしてくれるのか、公園まであとたった数十メートルの距離が待ち切れない思いだった。
信号が青になると同時に指差しから手招きに変わった巫人さんの手を見て歩き出した私の目の前を、一台の車が猛スピードで横切った。
「あ!」「っぶな……………」
軽トラだった。一番オーソドックスと言うか、正に仕事用と言うか。
まあ、言ってしまえば一番ダサいタイプの、白の小さな軽トラが私の目の前をかすめて行った。
夜中だからいいと思いやがって、コノヤロー、とぶつぶつ思いながら、
私は跳ね飛ばされていた。
ぎゅんぎゅん、と独楽のようにスピンする体の動きをはっきりと感じたし、その間体は確実に宙を舞っていた。
そんなに高い位置を舞っていたわけではないかも知れないし、周りから見ればその場でただ派手にこけた程度にしか見えなかったかも知れない。
それでも私の足はしばらく地面に着いていなかったし、体は確実に横方向に何回転かはした。
信号を無視して思い切り人をはねた割には良心的なドライバーだったのか、軽トラは私がアスファルトにうつ伏せに〝べちゃり、〟と着地すると同時に強烈な急ブレーキを踏み、それとほぼ同時に
「おーーーっい!」「大変だよ!」
と叫ぶ男性の声が今軽トラが出した急ブレーキ音とは逆の方向…………………つまり今軽トラが走って来た方向から聞こえた。
軽トラの扉が〝バンッ!〟と閉められる音と同時に何人かが走ってくる足音が反対側から聞こえる。
「おいおいおいおい、」「お姉さん?お姉さん!」
「おいあんた何やってんの!」
「いや、違う違う、今この子赤だったのに思いっきり突っ込んで来て……………」
などと口々に騒ぐ声に頭を痛めながら、私は全体の部位中唯一動く目だけで巫人さんの姿を探した。
眼球を思い切り上に向けてみると、いずれかのおっさんが履いているベージュのズボンの脛の向こうにこちらを向いて立ち尽くしている巫人さんの御御足が見えた。
アイコンタクトで〝すみません、お世話かけます〟〝あと、よろしくお願いします〟と伝えようとして満身創痍で顔に視線を移動させると、巫人さんは口を開けて笑っていた。信号機の下で私を待っていた時と同じ顔で、家の窓の三階下の中庭に立ってこちらを見上げていた時と同じ顔で、口を開け、目を細めて笑うあの独特な笑顔で、私を中心として取り囲む人の一団を見ていた。
「(………巫人さん、)」「(じゃない………)」
湯船につかるような暖かな感覚に包まれる中
「(……………血だな、)」「(結構、出てる………………)」「(大丈夫…………多分)」「(死ぬ量じゃない、きっと………………)」
などと考えながら見ていると、巫人さんによく似たそいつは笑顔のまま私に向かって手招きをした。
「(…………………)」「(………………あれ?)」「(よく見たら……………)」
手の甲で相手を追い払う欧米式の〝向こうへ行け〟のジェスチャーとも似てるな、と私は思った。
白河ゆづ…………栞葉るり
ジル・スレイトアール…………リゼ・ヘルエスタ
神酒間巫人…………月ノ美兎
ゆめまぼろしスタジオ…………にじさんじ
ガッチマンロボ…………パスファインダー
洞吹ゲドウ…………None




